第八十五話
思いがけない壮大な夢を目指すことになった俺たちは、まずはホーケンの町に戻ることにした。
とりあえず、腹ごしらえをするために。
「その辺に動物がいたら獲って捌いて煮るなり焼くなり料理できるし、山なら岩塩とか探せないかな」
なんて思って提案したら却下された。
『タケユキの手料理は心惹かれるが、村でも見つけて食料をもらう方がよほど早いのではないか? お前たちは飛べるのだからな』
「先日の化物のせいで近隣の動物はほとんど魔に落ちたか逃げ出していないだろう。獲物はおらん」
「タケユキさんは……すごいですね」
三人三様に色々言われて、仕方なく狩りはやめておいた。
頭の上に戻ってきて、おとなしくしていた羽太郎までリドルカさんの肩に飛び移り「ピピピッ」て鳴いたよ。羽太郎は食べないよ。小さすぎて食べるには向かないし、用途が違う。
まあ、確かに朝っぱらからお肉は無理かもね。
ポケットの中に飴ちゃんはあるけど、二つだけじゃ足りないし。
そんなわけで空を飛んで、昨日の山まで戻ってみる。
ここに来るまでも山脈沿いに飛んできたけど山に村なんてなかったし、食事のためにわざわざ別の町に降りるのも顔を覚えられたら厄介だから却下。皇都に戻るにもベルートラスのお家に戻るにも遠すぎるので、ひとまずホーケンの町に戻ることになった。
一夜明けて、少しは落ち着いているだろうということで。
勇者テレシーの無事も知らせなきゃだしね。
俺は遠見や透視、転移をするので飛ぶのはリドルカさんが受け持ってくれた。俺がテレシーを抱っこして、その俺をリドルカさんが抱えて飛ぶ。
リドルカさんは力持ちだ。やっぱりかっこいい。
空を飛んだらテレシーはすごく喜んでいたよ。
「わあぁぁっわあぁぁっ、すごいですすごいです! 山が下に見えるなんてっ」
『落ち着けテレシー、子供みたいだぞ』
「シュザージ、空を飛べる魔法陣ってないのですかっ!?」
『あれはなかなかに難しい。魔力も神力も多くいるし、途中で力尽きたり不具合が起これば落下して死ぬ。屋根の上に飛び上がる程度のものはあるんだがな』
そうなのか。
じゃあやっぱり、この世界で空が飛べるのは俺とリドルカさんだけかな?
「でも魔法陣を駆使したら飛行機くらい作れそうだね」
『なんだそれは?』
「空飛ぶ乗り物。詳しくは知らないけど、紙飛行機くらいなら俺でも作れるよ。あ、竹トンボも作れる」
『なんだかよくわからんが、余裕ができたら研究したいな』
そんなことを話しているうちに、昨日の大喧嘩山に到着。もちろん、誰もいないのを確認して降りたよ。
山から見下ろせば、ホーケンの町が見渡せる。
「こんな高い所から、町の様子がわかるんですか?」
「うん、遠くを見る能力があるんだ」
テレシーに答えつつ、遠見で町を見る。
あれ? 神殿騎士が見当たらないね。あの派手な馬車もない。
庁舎の中も透視を併用してざっと見る。いない。
俺たちが部屋を取った庁舎近くの宿も見てみる。いない。
「神殿騎士団がいないよ。化物にびっくりして帰ったのかな」
「だったらいいんですけど」
『まあ良い、ひとまず腹ごしらえをしなければテレシーの頭の中が食べ物でいっぱいで気が散る』
「いやしんぼみたいに言わないでください!」
むうっ、と唇を尖らしほっぺを赤くするテレシー
意識しないでいた今までと違って、お嫁さんだなって思って見るとテレシーってかわいいね。勇者になっちゃう所はかっこいいけど。
じっと見てたらテレシーが視線に気がついて小首を傾げた。
「あの、どうかしました? タケユキさん」
「うん。お腹を空かせたテレシーもかわいいなって思ってた」
「んな!?」
あれ? テレシーが口を開けたまま固まっちゃった。
『タケユキ、そこはかわいいだけで良いのだぞ。それより』
「それより!?」
『お前たちは、あまり町の者の目に止まらぬ方が良いだろう。我々だけで庁舎に行って話を聞いてこよう、良いなテレシー』
「うう、わかりました」
「じゃあ、俺たちは宿に戻ってみます。また部屋を借りれたらそこから見ていていいですか?」
「はっ、はい、心強いです!」
『ならば、勇者の中にいるラスタル神王国出身の元神官の心を探って見てくれ。扱いが悪かったので神王四国どころか自国の情報すら知り得る立場ではないかも知れんがな』
そのラスタルから来た勇者さんが何か知っていればこの先の方針が決めやすいだろうけど、シュザージもあまり期待はしてないみたいだ。
「わかりました」
俺はシュザージの言葉にうなずいた。
まあ、聞くだけ聞いてみよう。
テレシーとリドルカさんの手を繋いで山の麓の岩陰へ転移。
そこで一旦別れて、俺はリドルカさんを連れて宿屋の部屋を確認してもう一度転移。扉を確認したら鍵がかかったままだった。お店の人にいなくなったの気づかれなかったのかな?
宿の様子をざっと見てみたけど、誰もいない?
部屋を出て下の階に降りたら、扉が開いて宿の人が帰ってきた。
「あれ!? お客さん居たのかい!?」
居たのかとは?
心を読んでみたらおかみさんは慌てていた。
どうやら化物騒ぎで宿の人たちは庁舎へ逃げていたらしい。化物がいなくなっても勇者は一人行方不明だし、本当に化物がいなくなったか確証もない。それでほとんどの人が庁舎に避難したまま一晩過ごして、朝になって何事もなさそうだと帰って来たらしい。
逃げ出す前に俺たちの部屋にも声をかけてくれていたらしいけど……
「寝てました」
と言う事にした。
「はぁ、剛毅だねぇ」
おかみさんはリドルカさんを見て言った。強そうだからね。俺だけなら逃げると思われたのかな? まあいいや。
留守がバレなかったのはよかった。余計な疑いをかけられずに済む。
朝食をお願いしたらおかみさんは「待っててね」と言って厨房へ入っていった。朝食はパンとスープとホーケンの町の特産野菜のサラダと果物のコンポートだったよ。羽太郎にもパンを小さくちぎってあげたら喜んで食べてたよ。
この町が魔に落ちなくて、本当によかったね。




