133話 甘いものが好き
「ミラ……?」
不思議そうに私を見るライオネル殿下に意識を呼び戻される。「嬢ちゃん彼氏頑張ったんだから誉めてやれよ~」なんて野次が聞こえた。思いだしてた時間はそれほど経っていないようだ。
「勝って良かった、格好良かったです!」
昔の記憶をとりあえず端に避け、笑みを浮かべてライオネル殿下に言葉を返した。
すぐに昔そっくりな笑顔になって、調子良さそうに「だろー」と応えてくれる。上手く誤魔化せたようだ。
今、胸がずきずきする。レオは、過去の私のことが好きなんだ。って思ってしまって。
「ミラが行きたがってたカフェの無料チケットを選んできたぞ」
「わぁ、ちょうどいいですね! カフェ行きましょう」
褒めろと言わんばかりに胸を張るので、ちょっとおかしかった。胸の痛さは隠して、私はライオネル殿下の手を取った。今、隣にいるのはあたしじゃない、私。今日を楽しまないと。
ちょっと遅めなせいかカフェは空席が多かった。端の方のテーブルに座る。私もライオネル殿下もチケットでケーキを、追加で飲み物を頼んだ。
思い出した記憶の中で、私と彼はとても仲が良かった。まだ幼さ故の無敵感と前世の記憶を持ち合わせたあたしは、今とは違って活発的だった。だからこそ、仲が良くて婚約者になってほしいと言われたのだ。彼は、昔のあたしが好き。
「……ミラ、調子悪いのか?」
どうしても思考の海に潜ってしまう私に、ライオネル殿下は心配そうに聞いてくる。昔のあたしだったらなんて答えてたのかな。きっと――
「美味しそうなメニューだったからどんな味がするのか楽しみで、考え込んでしまっただけですよ」
務めて明るく答えてみせた。ライオネル殿下の眉がぴくりと動いて、探るように見つめられる。急に態度を変えるのはあれだったかな。
「こほん……ちょっと緊張してたので疲れただけです。甘いものを食べれば元気でますよ」
言い直せば、ライオネル殿下はほっとしたような表情になる。
「そうか……ミラは甘いもの好きなのか?」
「好きですよ」
「どんなのが好きなんだ?」
「そうですね、チョコは好きです。あとははちみつとか……」
質問してくるので、無難に応えていたつもりだったけど、ライオネル殿下は頬を綻ばせて私を見つめてくる。むずがゆくなって、手をもじもじとさせてしまう。なんでそんなに嬉しそうなの?
「……話、楽しいですか?」
「ああ、こういう会話はなかなかできなかったからな、新鮮で楽しい」
素直な返答に、たしかにライオネル殿下とは会った時からずっと任務とか私の目的の話しかしてなかった。雑談を楽しむというのもデートっぽくて良いかもしれない。レオのことを少しでも知れるのも、私を知ろうとしてくれるのも嬉しいと思ったから。
「そういえば、任務のお話ばかりでしたね。レオは甘いの好きですか?」
「わりと好きだ」
バレンタインとかはないけど、贈り物にお菓子も良さそう。お礼とかで手作りは重いかな、やっぱり高級なお菓子を買って渡す方がいいかしら。
話していれば、店員が私の前にチョコレートケーキと紅茶、ライオネル殿下の前にチーズケーキとコーヒーを置いて行った。
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