24話 悪役令嬢総モテというやつでは?
占いの館に戻り準備をしていると、カーテンを開けて誰かが入って来た。まだ布を顔にかけていない。慌てて隠れようとしたが、お客の顔を確認して私はそのまま立ち尽くしてしまった。
きょろきょろと室内を見渡しているのは、先ほども見た栗色の髪、ケイティだった。
「ケイティ……?」
「シルヴァレーン様! 私……私……!」
私の声に反応してこっちを見たかと思えば、勢いよく飛びつかれた。落ち着くように背中を撫でながら、私はケイティに椅子に座るように促す。
彼女の目はさっきよりも赤く腫れていた。私は裏に行ってハンカチを濡らし、ケイティに差し出した。目を冷やし、少し落ち着いただろうケイティの前に腰を下ろす。
「ケイティ。どうしたの?」
まさか、フィリップ殿下が好きになったとかの相談だったりする? アウレリア様に厳しく何か言われたみたいだし、それで傷ついてるとか?
私の声にケイティは顔をあげてうるっと目を潤ませた。
「私、私……フィリップ殿下とアウレリア様の仲を取り持ちたいの!!」
目が点になるとはこのことかしら。驚きすぎて、一瞬頭が真っ白になった。どうして、なんで、その結論に達したのかしら?
「ちょっと待って、アウレリア様にひどい事言われたんじゃ……?」
「え? そんなことないですよ! アウレリア様は私が令嬢としてのマナーや仕草をしらないからそれを教えてくれただけです。とても優しい人です!」
ケイティはきょとんとした表情をしてから、私が勘違いしているのを理解したのか、熱弁を奮ってくる。
今度は完全に理解した。これは、悪役令嬢総モテというやつではないだろうか。ヒロインもべた惚れしてるやつ……!
「アウレリア様見た時に、すごく綺麗で見とれちゃって」
わかる。
「仕草もとっても美しいじゃないですか」
わかる。
「それでいてキリっとしながら注意してくれるんですよ、推すしかないじゃないですか、アウレリア様には幸せになってほしいんですっ!」
わかる。そこまではよくわかる。でも、フィリップ殿下が出てくるのがわからない。フィリップ殿下に協力を要請されたとかかしら。総モテだろうし、フィリップ殿下もアウレリア様へ気持ちがあるとか。
「わかるけど……何故フィリップ殿下との仲を取り持ちたいのかしら?」
「だってお似合いじゃないですか! それに、この小説! 絶対、アウレリア様のことですよ。隣国のせいで引き裂かれるなんて、そんな……切なすぎるんです!」
ケイティが取り出して掲げている本は、ご令嬢たちの噂の的である本だった。
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