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第10話:未来を背負う者たち

リュシアンがベルナールたちの隠れ家に身を寄せて数日が経った。外の世界は騒がしく、夜になれば兵士たちの巡回する足音が聞こえ、昼間には革命を叫ぶ民衆の声が響く。しかし、彼の胸中で最も重くのしかかっていたのは、ベルナールが向ける疑いの眼差しだった。


そして、その夜――ベルナールはついにリュシアンを呼び出し、核心に迫った。


「リュシアン、お前は一体何者だ?」


低く静かな声だったが、その鋭いまなざしは逃げ道を与えない。


リュシアンは一瞬言葉を探したが、何とか取り繕おうとした。

「俺は……ただ、偶然この街に流れ着いた者だよ。」


しかし、ベルナールは冷静に首を振り、机の上に広げた地図を指した。


「これはパリの勢力図だ。赤い印はロベスピエール率いる急進派、青は我々穏健派。そして黒い領域は王党派の拠点。国外にはオーストリアとプロイセンの軍がこの革命を潰そうと構えている。」


リュシアンは地図をじっと見つめた。記された名は、歴史の教科書で見たものと一致していた。


「お前の動きは、この時代の者とは思えない。お前は何者だ?」


ベルナールは一歩も引かない。リュシアンは逃げ場を失った。


(もう隠し通すことはできないか……)


リュシアンは静かに息をつき、ついに決断した。


「俺は……この時代の人間じゃない。」


ベルナールの眉がわずかに動いた。


「どういう意味だ?」


リュシアンはポケットからスマートフォンを取り出し、ベルナールの前に差し出した。


「これを見てくれ。これは俺の時代――未来で使われている道具だ。本来ならここから他の人と会話できたり、情報を調べられたりする。でも今は電池が切れてて、ただの黒い板みたいなもんだ。」


ベルナールは慎重にスマートフォンを手に取った。ガラスのように滑らかな表面を指でなぞり、不思議そうに裏返す。


「まるで魔法の道具のようだな……だが、これが未来のものだと証明するには足りない。」


「信じてくれとは言わない。ただ、俺は未来を知っている。……それが事実だ。」


リュシアンは視線を落としながら言った。


ベルナールはしばらく沈黙した。そして、スマートフォンをそっと机に置くと、静かに言った。


「未来がどうなるか、お前はどこまで知っている?」


リュシアンは答えを躊躇った。どこまで話していいのか、自分にも分からない。ただ一つだけ確かなことがあった。


「この国は、これから地獄に落ちる。」


ベルナールの表情が険しくなる。


「ロベスピエールが、やりすぎるんだ。敵を次々と粛清し、ついには自分の仲間すら処刑し始める。そして……最後は、自分も。」


リュシアンの声には確信があった。歴史の授業で習った恐怖政治の光景が、頭の中に鮮明に浮かんでいた。


ベルナールは静かに考え込んでいた。やがて、低く呟く。


「……やはり、そうなるか。」


「あんたは信じるのか?」


「信じるさ。お前が嘘をついているようには見えない。むしろ、その目には……未来を知る者の苦悩が宿っている。」


ベルナールはゆっくりと地図を畳みながら、言葉を続けた。


「だが、知っているだけでは歴史は変えられない。我々は、この手で道を切り開かなければならない。」


リュシアンは深く息をつき、静かに言った。


「俺にできることがあれば協力する。でも、俺が未来を話せば、歴史が変わるかもしれない。その責任を背負う覚悟は、まだない。」


ベルナールは微笑んだ。


「その慎重さこそが、お前を信じる理由だ。我々は自分たちの信念のために戦っている。だが、お前の知識があれば、無駄な犠牲を減らせるかもしれない。」


リュシアンはベルナールの眼差しを見つめた。


(この時代に来たのには、何か意味があるのかもしれない……)


彼はまだ、自分の役割を完全には理解していなかった。だが――この革命の渦の中で、彼はすでに一つの決断を下していた。


「……分かった。俺も、戦う。」


ベルナールはしっかりと頷いた。


「歓迎するぞ、未来からの訪問者よ。」


こうして、リュシアンの運命は、革命の渦の中に深く飲み込まれていくのだった。

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