145話 魔女ミシェル
今日は、差し入れを持っていく日だ。城内を歩いて、ライオネル殿下の執務室へ向かう。久しぶりに会える。嬉しい。
ドアを開けると、大きな声が耳に飛び込んできた。
「ミシェルを隣国へ渡せというのですか!?」
え? 私を? なんて?
入り口で思わず固まってしまう。
「ミシェル!」
必死に抗議していた様子のライオネル殿下が、私のことを見つけると慌てたように口元を抑えた。彼の前には困ったように眉尻を下げているフリィップ殿下が立っている。
二人とも自分からは話そうとしない。私は知りたくて口を開いた。
「どう、いう……ことですか?」
思ったよりも引き攣った暗い声が出る。頬も引き攣っていることだろう。動揺で、目の前がちかちかする。
「……シルヴァレーン嬢、心して聞いてほしい」
「兄上!」
フリィップ殿下は話すことを決めたみたいだけど、ライオネル殿下は諦めきれないのか大きな声を出す。フリィップ殿下はライオネル殿下へと向き直った。
「レオ、彼女は当事者だ。いつか話さなければならない。早いに越したことはない」
「しかし……!」
「聞かせてくださいっ」
食い下がるライオネル殿下に、私は自分の意思を伝えた。
聞かなきゃ。何が起こったのか。逃げたくて足が震える。きっと嫌なことだ。何か悪いことが起きたのだ。
「最初から話そう。私たちは、今回の首謀者について突き止めた」
なんですって!? 口元を抑える。
だって、今までわからなかった裏で糸を引いてる首謀者を見つけたというのだ。悪い情報じゃないの……?
「裏で糸を引いていたのは、ノクタウリスだった。宰相がすべての証拠を集めてくれたんだ」
ノクタリウス様だったのね。やっぱりゲームで主役級の人物が裏で糸を引いてたという方が納得感がある。
でも、ノクタリウス様と私になんの関係があるというのかしら。目を瞬いて、私はフィリップ殿下を見た。
フィリップ殿下続ける。
「判明した時には遅くてね、ノクタリウスは隣国へ逃亡していた。君に言い捨てたあの日、すでに逃亡してたみたいだ」
私を魔女扱いしたあの日ね。少し落ち着いて来て、前にノクタリウス様に悪態つかれたのを思いだした。アウレリア様が顔落ちした時のことだ。
「それでね、隣国で噂が広まったんだ」
「アウレリア様の……?」
ついに広まってしまったの? どくんと大きく胸が波打つ。
アウレリア様の噂が広まったとしたら、隣国が攻めてくるのも時間の問題だ。
「それもある。けれど……君の、シルヴァレーン嬢の噂も広まっていてね」
「私の、ですか?」
予想外な言葉に、喉が詰まる。噂というだけで、イヤな予感がする。アウレリア様の噂で世界が滅亡したのだ。
「奇妙な力でアウレリアを唆した魔女、または悪魔。と」
「それって……!」
「ノクタリウスの仕業だろうね。それで、君にはもうわかると思うけど、隣国が交渉を持ちかけて来た」
「もしかして……」
ゲームではアウレリア様を引き渡せというものだった。でも、今は噂が違う。アウレリア様はいない。そして、噂の的は私。誰だってわかる。
「アウレリアがいなくなった原因を作った魔女、ミシェルの首を差し出せと」
フィリップ殿下の言葉に頭がくらくらした。私が、私が隣国に?
「行ったら、どうなるんですか?」
首を差し出せといわれているのだから、わかっている。のに、確認したくなる。怖い。聞きたくない。
「処刑と聞いている」
どっと胸が鳴った。私は踵を返していた。
「ミシェル!」
止める声も聴かずに走り出す。逃げなきゃ。私は、あたしは、死にたくなんかない。
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