第九十四話【ミリネラ:妹の話】
テレシーのことは小さい頃から見ていたわ。
おばあさまの小間使いだった母親を見習って、幼い頃から一生懸命お手伝いをする賢くてかわいい良い子だったわ。おばあさまもとても気に入っていて、よくお菓子をあげていたみたい。
そんなテレシーの両親が相次いで亡くなり、庇護していたおばあさまも亡くなって、孤児院へ入れられると聞いたときは驚いたわ。
なんとか両親を説得して私付きの小間使いとして残してもらえたけど、その後のテレシーは見ていて切なくなるほど頑張っていたわ。私にお礼をする、尽くすのだと、小さな体で本当に一生懸命働いていた。
本当は、私の妹になって欲しかったのよ。
当然、そんな希望は両親が許さず。
テレシー自身、小間使いとして私との間に一線を引いてしまっていたの。
それは悲しかったけど、テレシーが母親と同じ小間使いの仕事に誇りを持っているのだと知って、私は無理を言うのをやめたわ。
もし、あの子が小間使いをやめる日が来るとしたら、それは愛する人を見つけて結婚した時かしら。
色々と夢を見たわ。
もちろんあの子の夫になるなら、優しくて賢くて家庭的で稼ぎもそれなりにあって、見た目はテレシーの好みもあるだろうけどテレシーに見劣りしない素敵な人がいいわ。そして、私たちの屋敷に一緒に住んでくれる人。あの子の父親は実家の御者をしていたから似たようにうちで働く誰かがいいかしら。
けれど、テレシーはまったく男の子とお付き合いをしようとしなかったわ。
オーリー先生の家に来てからも、ご近所でも評判の働き者の器量良しとして引く手数多だったのに。
もちろん、テレシーに聞いたことがあるわ。好みの男性はどんな人かと。
そうしたら……
「運命の人が現れるのを待っているんです」
と、恥ずかしそうに言うんですもの。困ったわ。
漠然としすぎていて、私では探してあげられない。
そんなある日、現れたのがタケユキだったわ。
旅の道中、盗賊からテレシーを助けてくれた異国の少年。いえ、青年だったわね。彼に会ってからのテレシーは激変だったわ。仕事ぶりはいつも通りなのだけど、顔つきがそれこそ絵に描いたような恋する乙女になったのよ。驚いたわ。
ちょっと想像から外れてしまったけど、テレシーが恋をしたなら応援しなければ。主人として。姉として。
それが、どうして、あんなことになってそんなことになってこんなことになって……
『ミリネラ様。私はタケユキさんのお嫁さんになりましたし、シュザージもタケユキさんにプロポーズしてお婿さん二号になりましたよ。一号はもちろんリドルカさんですが。ご心配をおかけしました。これから私はみんなで理想郷を作って女王様になることになりそうですが、私はずっとミリネラ様の妹で……ミリネラ様?』
ああ、目眩が──
「ミリネラ、ミリネラ大丈夫か?」
「トルグ…………あまり大丈夫じゃないわ。なんだかとんでもない話を聞いたみたいで」
「みたいじゃなくて聞いたんだよ」
……夢じゃなかったのね。
「テレシーは元気そうだったね。それに、幸せそうだった」
「そう、かしら。今は良くても、そんな幸せが続くかはわからないわ……」
夫に夫が二人もいる状態なんて、まったく全然考えられない。
トルグをじっと見ながら眉を寄せていると、トルグは困ったように息をついたわ。
「何せ、前世から求めた恋人と出会い、前世の自分ごとその人を得られたのだからね。ちょっと想像は超えるけど」
私もひとつため息をつくと、トルグが笑ったわ。
「困った妹ね……」
「それはこれからもじゃないかな。いや、これまで以上に大変になるよ。なにせオーリー先生が移住に乗り気だ」
「移住?」
「聞いてなかったか? 賢者殿が言っていた、テルセゼウラ復活の件。オーリー先生は魔法陣研究のために滅びの都、いや新王都に誘われたんだよ。私もできれば行きたいんだけど、ミリネラはどうする?」
そんな話になっていたのね。
本格的に魔法陣研究ができるのは魅力的だわ。けど──
「私の妹は女王様になるのね……」
「あの子のことだから、小間使いも辞めないだろうね、どうする? ミリネラ」
からかうようにクスクス笑う私の夫。
「もちろん行くわよ。本当にもう、仕方のない子」
この先もまた、あの子のお茶を飲めるならそれくらいは仕方がないと割り切りましょう。
ただ、タケユキにはあとでちゃんと念押ししなきゃいけないわね。
私の妹を泣かせから承知しないわよと!




