第4話:流れの中の決意
リュシアンは、見知らぬ街の喧騒に身を置きながらも、頭の中はカトリーヌのことでいっぱいだった。あの突如として消えた彼女が、この不思議な時代にいるかもしれない――それだけが、彼を動かしていた。
道を進むと、群衆がざわめいている広場に出た。何かの演説が行われているようだ。粗末な衣服を身にまとった男が台に立ち、拳を振り上げて叫んでいた。
「王は贅を尽くし、貴族どもは我々を見下し続けている! だが、どれほど搾取されようと、我々は黙っているしかないのか? いや、違う! 我々にも誇りがあるのだ!」
彼の言葉に、一部の者が力強く頷き、拳を握る。しかし、大多数の民衆は沈黙を守っていた。誰もがこの国の現状に不満を持っているが、声を上げることはまだ危険だった。
「これが……本当に革命の始まりなのか?」
リュシアンは、歴史の教科書で見た「革命の熱狂」とは異なる、まだ静かで不安定な空気を感じていた。その瞬間、背後から声をかけられる。
「君、あまり見ない顔だな。この辺りの者じゃないのか?」
振り返ると、同じくらいの年齢の青年が立っていた。茶色の髪に鋭い目つき。しかし、その表情にはどこか優しさが漂っている。
「君は……?」とリュシアンが尋ねると、青年は少し笑みを浮かべた。
「ジュールだ。見たところ、迷子か何かか?」
リュシアンはとっさにうなずいたが、次の瞬間、彼の着ている服がこの時代に馴染まないものだと気づいた。ジュールの視線も、それに気づいたかのように服装をじっと見ていた。
「君、どこから来たんだ? その服装……見たことがないな」
リュシアンは答えに詰まった。彼が何か答えようとする前に、ジュールがぽつりと言う。
「まあいい。とりあえず、ここにいると目立つ。こっちに来い」
ジュールに案内されたのは、広場から少し離れた薄暗い裏路地だった。
「ここなら少しは落ち着けるだろう。君、名前は?」
「リュシアンだ」と彼は答えた。
ジュールは少し首をかしげて、もう一度リュシアンを観察するように見た。
「……君、何者だ? 正直に言えよ。ただの迷子にしては変だ。」
リュシアンは一瞬、どう答えるべきか迷った。この時代の人々に自分の状況を説明しても、信じてもらえないだろう。
「俺は……ただ、ある人を探しているんだ」
「ある人?」
「大事な人だ。突然、いなくなった。もしかしたら、ここにいるかもしれないって思って……」
ジュールはその言葉に眉をひそめたが、すぐに肩をすくめて言った。
「ふーん。まあ、わけありなんだろうな。でも、一つ忠告しておく。この街は今、普通の人間が迷い込んでいい場所じゃない。気をつけろよ」
「どういう意味だ?」
ジュールは少し笑って答えた。
「これ以上話すつもりはないよ。けど、君がここで生き延びたいなら、少なくとも誰を信用するべきかは慎重に考えることだな」
リュシアンはジュールに背を向けられながら、心の中で決意を新たにした。
「カトリーヌ……君を必ず見つける。そのためなら、どんな危険でも乗り越えてみせる」
そして、彼の冒険はさらに深まっていく――。