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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第四章 会いに行く
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第九十話【シュザージ:幻の身】


 テレシーは呑気に眠っている。


 タケユキたちが去った途端、ベッドに飛び込み即このザマだ。

 まあ、ここのところずっと気の休まる暇もなかったが、惚れた男が別の男と恋仲になって共寝をしていると言うのになんとも思わんのか。

 私は気が気ではないのだがな。


 ……違う。はらわたが煮え繰り返りそうだ。はらわたなどないが。


 あの様子では、眠るだけで済むはずがない。

 すでに夫婦と称する二人が、やっと安心して二人きりで宿にいるのだ。何もなくただ眠るなど考えられん。


 だが、どうしようもないこともわかっている。


 私はすでに死んでいる身。

 タケユキが指摘したように、呼び付けておきながら死んでしまって放置したのだ。そして、生まれ変わったテレシーは女で、タケユキは自身の事情ゆえ恋愛対象から除外してしまっていた。

 それがなければ、タケユキはテレシーに惚れていたかもしれんのに。


 テレシーならば……許せただろうか。

 許せるとは思えんな。

 仕方なく勧めてはいたが、やはり飲み込めきれんものはある。


 タケユキは私の運命だったのだ。


 百年前に術に失敗せずに生きて彼を迎えられていたら……


 今更考えても詮無きこと。そもそも術が発動するのに百年かかるなら、どうあっても私は生きてタケユキに会うことはなかった。


 取り返しのつかないものを嘆いても仕方がない。だが……だが! 悔しいだろう。あの魔王を殺してやりたい衝動を抑えるのにどれほどの苦労をしているか、誰にわかってもらえようか。


 ……知られても困るのだがな。


 タケユキは心を読めるし、魂に干渉する力も持っている。そもそもテレシーは起きていれば私の心の機微に触れられやすい。

 もどかしいものだ。

 感情を隠すことすらままならんとは。


 魔王が真に魔王で、帝国が邪悪なままならよかったのにな。

 さすれば、私はどんな手を使ってでもタケユキを取り戻した。

 勇者たちには言わなかったが、私にはその手立てがある。


 一国を滅ぼす魔法陣は、記憶にあるのだからな。


 あの日のことを思い出し、深く息をついた。


 あれを繰り返すことは、できるなら避けたい。

 それに、気持ちの上でだが婚姻を結んだことで、これまでよりタケユキとの運命の繋がりもはっきりわかるようになった。自分だけでなく、奴とタケユキの繋がりも。

 奴を殺しても、いずれタケユキを求めて生まれ変わりそうだ。それだけの魔力と執着がある。タケユキが繋いだ運命もな。


 運命か──……


 あの日。咄嗟に魂に転生と記憶維持の魔法陣を描いたが、思いつきだけで描いたもので発動するとは思っていなかった。こうして、記憶を繋いで生まれ変われたのはタケユキと運命で結ばれたからではないかと思っている。

 召喚魔法陣が発動した時に繋がった運命。召喚主と召喚者のつながりもあっただろうが、運命のつながりもその時に確定していたのだ。


 運命の繋がりとは、それほど深いものなのか。

 あるいは、タケユキの持つ不思議な力に由来するものか。


 私の魔法陣が変質したのも、それの影響かもしれん。


 あの山頂で魔王と対峙した時。この世界の力に干渉されないはずのタケユキを捕らえることができた。

 魔王もまた、タケユキの力の暴発を止めたという。

 

 魔力も神力も変質させる力など、聞いたこともない。


 運命の繋がりの成せる技か、異世界の能力者の影響か。

 どちらにせよ、私たちにだけ現れた現象なら別に構うことはない。タケユキを守れる力が、手放さないための力がついただけだ。だが、これが他のものにも影響すればどうなるか。

 それが、邪な願いを持つものに知られればどうなるか……


 異世界の超能力とタケユキは言っていたが、同族も少なく本人もその力については祖母に習った程度のことしかわからないとか。できることならその力の解明は先にしたいが、テルセゼウラの城でなければ術道具から資料から何もかも足りん。

 腹が立つが、テルセゼウラが安全で普通に暮らせる国になるまでは魔王の守りは必要だ。


 私は未だ、自分の手で抱きしめてやることもできんのだ……


 胸の痛みに耐えていると、何かか頭に触れた気がした。

 タケユキがテレシーの頭を撫でた時の感覚に似ている。


 思わず意識を済ませて辺りを確認した。もちろん部屋に誰かがいるわけもない。気のせいか、と思った時──ふいに、意識の先に何かが見えた。


 なんだ……テレシーの夢か。いや、違う。


 タケユキが見える。魔王もいるな。

 宿の部屋で扉を睨んでおるが、どうした?


 まさか──刺客!?


 おいっ! テレシー、起きろっ!


「むにゃ……タケユキしゃん、オミショシルのお茶を淹れましゅね……」


 何を寝ぼけておる!

 タケユキが刺客に襲われるやもしれんのだぞ!


「へっ!?」


 テレシーが飛び起きた。

 私の感情は奥へ奥へとひた隠す。


 すでに、先ほどの幻は見えなくなっていた。



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