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原田杜雄を知る人たち・2


 次の日、黒田女史から呼び出された。


「原田課長が反社と繋がりがあるって本当なの?ちょっと上の方で問題になっているみたい」


「あの、先輩に助けてもらっただけです。それに、揉めたのは安藤くんで、僕が無理やり先輩に来てもらって。そもそも、あの人たちは反社とかじゃないですよ」


「その安藤君が反社だって言ってまわってるのよ」

 

 何を考えてるんだ、あのゴリラは


「違います」


「ずいぶん肩入れするのね」


「当たり前じゃないですか。事実じゃないんですから」


「それとこれとは別。反社との付き合いは大問題よ。でも、違うのよね。それは間違いないの?」


「間違いないです。都内で何軒も飲食店を経営されている方です」


「分かりました。安藤くんには私から言っておきます」


「もういいですか?」


「キッキバックの件はどうなったの?」


「あれは賛助金です」


「賛助金?どういうこと?」


「子ども食堂にです」


「?」


「ご存知ないですよね。アシスタントの僕でも知らなかったんですから。先輩は毎週金曜日に子ども食堂を運営しています。取引先で賛同してくれる会社から賛助金を頂いてます」


「そんなことやってるの?いつから?」


「もう5年も前からだそうです」


「・・・そう」


「一度お伺いしてみようと思っていたんですが黒田部長はバカですか?」


「聞き捨てならないわね」


「くだらない派閥争いに先輩を巻き込もうとしないでください」


「くだらない?ウチの未来がかかっているのよ」


「先輩はこの会社の未来じゃないんですか」


 黒田女史が大きくため息をついて、窓から外を見下ろした。


「キックバックなんて彼がもらうわけないじゃない。ホントにどいつもこいつもどうかしてるわ。副社長は躍起になっててね、証拠を取ってこいだ、あいつを黙らせろだって、もうホントに嫌になる」


「でもね、今のままでもダメなの。誰もが文句を言っているけど、結局は原田くんに頼りきっている。私も彼の人間性は少しぐらい理解しているつもり。パワハラ田って呼ばれてるけど、そうじゃない。恐ろしいくらい芯のある人で、誰よりも優しいことは知っています。長く2人でやってたんだから」


「でも、黒田部長は先輩を追い出そうと」


「追い出すわけないじゃない。でもね、彼は簡単にここを去るわ。彼にとったら、たまたま就職した先が家電メーカーで、たまたま配属された先が商品開発だったから、やっているだけ。信じられないけど、そうでしょ」


「・・・まぁ、そうですね」


「彼がいつウチを去ってもいいように、全社員が自覚を持って仕事をしないと。コノエは砂の城だって気づかないといけないの」


「そうかも知れませんけど、だからって」


「だから、彼をなんとかコントロールして、少しでも長くいてもらおうと私も考えた。その間に社員たちを育てないと」


「でも、先輩の中心は子ども食堂です。一緒にやってみてわかりました。それが生き甲斐なんだと思います。この会社が子ども食堂を続けている間は大丈夫だと思います」 


「そうね・・・子ども食堂か・・・彼らしいわね・・・」


「黒田部長?」


「原田くんの商品がヒットして、会社が軌道に乗った頃ね。そんな時に私、妊娠したの。仕事優先だったから産むの正直悩んだわ。そしたら、原田くんが絶対に産めって。あんた子供好きだろ、後悔するぞって。まだその時は今ほど育休の理解とかなかったしね。女の私が休職して戻ってこられる保証はないじゃない。でも、俺があんたが戻れるようにするからって。それで会長に掛け合って、役員たちを脅しまくって、私が戻れるように道を作ってくれた。それで、私も覚悟ができたの。ウチの福利厚生が手厚いのも彼のおかげ」


 先輩らしいエピソードだ


「子供産んだ時ね、毎日病院に来てね、赤ちゃん見にくるの。抱っことかも上手なのよ。子供育てたことあるのかと思ちゃったわ。歳の離れた兄弟とかいたのかもね」


「本当に不思議な人です」


「娘は私の宝。だから仕事も頑張れる。彼には感謝しかない」


 黒田部長には彼女なりの正義があった。そして、先輩の理解者だってことも分かって安心した。

 

 その時、電話が鳴った。なんで不吉な知らせって取る前から分かるのだろうか。

 黒田部長も感じていたみたいだ。


 緊張が走る。少し間をおいて受話器を取った。


「近衛会長が倒れたみたい」



 

 金曜日。いつも通り先輩と2人で子ども食堂に向かった。今日で4回目だ。僕もだいぶ慣れてきた。

 

 今日はカレーと野菜スープ。場所は少し遠出して川崎市だ。

 

 会長のことを考えながら食材の切り込みをしていたら、うっかり指を切ってしまった。


「先輩は会長のこと気にならないんですか」


「ジジイも年なんだから仕方ないだろう」


「でも、あれだけお元気だったし」


「俺たちがクヨクヨしてもジジイがよくなるわけじゃない。今は料理のことだけ考えろ。俺はカレーを仕込んでくる。お前は野菜と自分の指を切っとけ」


「はい。気をつけます」


 もし会長に万が一のことがあったら、この子ども食堂はどうなるんだろう



「あなたが岸君ね」

 

 振り返るとスーツケースと紙袋を持った女性が立っていた。

 

 スラリとして、切れ長の目が印象的な女性に突然名前を呼ばれたので、戸惑った。というより、こんな美人と会話したことないので緊張して口が半開きのまま動けなかった。

 背も僕より少し高い。モデルさんか女優さんだろうか。それにしても何で僕の名前を?

 差し出された名刺を受け取る。


「帝都city 銀行 融資課次長 皆川海子」


 スーパーエリートだ。ちょっと待って。海子ちゃんって子供達が言っていたのは、この人のこと?


「よく言ってるわよ、クソがようやくまともなクソになったって」

 

 女性の口から出る言葉ではなかったので、なんと答えて良いのか戸惑ってしまう。


「あの、先輩と一緒にやっている方って」


「私。よろしく岸くん。これ切ればいい?」


「はい!」

  

 海子さんも超人だ。みるみる野菜が斬り込まれていって、あっという間にスープを作り始めた。


「先輩といつから知り合いなんですか」


「悲しいことに小学校からね。あいつが小5の時に転校してきてね。中学3年でまたあいつが引っ越して以来会ってなかったんだけど。運悪く、ここでばったり。教えてあげる。神様はいないわ」


「え?先輩の同級生?なんですか?」


「驚きでしょ。あいつにも子供時代があるのよ」


 海子さんと話してるうちに、いつの間にか緊張はほぐれていた。自然体でケラケラとよく笑う海子さんと話していると、自分も明るく社交的な人間だと勘違いしてしまう。


 海子さんがいるだけで周りは自然と明るくなる


 子ども食堂が始まった。3人だと渋滞が起こらない。次々とやってくる子供たちはみんなカレーに喜んでくれる。


「おっといけね。これお土産ね。多分、数あると思うけど」


「お前ら分かったか」


 金髪に染めてヤンチャな感じだけど、まとめ役のテル君が海子さんからプリンを受け取り、小さな子から配っていく。

 

 先輩はテル君や他の男の子たちにカレーをよそうのを手伝わせる。男の子達は文句を言いながらも、どこか楽しそうだ。


「なげぇ海外出張だな」


「あんたがいる日本なんて、できれば帰ってきたくなかったわ」 


 先輩と海子さんと言い合いを見て、女の子たちがクスクス笑う。


「海子ちゃん、モリオに会えてなくて寂しかったね」


「今年聞いたジョークで一番面白くないな」


「私、そこまで悪いことしてないわよ。日本では、モリオと一緒にいるだけで捕まるのよ」

 

 先輩は用事があると言って先に帰ってしまった。

 おそらく、病院だ。

 会長のお見舞いに行くのだろう。

 

 帰りは海子さんと2人だった。先輩の子供時代を知る人だ。聞いてはいけないと思いつつも、我慢できずにいろいろと聞いてしまう。


「先輩って昔から、あぁなんですか?」


「・・・笑っちゃうぐらい変わらないよ」


「やっぱり。先輩、会社で色々言われてるんですけ、先輩と一緒に過ごして分かったんです。誤解されてるだけなんだなって」


「パワハラ田でしょ。超ウケる」


「先輩から聞きました?」


「コノエ電機のパワハラ田モラハラ雄様。銀行でも超有名だったのよ。その名前が轟きまくって、どこもコノエに融資したがってたの。で、ここで再会してね。話している内に、モリオがパワハラ田って知ったの。最高!言い得て妙すぎて」


「あのひょっとして出張行かれる前に先輩と会ってました?」


「あぁ・・会った。ムカついたから蹴っといたけど」

 

 やっぱり海子さんだったのか。ひょっとして? 


「あの数年前に歌舞伎町で先輩のこと探してました?」


「なんで?本当にここで偶然よ」


「あの・・多分なんですけど先輩のこと探している女性がいるみたいなんです。先輩の友達の方が言ってました。心当たりはないですか?」


「ふ〜ん。知らね。まぁ見た目だけは良いから、そんな女も何人かいるんじゃない」

 

 心なしか言葉に怒気が含まれている気がする


「なんで海子さんは子ども食堂手伝うって決めたんですか?」


「あいつに借りがあんのよ。小学校の時にね、助けてもらったの。こんなことなら断っとけばよかった」


「あぁ・・・私ね、5年生の時にイジメられてたの。結構ハードにね。きっかけは何かよく分からないけど、まぁ昔から可愛いかったし、超勉強もできたからね、クラスのボスみたいな子が気に入らなかったのよ」

「冗談よ。でも、そのイジメっ子が地元の国会議員の娘で、同級生も先生も誰も助けてくれなかったの。でも、あいつだけは助けてくれて。まず、皆んながいる前でイジメっ子にやめろって、イジメっ子を庇う先生にも抗議してね、というよりは冷静な罵詈雑言ね。それでも、イジメは続いたから教育委員会に行って、最後は東京いるイジメっ子の父親にまで会いに行って」


「すごい行動力ですね」


「もう異常よ。お前のことなんだからお前も来いって。事務所で私泣きまくって上手く話せなくて。そしたら、あいつ、隠し持ってた包丁を机に突きさして、今からここで約束しろって。最初は笑ってた議員も面食らってね。あまりの迫力にもうお手上げ。頭下げて謝ってくれたわ」

「その議員、帰り際にモリオに言ったの。君は見込みがある、俺のところに来いだって。やめてよね。モリオが国会議員の国なんて住めるわけないじゃん」


「まぁあいつに大きな借りがあるのは確か」


「なんで、先輩はあんなに強いのかって考えるんです。僕も少しぐらいは先輩のように自分が正しいと思ったことを正しいと言いたいです」


「生まれた時からじゃないと思うよ。生きていく上で必要だったのよ、たぶん」


「あいつも色々大変だったからね」


「あぁごめん、今の話忘れて」


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