134話 食べてみるか?
話していれば、店員が私の前にチョコレートケーキと紅茶、ライオネル殿下の前にチーズケーキとコーヒーを置いて行った。さっそく食べ始める。
「美味しい。チョコが濃厚だわ」
「こっちも美味い。酸味と甘さがちょうどいい」
そういえばお茶を淹れたりはしたけど、面と向かって甘いものを食べたのは初めてかもしれない。しかもそういう時は、計画やら報告ばかりだったし、こんな風に笑いあって食べるなんて不思議な気分。さっきまでの萎れた気持ちはなくなっていた。
ライオネル殿下はさすが、きちっとして気品がある食べ方をしていた。でも、どことなく甘いものを食べてる姿は子どもっぽくて、微笑ましい。
「食べてみるか?」
じっと見てたのを物欲しそうに見てたと勘違いされたみたい。
自然にフォークでこっちに向けてくるんだけど。戸惑ってライオネル殿下とスプーンを交互に見るけど、彼は首を傾げるだけ。手を降ろす様子はないし、視線が突き刺さってくるので、私は仕方なくおずおずと口をつけた。
「どうだ?」
「美味しいです……」
自然にやってるところを見ると、慣れているようだ。なんだか私だけが恥ずかしがって負けてるみたいで悔しい。
こうなったら対抗してやるんだからっ。
私はチョコケーキを同じようにスプーンに乗せて差し出す。ライオネル殿下は瞠目してから、口元を抑えて視線を横にずらす。人にやってた行為がどういうことかわかったようで、多少耳が赤くなってる。
「すまない、妹や弟たちにしてるようにしてしまった」
「私の気持ち味わってください」
手が震えて来たので、にこっと笑って私は強要する。私だけ恥ずかしい思いをするのは許さない。それにデートなのだから、それっぽいことやってもいいでしょう。という半ば投げやりな気持ちのまま私は手を下げない。
腕が辛いので早くしてほしい。と思っていれば、ライオネル殿下はやっとスプーンからチョコケーキを食べてくれた。
「甘……苦い……」
それはチョコレートケーキの感想なのか、今の空気の感想なのか。顔を伏せているので、さっきよりも赤くなった耳を見て、気分が晴れた。ただ、そのスプーンでまた食べ始めるのには勇気がいったし、こっちまで顔が熱くなってしまったので、傍から見ると変な二人だったかもしれない。
それにしても、身近な人と同じような対応を取ってくれるのは、心を許してくれた証拠のようで胸が温かくなった。
ライオネル殿下が復活する頃には私も平常心を取り戻せていたので、簡単な会話をしてカフェを出た。
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