出会いイベント、重要ですよね!3
本日2回目の投稿です。まだ前の話をお読みでない方は、ひとつ戻って下さい。
大丈夫かしらと思いつつ、なにかおすすめの品はないかしらと尋ねれば、お姉さんははっと我に返った。
「た、ただいまお持ちいたしますので、しょ、少々お待ちください!」
そう言うと、お姉さんは顔を真っ赤にして慌てて商品を集めに向かってくれた。
「お嬢、こんなところでもファンを増やすの、止めてくださいよ」
「やぁね、私は別に思ったことを言っているだけなのだけれど?」
こそこそと近寄ってきたアルにそう言い返す。
嘘は言っていない。
フローラとのデートは楽しみだったし、アクセサリーを選ばせてくれるのだって嬉しいと思っている。
「……今更ですけど、あんたが男じゃなくて良かったです」
はあっとため息をつくアルに、なに言ってんのよとその背を軽く叩く。
女としての人生三周目、今更男になれと言われても無理な話だ。
まあ中身は多少ガサツなところがあるけれども。
そんなことを思いながら、店内の商品を見回してお姉さんを待つ。
それにしても、素敵なアクセサリーが揃っているお店だ。
今世の私はくっきりとした顔立ちで、大ぶりの豪華なものが似合うのだが、個人的には繊細な細工の小ぶりなものも好きなのよね。
前前世と前世の影響かしら、体を動かすから邪魔にならない程度のオシャレに憧れていたというのもある気がする。
すると奥から、店員のお姉さんがたくさんの箱を持って現れた。
「お待たせいたしました! こちらにどうぞ!」
「ありがとうございます。フローラ、見せてもらいましょう?」
「うんっ!」
素晴らしい早さで準備してくれたお姉さんにお礼を言い、私たちはさっそくアクセサリーを選ぶのだった。
げんなりとした表情のアルと、微妙な顔をしたフローラの護衛騎士のことを気にすることなく。
「はぁぁぁぁ〜! すうっごく美味しーい!」
「本当ね。クリームが絶品だわ」
買い物を終え、私たちは最近流行っていると噂のカフェに来ていた。
フローラに似合うアクセサリーを見つけられて満足だし、新しいペンもフローラに選んでもらえた。
たかがペンなのに、『お姉ちゃんに似合うのはこれかしら……あ、でも使い心地が……』と真剣に悩んでくれる姿に、私の心はほっこり温かくなった。
ついでにとお忍び用の服も新しいものを買った。
お互いに似合いそうなものを選んで、試着して。
こんな町娘がいたら、お忍び中の王子様に見初められちゃうに決まってるわ!というくらいのフローラのかわいさに、目がくらんでしまいそうになった。
ちなみにアルとフローラの護衛には、たくさんの買い物袋を持たせることになってしまい、ちょっと申し訳ない気持ちだ。
仕事だから口には出していないが、女の買い物に付き合うのにうんざりしていることだろう。
ちなみに顔には出ている。
隠しきれていない、特にアル。
「でも、いつものことだけど、みんなお姉ちゃんに見惚れてて、ちょっぴり嫉妬しちゃったわ。お姉ちゃんも愛想振り撒きすぎ。どの店の店員さんもお姉ちゃんを見てぽーっとしていたわ」
ぷうっとフローラが頬を膨らませた。
あ、その顔かわいい。
店員さん、みんな女の人だったんだけどね、みんなかわいかったから、つい。
「どのお店の店員さんもとてもセンスが良いんだもの。フローラに似合うものばかりおすすめしてくれたから、嬉しくてつい買いすぎちゃった。だからお礼もしっかり言いたくて」
「またそんなこと言って……! もう、そんなこと言われちゃ、ヤキモチも焼けないじゃない!」
少しぷりぷりしつつも、フローラはまんざらでもない様子だ。
「あまり怒らないで? ほら、私のケーキ、ひと口あげるから」
とどめとばかりに私は、フォークにケーキをひと口分乗せてフローラの口元へと運ぶ。
フローラもちょっとびっくりしつつも、口を開けてぱくりと食べてくれた。
あーん、最高!
お忍び中くらいしか、こんなことできないもんね!
「美味しい?」
「……っ、うん」
もぐもぐと頬を染めて食べるのもかっわいーい!
これよこれ! これがやりたかったのよ私は!
にこにことご機嫌でその様子を見守っていた私の背後から、アルとフローラの護衛の呟きが耳に入ってきた。
「俺達、なに見せられてるんですかね……」
「耐えろアルバート。セラフィナお嬢様のあの振る舞いを己がものにすれば、俺達もモテるかもしれんぞ。学びの機会と思え」
どうやらふたりは、私とフローラのいちゃいちゃにあてられてしまったようだ。
ふふん、なんとでも言いなさい!
今日はフローラとのデート、私の癒やしのひとときなのだ。
うしろの席の寂しい男ふたり組を無視してカフェでのおしゃべりを楽しむと、そろそろ帰る時間になってしまった。
お支払いを済ませて店を出ると、フローラの表情が寂しそうなのに気付く。
「……あーあ、もう終わり、かぁ」
あーもう、なんでうちの天使はこんなにかわいいかなぁ!
フローラの頭に、うさぎ耳が垂れてしょんぼりしている幻覚が見えるよ!
「そうね、楽しい時間ってあっという間ね」
俯きがちのフローラの頭をそっと撫でる。
「けれど、あっという間だって感じるのも、帰るのが寂しいって思ってしまうのも、私との時間が楽しいものだったっていうことでしょう? だから、私は嬉しいわ」
私の言葉に、フローラが顔を上げる。
「また来ましょうね。今度は今日買った服を着て。またおそろいの髪型にして、今度はおそろいのなにかを買いましょう? 次の楽しみがあれば、少しは寂しさが紛れるかしら?」
首を傾げれば、フローラが目を輝かせて勢いよく頷いてくれた。
ああもう、本当にかわいい!
……あら、いつの間にか私たちの周りに人垣が。
みんなざわざわとこちらを見ているが、今のやり取りを見られていたのかしら?
「……おい、あんな男前な台詞、おまえ言えるか?」
「言えてたら彼女に振られてねーよ!」
「あの背の高い女の人、素敵……!」
「私もデートであんなこと言われてみたーい!」
どうやら一部始終を見られていたようだ。
とはいえ、学園でもよく見慣れた光景である。
私は周りの人たちにもにっこりと微笑んだ。
「ごめんなさい、お騒がせしてしまって」
「「「あ、いえ! 不躾にすみません!」」」
謝罪すれば、街の人たちはそう言って解散した。
やれやれと息をついていると、人の群れの間から、げんなりとした表情の、知っている顔が見えた。
「! ラン……あ、いえ」
ここは街中だと思い出し、はっとして口を噤む。
髪と瞳の色は違うが、間違いない、私の推しだ。
「……人が集っているから何事かと思えば……」
側まで歩み寄ると、ランティス様は眉を顰め、深いため息をついた。
「奇遇ですわね」
「……見てはいけないものを見てしまった気分だ」
なんだか反応がアルに似ているなと、笑いが零れそうになる。
それにしても、こんなところでお忍びスタイルのランティス様に会えるなんてツイてるわ!
簡素な服装なのに気品が隠しきれていなくて、さすが私の推し!!
心の中で跳び上がって喜んでいると、うしろから怪訝そうな声のフローラがやって来た。
「お姉ちゃん、この人、誰?」
その時、はっと気付いた。
こ、これは……!
「……おまえこそ、誰だ?」
ぴくりと眉を顰めるランティス様と、私の腕に抱きつくフローラを交互に見やる。
ま、間違いないわ!
出会いイベント、キターーーーー!!!!!




