117話 寝室に忍び込む影
そんなわけで、私はまだメイドとして城内を歩き回っている。もちろん、フィリップ殿下には見つからないように行動している。
ご令嬢という立場もあるので、客室を借りて、夜間は外出禁止を言い渡されてるけど、守っていたら情報を取り逃すかもしれないじゃない。
だから、夜間、人が少ない廊下をランタン片手に歩いている。ライオネル殿下に見つかったらお小言をいわれそうだ。
人影を見つけた。私と同じメイド服。けれど、最初の私同様、ご令嬢さが隠せておらず、遠目からでもそれが誰だかは予想できた。
彼女は辺りをきょろきょろと見回して挙動不審になりながらも、足は迷っていない。あっちの方向はライオネル殿下の寝室じゃなかったかしら。
ランタンを消して、彼女の持つ明かりを頼りにこっそりとついていく。月明りもあって、見失うことはない。
彼女はライオネル殿下の寝室まで辿りつくと、扉を少し開けて滑り込むように中に入る。
どうしようかしら、ライオネル殿下はこの部屋にはいないのよね。わざわざ敵が来そうなところは使わないって言ってたし。でも、人が入ったなら知らせる何かを仕掛けときそうよね。
そこまで考えて、後ろから声をかけられてびくっと肩が跳ねた。
「おい、中に入ったのか?」
ライオネル殿下が訝し気な顔でこちらを見ている。私は首を横に振って応えた。
「いえ、中に入ったのは……ジュリアナ様です」
「……入るぞ」
私が答えると、ライオネル殿下は寝室のドアノブを掴んだ。私は彼の後ろから部屋の中に足を踏み入れる。
「誰だ!」
ライオネル殿下の声に、ベッド際に立っている女が身を震わせた。ゆっくりとこちらを見る。
目立つ赤い髪を隠してもいないらしい。光に照らされ、彼女が誰なのかを映し出していた。ライオネル殿下を認めて、ジュリアナ様は叫びに近い声をあげる。
「ら、ライオネル殿下……!」
「そこで何をしている」
ライオネル殿下はジュリアナ様だとわかっていても、まだ名前を呼ばない。相手は、まだ気づかれてないと思っているのか、震えながら頭を下げる。
「い、いえ……見回りをしていただけで」
「……それで、その手にあるナイフなんだ。ジュリアナ・ハートフォード」
逃がしはしなかった。ジュリアナ様の片手に無造作に握られた短剣は怪しくきらりと光っている。ライオネル殿下は、私に前に出ないよう片手をあげて制する。私はさらに一歩下がっておいた。
「――こ、これは我が家のタメですわ!」
ジュリアナ様は短剣を両手で持ちライオネル殿下に向ける。
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