1話 前世の記憶を取り戻したあの日
飛び起きた。ベッドの上だった。よく思い出してみれば、ここが今日から通う学院の保健室だとわかる。
それよりも気になることがある。だって、まだ心臓がバクバクといっている。
倒れる前に見た女性を私は知っていた。サファイアの長い髪が靡き、瞳は日の光で虹色に光る彼女のことを私は、前世で知っていた。
彼女の名はアウレリア・ロセリウス。世界が滅びる原因になった侯爵令嬢だ。
「はぁ……」
ため息しか出ない。頭が混乱する。今の情報を整理しなきゃ。
私はミシェル。辺境伯爵令嬢だ。そして前世の記憶を断片的に取り戻した。よし、前世の記憶も今世の記憶も両方ある。この世界の常識なんかを学びなおさなくていいのは良かった。それに、アウレリア侯爵令嬢がいるということはこの世界は前世のあたしがハマっていたRPGゲームの世界だ。知らない世界より数倍ありがたい。
でも、でも――
「よりによってなんでゲームの始まる前なの……?」
あたしがアウレリア侯爵令嬢の映像を見たのは、ゲームのオープニング映像だ。アウレリア侯爵令嬢の死が原因で魔王が復活し、世界は混沌に包まれる。ゲームの主軸はその後で、少なくなった人間が世界を取り戻そうと仲間を集めて旅をするRPGゲームなんだよね。
この辺り一帯は魔王復活で確実に死の海、逃げるとしても生き延びた人がいたのは聖域の森だし、普段入ったら捕まる。よくて追放、悪くて打ち首ね。
「詰んでるんだったら、前世の記憶取り戻さないで、このまま薄幸の美少女として死にたかった……」
視界に入る自分の髪を指でいじるとさらさらした。色素薄いのよね、今世の私。銀髪に淡い紫の瞳で、運動もしてないから細いし、引きこもってたから肌は白いし、なおかつ顔がいい。前世のあたしは日本人で黒髪黒目だったから、なんだか落ち着かないや。
「はぁ……」
でも死にたくないな。前世での記憶は仕事明けの三連休に寝ないでゲーム三昧、クリアできた達成感に任せてピザと炭酸ジュースでお祝いしたところで途切れている。仕事して二年、これからって時の若い身空で死んだってわけ。
今世だってこれからだったのに。辺境から勇気を出して王都に来たのに、下手したらもうすぐ死ぬってことでしょ?
でも、生きることを諦めたくはない。
ガラっ
体が跳ねて思わず音がした方を見た。扉を開けたのは栗色のふんわりとした髪を緩く編み込み、大きな琥珀色の目が印象的な少女――
「ケイティ……」
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