0話 二人で行こう
私は死にたくなんかない。だから、早く逃げる準備をしなきゃ。自分の部屋で、鞄に詰められるだけ荷物を詰める。隣国に首を差し出せなんて冗談じゃない。
ふと、赤い目をした彼の顔が頭に浮かんで手が止まった。
そうすれば、次々とみんなの顔が脳裏をよぎる。アウレリア様の恋心が実った時の嬉しそうな顔、ケイティの純粋で信じてると言った時の顔。私の初めての友達たち。
私が今逃げれば、彼女たちが手に入れた幸せは簡単に壊れてしまうだろう。この国だって滅んでしまう。逆に隣国ヴァレリアン帝国に私の首一つ出せばすべてが丸く収まる。
そして、ゲームとは違った幸せな未来がこの国には訪れる。
私だけが助けられる。本当に私は逃げてしまっていいの? わからない。どうしていいのか、わからない。
逃げてしまいたい。誰かに、背を押してもらえたなら、私は楽に逃げられるのに。
「ミシェル!」
低くてハリのある、でも優しくて暖かい声が私の名前を呼ぶ。
振り返らなくても誰かなんてわかってる。
「二人で行こう」
私はすぐさま振り返った。空は赤らんで、彼の綺麗な金髪はオレンジ色に輝いていた。それよりも目を惹きつけたのは空よりも赤くて深い瞳。口よりも雄弁に語っていた。大丈夫だって。
その胸に飛び込みたかった。胸が目頭が熱くなる。
「二人で駆け落ちも悪くないだろう?」
優しい声色で、私を誘惑する。彼から伸ばされた手をいますぐにでも取りたかった。
遠くに二人で逃げれたら、そうしたら私は幸せになれるんじゃないかって。
でも、私の手はドレスの裾を離さなかった。
私には、貴方とみんなの思い出がある。前世の記憶を取り戻したあの日からの思い出が――。
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