第3話:見知らぬ街
リュシアンは冷たい石畳の上で目を覚ました。頭に鈍い痛みを感じながらゆっくりと起き上がると、見知らぬ街並みが広がっていた。
瓦屋根の建物が並び、石畳の道を行き交う馬車の音が響く。人々は粗末な服を着た者もいれば、華やかな刺繍が施されたドレスやベルベットのコートを纏った者もいる。道の片隅では物乞いが座り込み、裕福そうな紳士が手に持ったステッキで軽く追い払っていた。
(ここは……どこだ?)
リュシアンは頭を振り、周囲を見回した。しかし、どこを見ても現代の生活の痕跡はない。電柱もなければ、車もない。聞こえてくるのは、馬蹄の音とフランス語のざわめき。
ふと、通りの掲示板に張られた紙が目に留まった。近づいて文字を読む。
「国王陛下の勅令。第三身分の代表は次の会合に出席すること。署名:ネッケル財務総監」
「……国王?」
リュシアンの心臓が跳ねた。国王が政治を握っている? そんな時代が、今も続いている?
まさかと思い、道端に捨てられていた紙を拾う。そこには日付が記されていた。
「1788年」
「……嘘だろ?」
リュシアンは思わず紙を握りしめた。1788年――それは、フランス革命が始まる直前の年。まだ国王ルイ16世が絶対王政を維持し、民衆の不満が爆発寸前だった時代。
なぜ、自分がこの時代にいる? いや、それよりも――
「カトリーヌ……君もここにいるのか?」
あの日突然姿を消した幼馴染。彼女がこの時代にいるのではないか――その思いが、彼を動かし始めた。