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第42話「仮面の影、揺らぐ宮廷」

ヴェルサイユ宮殿――

王妃暗殺未遂から三日。

宮廷は未だざわめきを止めず、誰もが口を閉ざしながら、互いの顔色を伺っていた。


「王妃の存在が、また災いを呼んだのではないか」

「殿下を守るために、どれほどの犠牲が……」


ひそひそとした声が回廊に漂う。

その矛先は、揺らぎながらもなお毅然と玉座に座るマリー・アントワネットに向けられていた。


彼女は表情一つ崩さず、王妃として振る舞っていた。

しかし、内心では炎の残像がまだ瞼に焼き付いていた。

(……あの夢と同じ。炎の中で、私は旗を掲げていた。けれど――)


その頃、宮殿の一室。

三銃士が机に広げられた短剣を囲んでいた。


「この紋章……侯爵派のものではない」

ド・モードが指先で刃をなぞる。


「地下で見つけた“仮面の男”の印と一致している」

シャレットの声に、ピシグリューが腕を組む。


「つまり、あの暗殺は侯爵の残党の仕業じゃねぇ。もっとでけぇ影が背後にいるってわけだ」


三人の間に重苦しい沈黙が落ちた。

敵は一人の侯爵でも、一派閥でもない。

“仮面の主”――正体不明の存在。


その夜、マリーはサンジェルマン伯爵と密かに会っていた。


「殿下。敵はもはや、宮廷の一角を占める者ではありません」

伯爵は低い声で告げる。


「……なら、誰なのですか?」

マリーの瞳が揺れる。


「時を越えて影を運ぶ者たち。歴史の節目ごとに現れ、国を揺るがす。

貴女の“真実”もまた、その影に狙われている」


言葉は比喩のようでありながら、刃のように冷たく突き刺さった。

マリーは息を呑む。

(……私が、何者かであるがゆえに狙われている?)


「ならば、私はどうすれば……」

伯爵に問いかける声は、震えていた。


「役を演じ続けなさい。答えに辿り着くその時まで」

彼の言葉は厳しくも優しかった。


一方その頃――

リュシアンは王宮近くの裏路地にいた。


仮面の男を追い、闇に潜んでいた刺客と刃を交える。

火花が散り、血の臭いが夜気を刺す。


「……やはり、貴様らの背後に“主”がいる」


短い戦闘の末、相手は自決し、何も語らぬまま崩れ落ちた。

だが懐には一枚の札が残されていた。

そこには、王宮の地図と“王妃の居室”を示す印。


リュシアンは札を握りしめ、月を見上げた。

「……守るべきは、あの人だ」


だが彼の影を、まだマリーも三銃士も知らない。


その夜更け。

王妃の居室。


マリーは一人、鏡を見つめていた。

夢で見た“炎の中の聖女”の姿が脳裏をよぎる。


「私は……誰……?」

震える指が胸元に触れる。


その時、窓の外からカラスの鳴き声。

翼音と共に一羽が飛来し、窓辺に止まった。

足に括られた小さな紙片。


マリーが開くと、そこには震える筆致でこう書かれていた。


――『仮面の主は、すでに“宮廷の中”にいる』


月光が、彼女の顔を白く照らした。

恐怖と覚悟の狭間で、王妃は小さく息を呑む。


ヴェルサイユは、眠れる宮殿ではなくなっていた。



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