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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第四章 会いに行く
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第八十九話

 

 その日の夜。


 庁舎の来客用の宿泊室のひとつに、俺はリドルカさんを連れてテレポートした。


「タケユキさ~んっ」


 部屋の真ん中を空けるために端っこに寄っていたテレシーがポテポテ走り寄ってきた。手を上げて抱きついて来るかと思ったら途中でピタリと止まる。なんだか、俺と手を繋いでいるリドルカさんに遠慮したみたいだ。

 だったらと、俺は両手を上げておいでのポーズ。

 すると、テレシーはパァっと顔を輝かせて抱きついてきた。


 あ、なんかすっかり懐いた頃のポチを思い出した。けど、それは内緒ね。

 ちなみに羽太郎はお休みの時間だったので宿に残してきた。来る前にはもう椅子の背もたれに止まって寝てたし。


「タケユキさん、疲れましたぁ~」

「お疲れ様です、テレシー」

「タケユキさんはちゃんと休めましたか?」

「うん、午後は宿でゆっくりさせてもらったよ」

「そうですか? ならいいですが……」

『おい、テレシー。少し代われ』


 テレシーの隣には幻影のシュザージもいる。何度か俺に触ろうとする仕草をしたけどやっぱりまだ触れないらしい。


「今はダメです。タケユキさんを満喫しているんですから」

『なっ!? 私だって疲れておるのだ! タケユキに触れて癒されたい!』


 シュザージも何か疲れているようだ。

 俺は自分から手を伸ばしてみたけど、やっぱりシュザージには触れない。


「触れないのはやっぱり寂しいね」

『タケユキ……よし、すぐに幻影魔法陣の改良研究を──』

「シュザージ! 今はそんなことしている暇ありますか!? ほら、手を貸してあげますから」


 確かに。

 今夜はまだやることが多いからね。

 テレシーの中のシュザージにギュッと抱きしめられた後。俺たちはまず通信の魔法陣でじーさん先生たちに今の状況を報告することにした。

 朝も昼もバタバタしてしまって遅くなってしまったけど、きっと心配しているだろうしね。


 一息つくと、シュザージが通信の魔法陣を描き始める。もちろんテレシーの手を使ってだけど。

 空中に書き上がった魔法陣。

 テレシーが一度小さく深呼吸をして、魔法陣に話しかけた。


「テレシーです。オーリー先生いらっしゃ……」

『テレシィィィィ!』


 魔法陣の向こうから、ミリネラさんの絶叫が聞こえた。待ち構えてたのか。


「ミ、ミリネラ様!?」

『タケユキには会った!? もう勇者なんてしなくていいのよ、帰って来なさい! 帰って好きなだけ泣いて、今度こそ見返してやれるくらいもっともっといい恋をするのよっ!』


 あ……そうか、皆さんには諦めてもらう話しかしてなかった。


『あの、ミリネラ様。大丈夫ですよ。私はタケユキさんのお嫁さんになりましたし、シュザージもタケユキさんにプロポーズしてお婿さん二号になりましたよ。一号はもちろんリドルカさんですが。ご心配をおかけしました。これからみんなで理想郷を作って、私はそこの女王様になることになりそうです。でも私はずっとミリネラ様の妹で……ミリネラ様?』


 魔法陣の向こうで、バタンと何かが倒れる音がしたよ。トルグさんがミリネラさんを呼んでいる声も聞こえる。


『す、すまんなテレシー、何が一体どうなっておるのじゃ?』


 じーさん先生が出た。

 こういう時って、なんて言えばいいんだっけ。えっと、えっと……


「タケユキです。娘さんを俺にください。毎日お味噌汁を作って欲しいんです」


 あれ?

 魔法陣が沈黙してしまったよ。


『私が説明しよう』


 そう言うと、シュザージがじーさん先生にこれまでの経緯を説明してくれた。説明はうまいね、シュザージ。


「あの、タケユキさん。オミソシルってなんですか?」

「俺の故郷の飲み物で、お嫁さんのご両親に挨拶する時に言う言葉だったと思う。ちゃんと聞いておけばよかった」

「俺もタケユキの両親にすべきか」

「この通信の魔法陣って異世界には通じないのかな」

「私も挨拶したいです。オミソシル作りますでいいんですか?」

『お前たちはその手の話をするな! 少し待っておれっ!』


 しばらくシュザージが説明した後、今度はトルグさんの声が聞こえた。


『……とにかく、みんな無事でうまく話がまとまったということでいいんだな? それで、いつ帰って来れそうだ?』

『まだわからんな。予定が立てばまた連絡する』

『わかった。テレシー、なんだか大変そうだが頑張るんだぞ。帰って来るのを待っているからな。もちろんタケユキもだ』

「俺も、いいんですか?」

『あたりまえだ。オーリー先生の弟子で私の弟弟子なんだからな。ちゃんと帰ってこいよ』


 帰っていいんだ。

 なんだか目が潤んできた。うれしいな。

 リドルカさんがぽんっと頭に手を置いて撫でてくれた。テレシーは俺の肩をぽんぽんしてくれた。

 シュザージがちょっと苦笑いでため息をついていたけどね。

 そこで通信の魔法陣は終了する。


「それじゃあ張り切って理想郷作りですね! まず何からしましょうか?」

『主人の手伝いをする小間使い感覚だな。まあ、テレシーはそれで良いのだが……タケユキ、お前が見聞きしたことを話してくれ。ラスタル神王国のスタングは何か情報を持っていたか?』


 白い髪の神官服の勇者さんだね。


「あの人は……お国では不遇だったのかな? くらいしかわかりませんでした。さっきは頭の中『師匠すごい師匠すごい魔法陣すごい』でいっぱいでした」

『ああ……』


 シュザージがくたびれた声を出した。

 むしろあの人はシュザージが聞けばなんでもホイホイ答えてくれそうだと思うけど、どうなんだろうね。


「この町出身の勇者さんも似た感じでしたね。ただ、町長さんたちはあの四人にはもう町を出て欲しくなさそうでした」

「まだ、ローレンド領は落ち着かんからな……」


 リドルカさんも困ったように言う。

 ずいぶん生物は減ったみたいだけど、何が起こるか分からない場所だし。帝国もまだ後始末に手を出せる状態じゃないしね。


「あの、アロさんたちや町長さんに本当のことは言わなくていいのでしょうか?」


 テレシーが、ちょいと手を上げて言った。


「本当のこと?」

『帝国領地が魔に落ちたのは神王国の謀略のせいだ、などと言えるわけあるまい。情報源を問われるに決まっておる。今の段階でタケユキや、それこそ魔王がフレンディスに来ているなど、誰にも悟らせるわけにはいかん』

「確かに、そうですね」

『聞いた様子では、今は防衛に役立つ魔法陣を少し授けるぐらいしかできん』


 偏った情報ばかり聞かされていたわけだしね。ここで魔王様は良い人ですなんて言っても信じてもらえないと思う。そもそも皇帝の弟がこっそり敵国に来てるなんて、バレちゃダメだし。侵略に来たと思われちゃうよ。

 そこでふと、あの変な人のことを思い出した。


「今日見た中で一番怖いのはあの一見地味な人ですね」

「もしかして、クレオさんのことですか?」

『テルセゼウラの民の子孫で、スルディアから来た貴族だろ?』

「遠かったので心に浮かんでいる中でも簡単な部分しか読めなかったのですが、あの人、俺とリドルカさんがテレシーのこと探してこの町に来たことを知ってました」

『なんだと!?』


 俺もびっくりしたよ。

 これにはテレシーもリドルカさんも驚いている。


「はじめにここに来た時、確かに勇者を訪ねて来たって町の人に話しましたが、テレシーに会いに来たとは言ってません。たぶんまだ当たりをつけただけだと思うんですが、あの人自身ここに来て間がないはずなのにすでに情報収集の伝手をいっぱい持っているみたいです。すごいですね」

「……諜報か」

『なるほど。スルディアはなかなか遣り手かもしれん』

「それって勇者募集にかこつけてこの国のこと探りに来たってことですか?」


 リドルカさんもシュザージもテレシーも同じこと思ってるね。

 隠密兵かもとは俺も思ったよ。

 でもなんか違うんだよな。これまで見てきた隠密兵さんたちとは。


「そのスルディアの勇者さんはテルセゼウラ民集会って組織の一員でもあるそうです。元テルセゼウラの子孫の集まりで本気で再興を考えてる一団があるそうですよ」

『よし、クレオは確保だ。なんとしてもこちら側に引き入れる』

「あと、国に帰ったらスルディアのお姫様と結婚するつもりらしいです。ものすごくそのお姫様が好きみたい」

「まあっ!」


 シュザージもテレシーも目を輝かせたよ。


「けど、神王国についても勇者が集められた理由についても何もわからないままでした」

「隠密兵が調べたものと、タケユキが聞き取った話以上のものはなかったか」


 話す間がなくて今になってしまったけど、帝国の隠密兵や俺がウェルペンのお偉いさんたちから盗み聞きした話もしてみた。

 反乱勢力を煽って帝国を攻撃したのがナルディエ神王国らしいと言うこと。それとバロウ神王国が魔法陣に興味を持っていること。ラスタル神王国はどちらかから圧力をかけられて勇者を集めたらしいこと。


『ナルディエが魔王石、バロウが魔法陣を狙っていてラスタルはその手先か。ウェルペティについては?』

「わからん」

『今のところ、帝国にちょっかいをかけているのはナルディエ単体なのか? 狙いはあくまで魔王石で、積年の恨みで帝国を滅ぼそうとしているわけではないと?』

「わからん。ローレンド領主は簒奪を目的とし、ナルディエ神王国と何かしら取引をしていたということしか、わかっていない」

『情報が足らんな。まあ、こんなものだろうとは思っていたからいたしかたない。タケユキのせいではないから気にするな。むしろ新生テルセゼウラにとっては朗報が多かった。感謝する』


 よかった。少しは役に立てたんだな。

 そう思ってホッとしていたら、シュザージがじっと俺を見た後リドルカさんを見て言う。


『さて、もう夜も深まってきた。あまりタケユキの休む時間を取るわけにいかんので話を終わらせたい所だが。ひとつお前に聞いておきたい』

「え? 俺は昼に休んだからまだいいよ?」


 首を傾げて問うてみたが、シュザージはリドルカさんを見たまま続けた。


『お前が私やテレシーを受け入れたのは、自分が死んだ後にタケユキを託すためか?』


 その言葉に一瞬、息を飲んだ。


「シュ、シュザージ!」


 テレシーも同じか、青い顔で慌てたようにシュザージを諫める。

 が。


「そんなつもりは毛頭ないが?」


 答えながらリドルカさんは俺をグイッと抱き寄せた。

 離すまいとする強い力で囲われる。


『だろうな』


 ため息まじりにそう言うシュザージ。

 よくわからない会話に余計に不安になる。


『タケユキ、テレシー、昼間の魔属性講義の続きだ。魔王石から魔力を引き出し取り込まれ魔王となった者はいつかは朽ち果て土に帰るが、魔王石は滅びん』


 俺もテレシーも首を傾げる。


『魔石や神石から力を引き出しても石そのものがなくなることはない。テレシーは知っておるな?』

「はい……、術で力を使っても時間が経てば石は少しづつまた力を貯めていきます。大きさや品質にもよりますが魔石は比較的早く、神石はゆっくりです。上位の神石はゆっくりすぎて急いで使いたい時は買い直さなければならないのでオーリー先生もトルグ様も使い所を考えて使ってました」

『そう言うことだ』


 どういうことだ?


『リドルカは魔王と呼ばれるが正確には魔王ではなく魔王石だ。人の身で魔王石になったと本人も自覚している』

「え……? えっと、よくわからないです。リドルカさんは魔落ちする心配がないってことで、いいんですか?」

「そんな心配をしていたのか?」


 リドルカさんがなんてことない風に言って、俺の頭を撫でた。


『これみよがしイチャつくな』

「あの、じゃあリドルカさんはいきなり死んじゃったりしないのですか? 弟さんたちみたいになったりしたりしませんか?」

『弟? お前のような者が他にもいるのか?』

「ちょっと、シュザージっ」

『生きた魔王石が量産されているなど大問題だぞ。黒の離宮とやらが狙われたのはそれが原因か?』


 たぶん、それはあるのかもしれない。内通者がいっぱいいたんだし、リドルカさんが離宮に閉じ込められたことで魔王に、いや魔王石になったって知ってる人はいるだろう。でも……


「弟たちは姿を保つことはできず、崩れた。黒の離宮にいるが、外へ出せば数日で死ぬ。連れ出された何人かがそうなった」


 え? 弟さん他にもいたの? 八人じゃなかったの?

 

 ちょっと別の所に驚いていると、リドルカさんが俺と目を合わせて来た。


「俺はそうはならない。先帝の時代に散々実験されて魔王石だと結論が出ている。だが、もし死したとしてもタケユキを手放すことなどせん。それは前例があるだろう?」


 いるね。

 俺がシュザージを見たらリドルカさんもテレシーも見てた。


「そっか……」


 少しだけホッとして、リドルカさんに抱きついた。

 まだまだ不安はたくさんあるんだから、安心しきるわけにはいかないけどリドルカさんが魔落ちしない件だけはわかってよかった。


「ありがとう、シュザージ」

『あ……ああ』


 頬を掻くシュザージ。

 テレシーは涙ぐんで何度もうなずいてるよ。


『これでタケユキもしっかり休めるだろう。理想郷建国までにはまだまだやることも多い、休める時はきちんと休んでおけ。……タケユキを疲れさせるなよ、魔王』


 シュザージがリドルカさんを睨みつけてそんなことを言った。

 なんだか魔王が愛称になってきてるね。


 そんなやりとりの後、俺たちはおやすみの挨拶をして宿に戻ることにした。

 もちろんテレポートで。


 一瞬で到着。

 いろいろあって疲れたけど、今日はベッドで眠れるし。出立までにしっかり休んで体調を戻さなきゃ。なんて思った時、リドルカさんがサッと俺を背に隠して扉を睨んだ。


 え?

 もしかして、扉の外に誰かいる?

 こんな時間に?


 宿の人かな。

 と、扉の外を透視で見たらそこには……一見、地味に見える人がいた。



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