完璧令嬢の本気、とくとご覧あれ5
「――ではまたな、って簡単に納得するとでも思ったか?」
「あら、やっぱり駄目でした?」
とりあえず魔物は倒したし私は一回帰りますね☆と言ったら、ランティス様はこめかみをぴくぴくと痙攣させてしまった。
「転移魔法、ですか。先ほどの戦いから、ご令嬢がかなりの熟練した魔法使いであることは分かっていましたが、まさかそんな魔法まで……」
「しかも王都のウェッジウッド公爵邸からだと? それだけの距離の移動なんて、どれだけの魔力量と繊細な魔力操作が必要だと思っているんだ」
クラークさんも驚き、ランティス様はもう驚きを通り越して呆れたような表情をしている。
でもフローラにはすぐ戻るって言っちゃったし、お父様やお母様には内緒で出てきてしまったので、とにかく一度戻らないと。
だから、転移魔法を使えることをこっそりふたりには伝えたのだが、やはりかなり驚かせてしまったみたいね。
「いや、だが納得もしている。なぜこんなに早くおまえが駆けつけられたのかと不思議に思っていたからな。騎士団の猛者達とともに馬を飛ばしてここまで来たというのに、その日のうちに追いついてくるなどありえないからな……」
もう諦めたようにため息をつくランティス様の憂い顔も素敵だ。
戦いの最中の凛々しい表情も、もちろん素敵だったしね!
「ランティス様やカーマイン卿を置いて行くようで申し訳ありません」
「いや……。俺たちにおまえを同行させるのも、騎士たちにとっては毒だろうからな。むしろその方が良いだろう」
毒?
どういうことなのか。
「……おまえは自分の容姿について自覚していないのか? その上あんなことを言って騎士たちの心を掴んでしまったからな。全く、色々な意味で恐ろしい〝完璧令嬢〟だな」
はぁぁと今度は深いため息をつかれてしまった。
ああそういう意味ね!と納得する。
「もちろんある程度の自覚はしておりますが。申し訳ありません、戦いの場ですっかり忘れておりましたわ」
前世や前前世の時の感覚でいたから、いつものセラフィナから少し外れてしまっていたかもしれない。
いけないいけない、もう戦いは終わったのだから、お淑やかな令嬢モードに戻らないと。
「失礼いたしました。貴族令嬢らしからぬ言動も多かったですね。お見苦しいところをお見せしてしまいました」
「……いや。別に、悪くはない」
戦闘モードになってしまっていたことを謝ると、ランティス様は控えめに首を振った。
「先ほども言ったが、今回は本当におまえに助けられた。それに、俺は、その……」
そこまで言うと、ランティス様はなぜかもごもごと口ごもってしまった。
どうしたのだろうと首を傾げると、ランティス様のうしろから、やれやれとクラークさんが前に一歩出てきた。
「殿下、なにをおっしゃりたいのか分かりませんが、ご令嬢が困っていますよ? 騎士たちも待っていますし、言いたいことがあるならとっとと伝えて下さい」
わぁ、クラークさんてば結構ズバッと言っちゃうのね。
意外な主従関係を目の当たりにして、ちょっぴり驚く。
「う、うるさいなおまえは! そんなことは分かっている!」
顔を赤く染めてランティス様が怒る。
そんなに恥ずかしいことを言おうとしていたのかしら?
そしてこほんと咳払いをすると、ランティス様は意を決したように私に向き直った。
「俺は、おまえが戦っているところを、見苦しいなんて思わなかった」
予想外の言葉に、目を見開く。
「たしかにその服装も令嬢らしからぬと言えばそうだが……。だが、戦うおまえの姿は、国を守るために戦う俺たちと変わらない、覚悟や強さが見えた」
「覚悟と、強さ……」
ぽつりと零すと、そうだと頷かれる。
「ただの箱入りのお嬢様の戯れかと思えば、そうではない。騎士たちを案じて指摘する姿も、仲間を傷付けられて奮起する姿も、その……」
そこで一旦言葉が途切れたが、ランティス様はごほんともう一度咳払いをして口を開いた。
「う、美しいと、俺は思った! ドレスやアクセサリーで着飾る姿よりも、よほど」
そう最後まで言い切って、ランティス様は先ほど以上に真っ赤に染めた顔を逸らした。
その姿は、嘘をついているようには思えなくて。
「……ふふ、ランティス様は変わっておられますのね。でも、嬉しいです」
前世と前前世の記憶を持つ、〝私自身〟を受け入れてもらえたみたいで。
「自慢ではありませんが、今まで言われた〝美しい〟の中で、一番心に響きました。ありがとうございます、ランティス様」
やばい、嬉しすぎて顔面崩壊しそう。
みっともなく崩れたにやけ顔になる前に、転移しなきゃ。
「では、皆様がご帰還される前に、またこちらに戻りますね。騎士たちに、帰る前に身綺麗にして差し上げますと約束してしまいましたから」
後始末と最終調査もあるだろうから、王都に帰還するのは明日以降だろう。
そう考えながら必死に微笑み顔を保ち、転移魔法を展開させる。
ああ、もう少しだけ我慢して私の表情筋。
もうちょっと、もうちょっとだから。
「ありがとうございました、ウェッジウッド公爵令嬢」
クラークさんも、微笑んで見送ってくれる。
そして。
「……ああ、待っている。またな、……セラフィナ」
穏やかな微笑みのランティス様に名前を呼ばれた次の瞬間、転移魔法が発動した。
そしてぐにゃりと視界が曲がり、ウェッジウッド邸の自室へと戻ってきた。
「うえぇぇ……。か、帰ってきましたね……。ってお嬢、大丈夫ですか?」
吐きそうな顔のアルが、私を見てぎょっとする。
「だ、大丈夫じゃない……。なにあの顔。しかも名前……呼び捨て……し、死ぬ……」
寝転がり悶絶してぷるぷる震える私に、アルはとりあえず早く俺の転移酔いを治してくださいと、真剣な表情でお願いしてくるのだった。
今日は夜にもう1話投稿する予定です!




