123話 なんで私を庇ったんですか
面会許可が出て、ライオネル殿下にすぐに会いに行った。自分の目でしっかりと見ておきたいと気持ちが焦ったから。
当の本人はすでに執務室で仕事をしていたので、私は絶賛不機嫌中だ。
「なんでそんなに不機嫌なんだ」
私の前のソファに座っているライオネル殿下が納得いかないと眉根を寄せている。私が来たことで一応休憩の体は取ったので、ふぅっと息を吐いた。
「……もうお仕事ですか?」
心配したのに。横目でねめつければ、ライオネル殿下は苦笑する。
「そうは言ってもな、目が覚めてからだいぶ経ってるぞ? 特に異常もないしな」
私が一番気にしていたであろう、足を動かしてみせる。
「もっと早く会えれば良かったんだが、ごたごたしててな」
「いいんです、それは。ええ、怒ってません」
会えなかったのは仕方ないのはわかってる。私が怒っているのはそこじゃない。
「……怒ってるだろ?」
全然わからないと眉を下げて困った顔をされる。私はもう一度勢いよく息を吐いた。きゅっと服を掴む。
「……なんで私を庇ったんですか」
どうして私なんかを庇ったのか。庇わなければこんな大事にもならなかったし、もしもだってなかったのに。
「そりゃあ、か弱い令嬢を誰だって庇うだろ」
「でも、貴方の命のが大事でしょう」
第二王子の命の方が、隣国に拮抗できるほどの力を持つ貴方の命の方が大事だ。
私の言葉にライオネルは瞠目する。
「だって、第二王子じゃないですか、貴方がいなくなったら、誰が隣国の抑止力になるのですか? 抑止力に誰もなれなかったじゃないですかっ!」
もっと自分の命の価値をわかって! 心の叫びのままに言い放った。
ライオネル殿下はすっと真剣な表情をして赤い瞳で私を射抜く。どきっとした。
「……もう二度とミシェルを失いたくない。と思った」
「私……死んでません」
思わず言い返したけど、心臓の音が激しくうるさい。どういう意味なの?
「忘れただろ」
先ほどよりも小さく、拗ねたようにぽつりと言われた。理解してかっと頭に血が上る。
前に送られたワスレナグサ――”私を忘れないで”という花言葉が頭をよぎって、必死で打ち消した。顔が熱い。でも、待って、冷静に話そう。幼少期のトラウマというのは、恋愛とか関係なくきついものがある。
「……そんなにショックだったんですか? 私に忘れられたこと」
「……ああ、親しい人間に目の前で『誰?』って言われたんだ。ショックだろ」
言われてしまえば、たしかに幼少期に親しくしてた人間にそんなことされたらショックかもしれないと思う。素直に謝る。
「……すみません」
「別にいい」
ふっとライオネル殿下の肩の力が抜けたのがわかる。過去の話に緊張していたようだ。
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