第15話:暗号を解く鍵
パリの隠れ家——
夜の闇が深まる中、蝋燭の明かりがわずかに部屋を照らしていた。
リュシアンは机に広げられた手帳をじっと見つめている。ロベスピエール派が残したこの記録は、単なる取引や粛清リストではない。無造作に散りばめられた記号や数字の羅列には、何か重大な秘密が隠されているはずだった。
「やっぱり、普通の暗号じゃないな……」
隣に立つアンドレが腕を組み、ため息をつく。
「ああ、俺たちも何度か試したが解読できなかった。ロベスピエールは用心深い男だ。重要な情報をそのまま書き残すはずがない」
リュシアンはページの端に書かれた小さなメモに目を凝らす。その筆跡を指でなぞると、記憶の片隅にある肖像画が浮かんできた。
「この筆跡……サン=ジュストに似ている……?」
アンドレが怪訝な顔をする。
「サン=ジュストって、ロベスピエールの右腕の?」
「そうだ。もしこの手帳が彼のものなら、ここに書かれているのは単なる名簿じゃないかもしれない」
リュシアンは書かれた文字を慎重に辿る。すると、そこには一つの名前が浮かび上がってきた。
「……カミーユ・デムーラン」
アンドレの表情が険しくなる。
「デムーランだと?ロベスピエールの親友じゃなかったのか?」
「そうだ。でもここにはこう書かれている。『デムーラン、思想の揺らぎ。革命の精神を逸脱する危険あり』……」
アンドレと仲間たちは顔を見合わせた。
「つまり……デムーランはロベスピエールに疑われ、粛清の候補になっている?」
「その可能性が高い。もしそうなら、彼は我々の重要な味方になるかもしれない」
その時——
外で微かな音がした。
「誰かいる……!」
アンドレがすばやく銃を構える。リュシアンは蝋燭の火を消し、暗闇に目を凝らした。
「……大丈夫だ、仲間だ」
低い声と共に、一人の男が部屋に入ってきた。
「遅れてすまない。街にはロベスピエールの密偵が溢れている」
ジャン=ポールだった。
「デムーランは?」
アンドレが問い詰めると、ジャン=ポールは重々しく頷いた。
「コンシェルジュリに捕らわれている。まだ裁判を受けていないが、時間の問題だ」
リュシアンの胸がざわついた。
「つまり……処刑される前に救い出さなければならない」
アンドレが鋭い視線を向ける。
「作戦はあるのか?」
リュシアンは手帳のメモを開き、ある一文を指差した。
「コンシェルジュリの地下には、秘密の抜け道がある……もともとは王族の逃走用に作られたものらしい」
アンドレが目を細めた。
「使えるのか?」
「封鎖されている可能性はあるが、やるしかない」
ジャン=ポールが短く息を吐いた。
「時間がない。すぐに行動しなければ……!」
リュシアンとアンドレは互いに頷き、武器を確認した。
「デムーランを救う。——それが、我々の革命の次の一歩になる」




