こうして完璧令嬢ができあがりました1
三度目の生を受け、十八年の月日が流れた。
「お、おはようございます、セラフィナ様!」
「ごきげんよう、カメリア伯爵令嬢。まあ、今日の髪飾り、とても素敵ですわね。可憐なあなたにとてもよくお似合いですわ」
「セラフィナ様! お待ちしておりましたわ!」
「あら、コーラル子爵令嬢。ふふ、お誕生日おめでとうございます。週末のパーティも楽しみにしておりますわ。ささやかではありますが、贈り物も用意しましたの。気に入って頂けると嬉しいのですが」
「「「「「セラフィナさまぁ~!!!!」」」」」
黄色い声に、にっこりと微笑んで手を振り応えれば、また「きゃぁぁぁぁ!」と悲鳴に似た歓声が起きる。
その令嬢たちの目がハート型になっているように見えるのは、私だけではないだろう。
転生して早十八年、私はこのとおり、貴族の令息令嬢たちが通う学園でも抜群の人気を誇る、立派な公爵令嬢に育った。
「おい、今日もすごいな……」
「ああ、さすがウェッジウッドの〝完璧令嬢〟。他のご令嬢たちの目には、俺たちなんざ映ってもいないのだろうな……」
少し離れたところでげんなりとした表情でこちらを見つめているふたりの令息がいる。
そちらに視線を向ければ、ぱちりと目が合ってしまった。
はじめはびくりと肩を跳ねさせていたふたりも、私がすこし首を傾げて微笑めば、ぽぉっと頬を染める。
ふ、ふふふふふ。
どうよ、この老若男女すべてを虜にする、完璧令嬢スマイルは!
そんな内心をおくびにも出さず、上品な話し方と笑顔で令嬢たちと楽しくおしゃべりをしながら講義室へと向かう。
ああ、これよこれ。
特訓だの訓練だのに明け暮れることもなく、健康を損ねることもなく、危険に自ら飛び込み命を落とすこともない令嬢ライフ。
これこそ私の平穏無事な長生きの道だったんだわ!!!
生後一日目で人生を謳歌することを決意した私は、その後、新生児が起きていられる短い時間の中で、色々な策略を練っていた。
一度目と二度目の人生は男勝りだったが、今世はお淑やかなザ・令嬢を目指そう。
令嬢なら剣術だの魔法だのを極める必要はない、その代わりにマナーや教養を学ぼう。
公爵家なら食べるものやお金の心配をすることはない、それなら自分を磨き上げることにお金をかけようじゃないか。
鏡で自分を見たことはまだなかったが、両親はだれもが頷く美形、私も美しく育つに違いない。
財力・権力・美貌・教養、このすべてを兼ね備えれば、きっと前世と前前世で成しえなかった、平凡でも良い、幸せな結婚とやらができるに違いない。
それに前前世から美形好きだった私、貴族の世界なら、美形を拝む機会も多いはず。
節度はわきまえるつもりだけれど、かわいらしいヒロインのような令嬢を愛でることも、ヒーローのようなイケメン令息を推すこともできるはずだ。
後々のことを考えれば、私を愛してくれている両親なら、変な結婚相手を見つけてはこないだろうし。
なんなら自分で相手を選ばせてくれるかも?
それで幸せな結婚をして、子どもを産んで使用人に手伝ってもらいながら心に余裕を持った子育てをして、孫が生まれてかわいがって……。
ちょっと待て、公爵令嬢ライフ、最高じゃない?
『あうあうあぁ~』
にたりと笑う赤ちゃんの私に、両親が「笑ったわ! なんてかわいいの! 天使の微笑みだわぁ~」と言って頬擦りしてきたことが、数えきれないほどある。
まあそんな感じで私は、幸せな人生を送るべく、自分磨きを始めたのだ。
この世界は二度目の人生とほとんど変わらない世界観で、いわゆる〝なーろっぱ〟風、王様や貴族の階級制度があり、騎士も魔術師も魔法も魔物も存在している。
そんな世界の、ボルドー王国指折りの公爵家、ウェッジウッド公爵家の長女として生まれたのがこの私、セラフィナ・ウェッジウッドだ。
お母様譲りの輝くような金髪、お父様譲りの澄んだ青い瞳。
誰もが振り向く美貌なのは言うまでもない。
そして成長してからは、とにかくマナーや語学、算術に歴史などの教養を学びまくった。
前前世でも育成系の乙女ゲームにはまるくらい、育てるのは好きだったのよね。
それにセラフィナは地頭も良かったしセンスもあった。
それに加えて二度の人生で得た知識と技術も持ち合わせているのだから、それこそチート状態だったのだ。
いや~でも育成という名の自分磨き、楽しかったわぁ。
地頭が良いってことで、難しいこともすぐにすうっと頭に入ってくるんだもの。
やればやっただけ実になる、そりゃ勉強も苦にならないわ。
ちなみに魔法については、王宮魔術師レベルの技術を持っていると自負している。
貴族令嬢として、ある程度の魔法スキルは求められるのだが、そんなレベルではない。
元々の魔力が多い上に、前世で座学も実技もしごかれた知識と経験があるからね、そんじょそこらの魔術師には負けないと思う。
前世で使えた魔法が今世でも使用可能かどうかも、ちゃんと幼い頃に隠れて実証済みである。
強力な攻撃魔法以外は。
まぁ外では手加減して魔法を使っているから、私がどれだけ魔法が使えるかは家族くらいにしか知られていないけれど。
ちなみに剣術については必須ではないが、やはりある程度体を動かした方が体の調子も良いので、護身術を学びたいからとお父様にお願いをした。
最初はかわいい顔に傷でもついたら……と危惧されたが、うるうる上目遣いでおねだりし、敷地内だけという約束で、気分転換がてら時々護衛に稽古をつけてもらっている。
ほら、やっぱり長年剣道少女と女騎士やってきたからさ、まったく体を動かさないとうずうずしちゃうのよ。
身体も引き締まるしさ、見てよこの出るとこは出て締まるところは締まっている、ボンキュボンなスタイル!
とまぁ、魔法と剣術については隠していることもあるけれど、そうして十八年努力を重ねた私は、立てばカトレア座ればバラ、歩く姿はユリの花って感じに育ち、巷では〝完璧令嬢〟と呼ばれるほどに成長したのだ。
十八年の努力は無駄ではなかった。
今世の私の未来は明るい!
「まあ、セラフィナ様、今日はとても楽しそうですね。なにか嬉しいことでもあったのですか?」
隣を歩く令嬢のひとりにそう問われて、にっこりと答える。
「今日もみなさんがとても愛らしいので、つい。ふふ、こんなに素敵な友人がたくさんできて、わたくしは幸せ者だと改めて感じておりました」
「「「「「セ、セラフィナ様……!!!」」」」」
再び目をハート型にさせる令嬢たちに、微笑みを返す。
ああ、今日も若い女の子たちがかわいい。
私ってば、なんて幸せなの。
そんなことを思いながら、私は上機嫌で講義室の席に着いたのだった。
明日も朝夕2回投稿する予定です。
よろしくお願いします(*^^*)