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新しい推しができました2

「セラフィナ嬢」


国王陛下夫妻と両親の定型の挨拶を聞きながらそんなことを考えていると、名前を呼ばれてはっとする。


いけない、オタクの私はひっこめないと。


「隣に座っているのが、第二王子のランティス・ボルドーよ」


普通は格下の私の方から名乗るべきなのだが、王宮からの半ば無理な申し出だったからだろう、王妃様が先に殿下の紹介をしてくれた。


そしてそれに応えてランティス殿下が浅く頭を下げた。


しかし顔を上げた時の不本意そうな表情、たぶん嫌々連れて来られたのだろう。


「この通り愛想のない奴だが、仲良くしてくれると嬉しい」


「……」


陛下が優しく声をかけてくれたのだが、殿下はこれ以上愛想良くするつもりはないとばかりに、無言を貫いている。


言葉通り本当に無愛想な殿下に、さすがの陛下も少し申し訳なさそうだ。


両親もこの婚約本当に大丈夫か……?という顔をしているし、とりあえず気にしていないふりをして、いつもの完璧令嬢モードで対応しておこう。


「ウェッジウッド公爵家の長女、セラフィナと申します。この度は身に余るお話を頂きまして、恐悦至極にございます」


普通のご令嬢なら殿下の愛想のなさに不機嫌になったり不安になったりするのだろうが、なにせ人生三回目だからね。


なんなら三回の人生合わせて喜寿いってますから、ちょっとやそっとじゃ気分を害したりしませんよー。


ふわりと余裕をもって微笑めば、ほおっと王妃様がため息をついた。


「噂には聞いていたのだけれど、さすがね」


「ああ、まさに〝完璧令嬢〟とあだ名されるだけのことはある」


私が気分を害した様子がないことにほっとした両陛下は、これまで無愛想な息子にハラハラさせられたことが幾度となくあったのかもしれない。


しかし、無愛想なのは私にとっては推せる要素だし、もしかしたら一度心を許した相手にはデレるタイプかもしれないし?


ちなみに私、クーデレは大好物です!


内心でじゅるりと好みのタイプを見つけた興奮をかみしめていると、それまで黙っていた殿下が口を開いた。


「――おまえ、なにを考えている?」


「なっ、なにを言っているんだランティス!」


急に鋭い口調で言い放つランティス殿下を、すぐに陛下が窘めたが、それでも殿下は訝しげな表情で私を睨んでいる。


まあ、ランティス殿下が私を不審に思う気持ちはよく分かる。


なぜなら、彼はその容姿のことで色々あったからだ。


この世界の王侯貴族の家名、それは色になぞらえられている。


たとえば私の家名のウェッジウッドは青系、先日パーティーが開かれたコーラル子爵家は赤系の色の名前だ。


不思議なことに、この世界の貴族は、髪または瞳に家名と同じか近しい色を持って産まれる。


私とフローラは青い瞳をしているし、コーラル子爵や子爵令嬢もそれぞれオレンジを溶かした赤い髪と瞳をしている。


そして国王陛下やランティス殿下などの王族はボルドー、濃い赤色の名前を持っている。


さて、今一度殿下の容姿を思い出してみると分かるが、彼の瞳は赤と青のオッドアイ、正反対の色を合わせ持っている。


そして髪は毛先が青みを帯びた黒。


ここ数代、青系や黒系の家名を持つ家から妃を輩出していないのに、だ。


ちなみに国王陛下は赤髪赤眼、王妃様は金髪翠眼で、遺伝的に考えてもその色味を持つ可能性は低い。


その上、この世界でもオッドアイはかなり珍しく、国にひとりいるかいないかくらいの稀少な存在だ。


ここまでくると、〝王妃様の不貞でできた子?〟と考えてしまうかもしれない。


前前世の人間なら。


しかし、それはありえない。


なぜなら、ランティス殿下の左目の色は、〝ボルドーレッド〟。


直系の王族しか持たない色だから。


そして王妃様が殿下を身に宿した際、その色を持っていたのは、国王陛下とその姉妹、そして当時三歳だった王太子、ランティス殿下の兄王子のみ。


つまり、ランティス殿下は間違いなく国王陛下の血を引いた王子なのである。


とはいえ、殿下を疑いの目で見る者は少なくなく……。


私なんかが想像できる程度には、色々な苦労があったはずだ。


王太子に次ぐ王位継承者でありながら騎士団に混ざって戦場に立ち、公の場にほとんど出てこないという事実だけでも、そう察することができる。


少し長い前髪の隙間から見える、そのふたつの色の瞳をじっと見つめてみる。


私の腹の内を探ろうと思っているのだろう、その眼光は鋭い。


もちろん私のことを信用などしていないし、おそらく期待も全くしていない。


心に闇を抱え、簡単に心を許さない、孤高の存在。


しかも顔も超タイプのイケメン。


「お、」


「……お?」


一音だけ発した私に、殿下は眉を顰めた。


推 せ る ! ! ! !


疑いの目を向けるそんな表情も好みです! むしろもっと睨んでみて下さい! なんなら冷たい言葉を浴びせてもらっても構いません!!!と叫びたくなったのをぐっと堪えて、私はにっこりと笑顔を作った。

夜にもう1話投稿する予定です。

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