第35話「暁の剣、夜を裂いて」
ヴェルサイユ・審問の間。
審問は一時中断……のはずだった。
だが、沈黙の中、サン=ジュストが声を張り上げた。
「再検証など無意味だ! 王妃の存在が国家を脅かしている事実に変わりはない!」
侯爵派の側近が動く。
何人かの衛兵が、不自然な動きで審問官の後ろへ回った。
「審問官殿、ここで“王妃に死刑判決”を下せば、革命派の混乱を抑えられます。王宮の威信も守られる」
……審問を強行しようとしている!
マリーが静かに睨みつけたその時、背後の扉が激しく開いた。
「ここは“断罪の場”ではない!」
シャレットの声が轟く。三銃士、再び現る。
ピシグリューは衛兵を押しのけると、手にした書簡を審問官に叩きつけた。
「この場を“クーデター”に変える気か? 王妃を殺して、次は国王、いや共和国そのものを乗っ取る気か!」
ド・モードが剣を抜いた。
「王妃の罪を問う前に、問われるべきは貴様らの陰謀だ!」
騒然となる廷内。
だが次の瞬間、別の扉が音もなく開き、闇を纏うようにサンジェルマン伯爵が現れた。
「剣を納めなさい。ここはまだ、理が裁かれる場だ」
彼は審問官の前に進み出ると、小さな革袋を差し出した。
「侯爵派の密会を記録した音声装置の記録だ。……録音された“声”は、王妃を冤罪に貶めようとする“具体的な計画”を証明している」
審問官は目を見開き、録音装置を受け取る。
「……これが真実なら、この審問はすでに“反逆者たち”によって乗っ取られていたことになる」
沈黙。
次の瞬間、審問官が声を上げた。
「この場において、王妃に対する断罪は認められない。陰謀の証拠をもとに、侯爵派の拘束を命じる!」
衛兵たちが動き出す。サン=ジュストが叫ぶ。
「騙されるな! すべては王妃の策だ!」
だがすでに流れは決まっていた。
その声は誰にも届かない。
マリーは静かに目を伏せ、サンジェルマンに囁く。
「……ありがとう。でもこれは、まだ終わりじゃない」
彼は微笑み、答えた。
「ええ、“始まり”に過ぎません。真のあなたが目覚める時、その名はやがて語られるでしょう」
その言葉に、マリーの瞳がわずかに揺れた。
……夜が裂け、真実の夜明けが近づいていた。




