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第19話:揺れる王妃の祈り

ヴェルサイユ宮殿の奥深く、豪奢な装飾が施された私室の中で、マリー・アントワネットは静かに書簡を読んでいた。周囲に侍女たちが控えているが、彼女の表情に浮かぶ一抹の憂いを察する者はいない。


窓の外では、太陽が西へと傾き始めていた。黄金の光が庭園の噴水を照らし、宮廷の華やかさを際立たせる。しかし、そんな風景も彼女の胸の内を晴れやかにすることはなかった。


「また暴動が……」


小さく息を吐きながら、マリー・アントワネットは書簡を机に置いた。そこには、パリ市内での民衆の不満が増しつつあることが記されていた。近衛隊の報告によれば、食糧不足による暴動が発生し、王家への敵意をむき出しにする者も少なくないという。


「陛下……」


彼女は小さく呟いた。ルイ16世は表向きは穏やかで自由奔放に見えるが、実際には聡明で、この状況を深刻に捉えている。最近では王宮の中でも政治について頻繁に話し合うようになった。


しかし、どれほど対策を講じようとも、すでに民衆の不満は頂点に達しようとしている。革命の足音は、すぐそこまで迫っていた。


「陛下が何を決断されるにせよ……私は……」


マリー・アントワネットは瞳を閉じ、一瞬、何かを振り払うように頭を振った。彼女は王妃として、王家の人間として、この国の未来を案じている。しかし、それと同時に、心の奥底では、もう一つの別の思いがあった。


——この時代の行く末を、私は見届けなければならない。


ふと、侍女の一人が静かに近づき、小声で囁いた。


「王妃様、例の方が今夜、密かにお会いしたいと……」


マリー・アントワネットは侍女を見つめ、すぐに理解した。かすかに微笑を浮かべながら、小さく頷く。


「準備をして。誰にも悟られぬように」


夜の帳が下りる頃、彼女はヴェルサイユ宮殿の奥深く、密かな会談の場へと足を運んだ——。

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