136話 俺はお前に二度恋をした
「……好きなのは幼いあたしでしょう?」
声が震えた。私は取られた手を振りほどいた。
「だって、今日のデートは、全部、幼いあたしと約束したことばっかりじゃないっ!」
叫んだ。心が悲鳴を上げていて、どうにも繕えない。目頭が熱くなって、感情が止まらない。
「思いだしたのか?」
目を見開いて私を見る。そう思いだしたの全部。嬉しいでしょう? でも、私は、幼いあたしに嫉妬してしまってどうしようもない。惨めで、苦しい。
「…………私のが好きなのに」
「ミシェル?」
「幼いあたしより、私の方がレオのこと好きだから!」
幼い子どもみたいだ。感情が制御できなかった。頬を伝う涙を温かい手が拭ってくれる。ライオネル殿下が、レオが屈んで私に視線を合わせる。
「俺は今のお前も好きだ」
「うっ……嘘。だって私何も可愛いことしてないもん」
「頑張ってるミシェルは可愛いし、口答えしてくるミシェルと話してると素で話せて楽だ」
「でも、昔のあたしが好きでしょ!?」
宥めようとしてくれてるのはわかる。でも、どうしてもしこりが取れない。過去のあたしに勝てない。どうしようもない敗北感。
「俺はお前に二度恋をした」
ライオネル殿下はゆっくりとはっきりと伝えてる。その言葉は私の心を揺さぶるのは十分で、私もじっとその赤い瞳を見つめ返した。
あたしと私に恋をしてくれたと、その言葉にさっきまでのもやは嘘のように落ち着きを見せた。期待が、込み上げる。
「ミシェルに隣にいてほしい」
涙が止まらなかった。ここに居ていいのだと、私のままでいいのだと言ってくれたような気がして、ほっとした。安堵して、嬉しさが込み上げてくる。
慰めるように抱きしめてくれたから、私もぎゅうっとレオの服を掴んだ。
「…………」
レオは幼い頃のあたしの時も、痣を受け入れてくれて居場所を作ってくれた。学院でだって生徒会に入れてくれて私の居場所を作ってくれた。いつだって彼は、私に居場所をくれる。
「ミシェル、正式に婚約者になってくれるか?」
私は顔をあげた。
「幼い頃応えられなかった分まで言うわ。婚約者になるわ。レオの婚約者に」
首に腕を回せば、そっと額にキスをしてくれた。嬉しくて、私は彼と笑いあった。
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