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出会いは突然に1

そしてコーラル子爵令嬢の誕生パーティー当日。


私は新しく仕立てた青のドレスに身を包み、フローラプロデュースのアクセサリーと髪型で着飾っていた。


「お姉様、素敵すぎですぅ〜!」


「ありがとう、フローラ。あなたと侍女たちのおかげだわ」


キラキラとした目で私を見つめるフローラと侍女たちに、私もとびきりの笑顔を返す。


自分で言うのもなんだが、今日の装いは本当に私に似合っている。


露出は少ないものの、レース部分の多い深い色合いの青いドレスはとても大人っぽく、私のスタイルの良さを引き立てている。


こんなことを言うと自信過剰に思われてしまいそうだが、なにぶん前世と前前世の記憶を持つ私は、セラフィナの容姿をどこか客観的に見てしまいがちなのだ。


言うなれば、ゲームでプレイしているヒロイン(自分)のレベルを上げたり着飾ったりして、かわいくなった〜と満足している感じだ。


そしてその気持ちはフローラと侍女たちも同じらしく、美しさを増した私を見てうっとりとした表情になっている。


「本当にセラフィナお嬢様は日に日に美しくなっていきますね。それに来年、フローラお嬢様もデビューされて、夜会に出席するようになった時が楽しみです。美人姉妹と評判になること間違い無しですわ!」


「そうかしら? 私、お姉様の隣に立てる日が待ち遠しいけれど、少し怖くもあるわ。お姉様が素敵すぎて霞んでしまいそうだもの〜!」


「まさか、そんなことないわよ。みんなフローラの可憐さに惹かれる方ばかりだと思うわ」


「セラフィナお嬢様とフローラお嬢様は違うタイプなので、おふたりで並ばれると魅力が際立つと思います〜!」


フローラと侍女たちと一緒にこうしておしゃべりをするのも、とても楽しい。


ちなみに基本的に社交界の夜会には、学園に入学する年、十六歳から出席することができる。


つまりフローラは、まだ昼間行われるお茶会などにしか出席したことがない。


でもドレスはやはり夜会用のものの方が煌びやかだし、色気もグンと増す。


……虫たちが可憐な花につられて集まってくること、間違いなしだ。


「さあ、そろそろ時間だわ。みんな、私のためにありがとう。行ってきます」


「「「いってらっしゃいませー!」」」


フローラたちに見送られ、アルとともに馬車に乗り込む。


扉がしっかりと閉じ馬車が動き出すと、アルが口を開いた。


「今日もまた、〝完璧令嬢〟に騙されるご令息ご令嬢が多そうっすね……」


「黙りなさい。それに私は別に騙してなんかいないわ。夢を与えているだけよ」


ふふんと澄ましてみせると、かわいそうに……とアルが芝居がかった様子で目元を拭った。


本当に失礼な護衛である。


「そういえばお嬢、隣国の援軍にと出向いていた第三騎士団が昨晩帰還して、今夜は副団長のコーラル子爵も出席するみたいですよ」


そういえば、友好国である隣国と、その周辺国との諍いを収めるために、我が国からも騎士団を派遣したのだったわね。


「それは良かったわ。彼女、お父様のことをずっと心配していたもの。なにか追加で贈り物をすれば良かったかしら」


「そう言うと思って侍女長に声かけときました。後で通信魔法で伝えるんで、なにが良いか考えといて下さい」


さすがアル、抜け目がない。


うーん、悔しいことに仕事もできるし気も利くのよね。


「強いだけの男だったら、お父様に言って領地の防衛騎士にと勧めることもできたんだけどなー」


「お嬢のお守りも大変ですからねぇ。お嬢が素を出せるのも俺くらいだし、俺をクビにして困るのはお嬢でしょ?」


ちょっとばかり意地悪を言ってやろうと思ったのだが、綺麗に打ち返されてしまった。


たしかに、今さらアル以外の護衛と信頼関係を作るのは非常にめんどくさい……!


「すっかりかわいくなくなっちゃって、十五歳の頃はもうちょっとかわいげがあったのに」


「すいませんねぇ。主の性格が良いもんで、うつっちまったんですよ」


……本当にかわいくない!!





馬車内でアルと口論?を繰り広げていたことなどおくびにも出さず、会場に到着した私は、コーラル子爵令嬢の元へと向かった。


「コーラル子爵令嬢、本日は誠におめでとうございます」


「セラフィナ様! ご出席頂きまして、ありがとうございます。それに贈り物も……。とても素敵な香水で、使うのが勿体ないくらいでした」


「まあ。そんなことを言わずに、使ってやって下さいませ。素敵なガラス細工の香水瓶も香りも、あなたにとても似合うと思ったから選んだのですもの」


主役であるコーラル子爵令嬢は、柔らかな色合いの桃色のドレスに身を包んでいる。


元々かわいらしい容姿をしているが、今夜は特別綺麗な笑顔が綻んでいて、とてもかわいらしい。


最近の彼女は、少し沈みがちだった。


きっと、父親の身を案じて気が立っていたのだと思う。


でも、今日の彼女の表情は穏やかで、心からの笑みを浮かべているのだと分かる。


「……ですが、わたくしからの贈り物などよりももっと素敵なことがあったようで、わたくしも嬉しく思いますわ」


「セラフィナ様……!」


目を見開くコーラル子爵令嬢の少し後ろに視線を映せば、精悍な顔つきのコーラル子爵が立っている。


「あなたのお父様を想う気持ちが、きっと届いたのでしょうね。コーラル子爵閣下、本日は誠におめでとうございます。また、無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます」


「ウェッジウッド公爵令嬢、恐れ入ります」


子爵は副団長を務め上げる騎士らしく、少し厳格な雰囲気をしているのだが、私からの挨拶に柔らかく微笑んで応えてくれた。


「素敵な一日となりますように。ただ、そのことを知ったのが会場に来る前のことでして。後ほど改めてお祝いの品をお贈り致しますわ。……ご家族で楽しんでいけるものを考えますので、どうぞ楽しみに待っていて下さいませ」


涙を拭う子爵夫人にも挨拶をして、次の方がお待ちだからとその場を離れる。


コーラル子爵一家はとても仲が良い。


アルのように素を晒せはしないものの、親しい友人としてそんな姿を心から嬉しく思うし、良かったですねと言いたいと思っていたので、きちんと話せてよかった。


それだけで嬉しくなって、他の友人たちとのおしゃべりにも花が咲く。


それにしても、着飾ったご令嬢たちときゃっきゃウフフするのは本当に楽しいわね!


ご令嬢たちへの褒め言葉も、スラスラと出てくるってものだわ。


そうしてパーティーを楽しんでいた時だ。


「? あ、あれは……」


ひとりの招待客の驚いたような呟きに、私たちは声の方へと視線をぱっと移した。


「珍しいですね、あの第二王子が……」


「尊い血筋が流れているとはいえ、やはり、その、少し……」


怯えるような囁きの向こうに立っていた人物の姿を目にした私は、目を大きく見開いたのだった。

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