表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/80

【男爵視点】家族の輪郭── 『義理の息子への、変わらぬ信頼』

──謝罪というものは、過ちを帳消しにはしない。ただ、次に進むための扉を少しだけ開けるものだ。


かつて誇り高く、誰よりも強気だった男が、今やひとりの父親として、後悔の渦中にいた。


「あの失礼な手紙もな……実は、こうすれば二人が来てくれると思ったんだ」


声はかすれ、申し訳なさそうな震えが混じっていた。


言葉の続きなんて、聞かなくても予測はつく。あいつの長年の悪癖だ──遠回しに伝え、正面からは何も頼まない。だから余計にこじれる。


「まさか、こんな結果になるとは思いもしなかった……本当にすまない、クロード君。心の底から謝罪する」


クロードは黙っていた。顔を上げもしない。その沈黙には怒りも、恨みもなかった。ただ、感情が追いついていないだけのように見える。


アルフォンスなりに必死だったことはわかった。だが、結果としてクロードを深く傷つけたのも事実だ。


「事情は理解した。……でもな、それでもティタ嬢のやったことは、決して許されるものではない。どんな理由があっても、だ」


彼は再び頭を下げ、言葉少なに頷いた。


「……申し訳ない。何度謝っても足りないくらいだ」


私には、これ以上アルフォンスを責める言葉が見つからなかった。ただ事態の重さを胸に刻み、静かに目を閉じた。


「今夜はクロードと同室にしてくれないか。明日の朝、私たちはここを出ることにするよ」


そう告げると、彼は小さく頷いて静かに席を立った。


部屋に入ると、クロードは椅子に座り込み、どこか遠くを見るような目をした。机の上のランプが揺れ、その顔に影を落としている。


「……男爵様、本当に申し訳ございません。不甲斐ない姿を見せてしまいました」


私は穏やかに首を振った。


「いいや、クロード。お前は何一つ悪くない。あんなことをされて、謝るべきはお前じゃない」


クロードの顔が少しだけ震え、彼の瞳にかすかに涙が浮かぶのを見た。普段冷静で無表情な彼のそんな姿を見ると、胸が詰まる思いだった。


「ですが、私は……妻以外の女性に……」


「お前が望んでそうなったのか?」


問いに返事はなかった。ただ、唇を強く噛みしめるその様子が、全てを物語っていた。


「お前は誠実で、律儀で、聡明で、私の娘を大切にしてくれている。だからこそ、私はお前を婿に迎えた。……その判断に今も一点の曇りはない」


「……ありがとうございます」


クロードの肩がわずかに震えたのがわかった。だから私は、少しだけ口角を上げて見せた。


「お前は、私の可愛い義理の息子だ。……可愛げはないがな」


ほんの冗談のつもりだった。だけど、その一言で、クロードの目にまた涙が滲んだ。静かに、溢れ出すように。


私は椅子にもたれ、灯りを落とした。部屋に柔らかな暗がりが満ち、夜の静けさが戻ってくる。


「今日はもう眠れ。目を閉じて、少しでも身体を休めるんだ」


クロードは小さく頷き、ゆっくりとベッドに身を沈めた。その横顔はまだ硬いが、少しだけ張り詰めた糸が緩んだ気がした。


私はしばらくその寝息を聞きながら、窓の外を眺めた。


──家族というものは、いつだって思い通りにはならない。それでも、誰かが傷ついたときに寄り添えることが、本当の家族の在り方だと私は信じている。


ならば、私はこの義理の息子の盾であり続けるさ。何度だって、たとえ相手が、どんな過去を背負っていたとしても。


人は皆、謝罪に何かしらの救いを求めているのかもしれない。けれどそれが真に誰かを救えるかどうかは、言葉の重さと、受け止める側の心次第だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ