こうして完璧令嬢ができあがりました3
本日2回目の投稿です。
前のお話を読んでいない方は、ひとつ戻って下さい。
「「「「「おかえりなさいませ、お嬢様」」」」」
「ただいま戻りました。皆さんもお疲れ様です」
そう声をかけ、大勢の使用人たちの間を通ってエントランスを抜ける。
すると、ぱたぱたとかわいらしい足音が近付いてきた。
「お姉様! おかえりなさい!」
ああ、今日もかわいい、私の推し。
「ふふ、ただいま、フローラ」
おばあ様譲りの薄い桃色のふわふわとした髪を揺らしながら駆け寄ってきたのは、今年で十五歳になった私の妹、フローラ・ウェッジウッド。
そのままがばりと私に抱き着いてきた。
「今日は遅かったですね? もう、どうせ今日もご令嬢たちに囲まれてなかなか帰れなかったんでしょ?」
「そう口を尖らせないで。ほら、あなたが一緒に読みたいって言っていた魔法書を借りに、図書室に寄っていたのよ」
令嬢たちに囲まれて遅くなったのも本当だけれど。
そう心の中で呟きながら鞄から魔法書を取り出すと、きらきらとしたフローラの青い瞳がさらに輝いた。
「わあ、ありがとうございますお姉様! お着替えが終わったら、一緒に読んで下さいます?」
「ええ、もちろんよ。少し待っていてくれる?」
やったぁ!と大喜びするフローラはまさに天使、尊い。
フローラが生まれた時、ひょっとして妹とバチバチしちゃう系の物語に転生しちゃってたらどうしようかと思ったのだが、今のところそんな様子はない。
前前世でいろんな異世界転生系の小説を読んだし、乙女ゲームや小説の中に転生しちゃった系の話も読んだけれど、前世も今世もまったくそれらに当てはまっていない。
『ひょっとして前世で好きだったあのゲームの……!?』って展開にはなっていない。
フローラとの仲も良好だし……。
良好どころか、互いにシスコンぽいなという自覚はあるけどね。
今のところ今世も物語の世界ではないのかなと思って、ヒロインを演じるでもなく、悪役令嬢の死亡フラグを折るために必死になることもなく、自分の好きなように過ごさせてもらっている。
とりあえず、かわいい天使な妹、最高!
「相変わらずフローラお嬢様には激甘ですね」
「当然でしょ。顔はもちろん極上の美少女、それに教養も愛嬌も最高値。加えて私のことが大好き。私の最推しだもの」
ぼそりと呟くアルにそう答えながら自室へと戻る。
そして侍女に着替えを手伝ってもらいながら、先程のフローラの姿を思い出す。
生まれた時からかわいかったけれど、最近ますます美貌に磨きがかかったわね。
この分じゃあ、来年学園に入学したらとんでもない騒ぎになりそうだわ。
おかしな虫がつかないように、私がきっちりと見張っていないと……。
そんなことを考えながら着替えを終え、部屋の前で待ってくれていたアルを伴い、フローラが待つ談話室へと向かう。
「お姉様! お待ちしていました。お姉様の好きなアップルティーを淹れてもらいましたので、こちらにどうぞ!」
天 使 か な ?
かわいすぎる笑顔で出迎えられ、しかも私の好きなお茶まで用意して待っているなんて……。
「ありがとう、フローラ。私もあなたの好きなマカロンを用意してもらっているの。一緒にいただきましょう?」
「はいっ!」
推しの眩しい笑顔に悶絶したい気持ちを抑え、努めて平静を保つ。
ふたりソファに並んで座り、アップルティーとマカロンを頂きながら魔法書を読みつつ、おしゃべりをする。
放課後の過ごし方としては最高ね!
「それにしても、私も早くお姉様と一緒に学園に通いたいです……。それに、みっつも年が離れているから、二年間しか一緒に通えないのが残念で……」
「あらあら。まったく、本当にフローラはかわいいわね。ふふ、わたくしも来年が待ち遠しいわ。でもわたくしも、卒業した後にあなたがひとりで三年間通うのは心配なのよね……」
学園とは、貴族の十六~二十歳の子女が通う学びの場だ。
つまり十八歳の私が通えるのはあと二年。
三歳年下のフローラと一緒に通える二年の間に、変な虫がつかないよう、しっかり対策しておかなければ……。
「もうお姉様ったら、いつまでも子ども扱いしないで下さい。私だってお姉様がいなくてもちゃんとできます! ウェッジウッド家とお姉様の名を汚さないようにって、それくらいの矜持はあります!」
ぷうっと頬を膨らませるフローラもかわいい。
どうしよう、かわいいが溢れている。
「そうね、ごめんなさい。でもフローラはすごくかわいいから、あっという間に人気者になっちゃうのは間違いないと思うのよね。わたくし、フローラの同級生たちに嫉妬してしまうかもしれないわ」
「お、お、お姉様よりも優先してしまうことなんてありません! いつまでも私の一番は、お姉様ですっ!」
ひしっとフローラが私に抱き着いてきた。
いい匂いがするー。
「ふふ、ありがとう。でも、あなたがたくさん仲の良いお友だちを作って交流を深めるのも、大切なことよ。それに、恋をしちゃうこともあるかもね?」
でも、私のお眼鏡に叶うくらいのスパダリじゃないと駄目よ?
そんな気持ちでフローラの頭を撫でる。
フローラと恋仲になるなら、もちろんイケメンで、お金も持っていて、仕事もできて、なによりフローラのことを誰よりも愛してくれる人じゃないと!
そんな人が現れるまでは、私がちゃんと羽虫たちを追い払わないとね!
「……それを言うなら、お姉様だって。そろそろ婚約者を決めないといけないって、お父様たちが話してるの聞きましたよ?」
おや、今までもお見合い話はいくつか持ち上がったものの、お父様が問答無用で断っていたのに。
ついにそんな話になったのね。
まあたしかに、十八という年齢を考えたらそろそろ真剣に考えなければいけない頃か。
「でも私、そんじょそこらのご令息じゃあ、お姉様には釣り合わないと思います! ですから、お父様に言ったんです、私が認めるくらい素敵な男性じゃないと、お姉様の結婚には賛成しません!って!」
腕の中のフローラが、むうっとしながら上目遣いで私を見つめてきた。
え、なにこのかわいい生き物、天使?
「わたくしも丁度あなたのお相手はあなたを心から愛してくれる最高の男性じゃないと……と思っていたところよ。いやね、わたくしたちったら、同じことを考えていたのね」
うふふと笑って頭を撫で続けると、フローラが甘えた声を上げた。
「お姉様っ、大好きですっ!」
「あらあら、わたくしもよ」
えへへと満足そうに私に抱き着くフローラのかわいさが、とどまるところを知らない。
安心して、フローラ。
あなたに婚約の話が持ち上がった暁には、ちゃんと私があなたに相応しい男性かどうか、見極めてあげるからね!