10話 ライオネルとの契約内容
整えられた草木、季節関係なく色とりどりの花が咲き誇っている。中には薬草に使える草も生えているのがなんとも学院らしい。学院の一角にある庭園のさらに奥にある鍵を持っていないと入れない温室の中。白いガゼボに設置してあるテーブルと椅子のひとつに座りながら、私は目の前に淹れられた紅茶のカップに手を添える。目の前には学生服を着た第二王子ライオネルが座っている。
「まずは先日の非礼をお詫びしよう。シルヴァレーン嬢」
「こちらこそ、先日はお見苦しい姿をお見せいたしました」
ライオネル殿下が王子の笑みを浮かべるので、私もにこりと貴族令嬢の笑顔を張り付ければ、沈黙が支配する。
「……茶番だな。これが契約書だ」
すぐに笑顔を崩して眉根を寄せ、ライオネル殿下は一枚の書類をテーブルの上に置いた。茶番だと思うなら初めからやらなければいいのに。最初の印象が悪いだけに、つい内心で毒づいてしまう。
私は紅茶を一口飲んでから心を落ち着かせ、置かれた契約書を手に取って中身を確認する。「私がライオネル殿下に協力をする」という誓いの契約書だ。内容は「協力するにあたって、私がすることは何をとっても不敬罪にはならない」「成功した場合は報酬を支払う」など、私にとって良い条件が書かれている。期限も一年と決められているし、失敗したとしても関係は白紙に戻すと書いてあるから、王家といざこざになったとしても白紙に戻させていただこう。最後に大き目の空白もある。ここは私が追加で記載する欄だろう。
契約は初めが肝心。私は、絶対に譲る気がない項目、「ライオネル殿下に協力をする際に私から得た情報は許可がない限り誰にも漏らないこと」、「成功報酬として聖域への立ち入り許可」を追記した。
サインの場所にペンを置き、私は顔を上げて彼の赤い瞳を見つめる。内容は書いてる最中に見えているだろうけど、顔色一つ変えないところを見ると、通らないということはなさそうだ。
条件が問題ないのであれば、サインの前にしっかりと私がするべきことを確認しておかないといけない。
「協力内容をお伺いしても?」
契約書に協力内容の記載はない。あえて記載しなかったということだろう。
「こっちの書類だ」
さらに追加で差し出された書類に目を通して瞠目する。これはどう見ても王家と私の家との婚約書類だ。協力する内容の契約書類ではない。私は強く圧をかけるように、冷たく異議を唱えた。
「また話を勝手に進めるおつもりですか? 婚約を承諾した覚えはありませんが?」
先日試されたうえに勝手に人の大事なノートを透視の魔法でコピーしたことは忘れてはいない。根に持っている。同じことをするなら、協力をしたくないのだけどと軽く目を眇めた。
「まだサインが入っていないだろ」
ライオネル殿下は肩を竦めるだけで悪びれた様子はない。淡々と内容の説明を始める。
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