第14話:不意の救援
リュシアンを取り囲んでいた男たちの間に、ひとりの男がゆっくりと歩み寄った。
「そいつを放せ。」
低く響く声に、革命派の腕章をつけた男たちは一瞬動きを止めた。しかし、すぐに警戒を強め、短剣を握る手に力を込める。
「お前……誰だ?」
男は闇の中から姿を現した。鋭い目つきに、無精ひげの生えた頬。身なりは粗末だが、その佇まいには並の男とは違う威圧感があった。
「俺は関係ない。ただ、この男には用がある。」
「ふざけるな! こいつは穏健派のスパイだ。我々の敵を庇うつもりか?」
リュシアンはじっと男の顔を見つめた。どこかで見たことがある——いや、違う。だが、この男はただ者ではない。
「俺の言うことを聞いた方がいい。」
男はゆっくりと腰に手を伸ばした。
「……!」
革命派の男たちは一斉に警戒する。男の手は銃のグリップにかかっている。
沈黙が支配する中、リーダー格の男が舌打ちをした。
「ちっ……。覚えていろよ。」
そう言い残し、男たちは闇の中へ消えていった。
リュシアンは静かに息を整えた。
「助けてくれて、ありがとう。でも……君は?」
男は薄く笑った。
「お前こそ、こんなところで何をしている?」
「……ある人物の動向を探っていた。」
「フッ、きな臭いな。」
男は一瞬目を細めたが、すぐに笑った。
「さあな。だが、お前がただの市民ではないことは分かる。」
リュシアンはさらに問いかけようとしたが、男は手を上げて制した。
「ここにいると、また連中に見つかる。ついてこい。」
「どこへ?」
「安全な場所だ。」
リュシアンは一瞬迷ったが、今は彼の言葉に従うしかないと判断した。
男はリュシアンをパリの裏通りへと案内した。暗く、湿った道を進み、やがて古びた建物の扉を開ける。
「入れ。」
リュシアンが中に入ると、そこには数人の男たちがいた。皆、慎重な目で彼を見つめている。
「お前ら、こいつは味方だ。」
男がそう言うと、皆が少し緊張を解いた。
「ここは?」
「俺たちの隠れ家のひとつだ。」
「君たちは……穏健派か?」
男は小さく笑った。「まあ、似たようなものだ。」
リュシアンは直感的に悟った。彼らは単なる革命派ではない。何か別の目的を持っている——。
男はようやく名乗った。
「俺の名はアンドレ。」
「お前が知りたいのはロベスピエールについてじゃないか?」
「……何故だ?」
「さっきお前に絡んでた連中から察するに……そこから奴に繋がるのは容易いさ。」
「…だとしたらどうなんだ?」
アンドレは小さく笑い、棚の奥から一冊の手帳を取り出した。
「見せたいものがある。」
「これは……?」
「ロベスピエールの秘密を記した手帳だ。」
リュシアンは驚き、慎重にそれを受け取る。ページをめくると、暗号のような記述が並んでいた。
「これは……ロベスピエールの取引記録?」
「そうだ。だが、暗号化されている。」
リュシアンは息をのんだ。もしこれが解読できれば、ロベスピエールの独裁を崩す大きな武器になる。
「これをどうするつもりだ?」
「お前が解読できるなら、しろ。」アンドレは静かに言った。「俺たちはロベスピエールを倒すために動いている。お前もそのつもりなんだろ?」
リュシアンは手帳を握りしめた。
「……ああ、やるしかない。」
こうして、リュシアンは新たな仲間とともに、ロベスピエールを追い詰めるための戦いに足を踏み入れることとなった。




