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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第四章 会いに行く
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第八十話


 肩に止まっていた羽太郎が、ただならぬ気配に「ピィッ」と鳴いて飛び上がる。


 テレシーの両手の指先が器用に二つの魔法陣を描いた。

 左に赤く縁取られた黒い魔法陣。

 右には赤く縁取られた白い魔法陣。


 それらが重なると渦巻くような火柱が立ち上がり、中から巨大な燃える魚がリドルカさん目がけて飛びかかる。

 

「リドルカさんっ!」

「大事ない」


 手を伸ばし、防御壁を張ろうとしたら止められた。

 リドルカさんの手には、いつの間にか青光りする魔力の黒い剣があった。

 食らいつこうとするように燃える巨大魚が一刀で裂かれるも、立ち登る火の中からさらに巨大な魚が出てきてリドルカさんを丸呑みにしようと襲い掛かった。けれどリドルカさんには火の粉ひとつ当たらない。

 すごい。

 俺はすぐにテレシーを見る。

 いや、テレシーを操っているそいつを。


『チッ、神属性魔法陣──』

「やめろー‼」


 テレシーを操って、魔法陣を描こうとするそいつを止めようと足を踏み出した途端、足元に魔法陣が光る。


『複合魔法陣、捕縛結界』

「えっ!?」


 いつの間に描かれたのか、赤く光る魔法陣の中になぜか俺は閉じ込められた。なんで!? この世界の魔法は俺に干渉しなかったはずなのに、テレポートしようとしても跳べないし飛び立つこともできない。

 思わず息を飲んだ。


 なんなんだよこれ。

 なんでいきなりこんなことになるんだ?

 これが……魔法陣の賢者の力!?

 

『我が運命よ、そこで待っておれ。必ず魔王の手から救い出してやる』

「なっ、何言ってるの!? リドルカさんは魔王じゃないし、俺は捕まってなんかいないから!」

『……我が召喚せし伴侶を奪い運命を書き換えようとした邪悪な魔王め、許さん!』


 またその手が動いて魔法陣を描く。


『神属性魔法陣、雷光を成せ。魔属性魔法陣、大地を隆起。魔王を砕け‼』


 天と地に描かれた魔法陣が光り、足元から岩が幾つもせり上がりリドルカさんを囲い、天からは束になった白い雷が落ちる。


「リドルカさん‼」


 けれどその雷も岩も斬り伏せられ、そこには青く光る黒いモヤを纏ったリドルカさんが、剣を振り抜いた形で立っていた。


「大事ない。タケユキは目的を果たせ」


 目的……

 

 俺は話をするためにテレシーを連れてきた。

 テレシーはもちろん、このバカ王子とも!


 リドルカさんは余裕の笑みを浮かべている。本当にあれだけの攻撃を受けて大丈夫なんだ。なら、俺は俺でできることをしなきゃ。


 深呼吸して、意識を集中。


 心を落ち着け全身に力をめぐらせ目を開いた時。不思議な光が俺を取り巻いていることに気がついた。

 足元の魔法陣と似た赤い光が俺の周りに浮かび、束なって糸のように伸びて俺とテレシーを繋いでいる。これもあいつの力か何かかと思ったけど、もうひとつ、青い光の糸が俺とリドルカさんを繋いでいる。

 よく見れば、赤い糸には時々黄色味のある赤が浮かび点滅する。

 なんとなく、それはテレシーの色に思えた。


 運命の糸──


 そんな思いが心をよぎった時、氷の刃がリドルカさんを襲うのが見えた。無数のそれは四方からリドルカさんを貫こうとするが、リドルカさんの魔力がそれを止め剣が砕く。

 その見のうちにある膨大な魔力と、それを自在に操れるリドルカさんはすごい。

 けど、魔力は人にも環境にも悪影響を及ぼすことをリドルカさんは知っている。これ以上の攻撃を防ぎ魔力を放出し続ければ山の下の街に影響が出るかもしれない。

 そこに思い至った時、それが隙になりかねない。


 一刻も早く、テレシーの中にいるそいつを止める。


 赤い魔法陣の中では念動力系は封じられてしまっている。なら精神系はどうか。俺はテレシーの心に向かって呼びかける。


 テレシー! テレシー‼ 聞こえる!?


 何度も呼びかける。

 繋がる糸に声を伝わせるようにイメージして、さらに呼ぶ。


 テレシー! 話を聞いて‼


『タケユキさん!? 聞こえます! すみません、このバカ止まってくれなくてっ』


 通じた!


『シュザージのバカっ! 話を聞くためについてきたのにっ、やめなさい! 止まりなさいっっ‼』


 テレシーが必死に止めようとしているのにバカには聞こえていないようだ。

 俺も、心の内から呼びかける。


『話を聞けよ白骨バカ王子! いきなり喧嘩ふっかけるなっ、何度でも言うよ! リドルカさんは魔王じゃないし俺は奪われたわけじゃない!』


 けれど、テレシーの手はいくつもの魔法陣を描き唇は呪文を唱え続ける。どうすれば、止められる!?

 声を届けるために、さらに深くその心に侵食を試みる。


 そうして、聞こえた……声


 ──百年…求めて、彷徨って、やっと……やっと逢えたのに


 これは、白骨バカ王子の、シュザージの深層の声。


 ──私が招いた、私の妻だ。取られてたまるか。誰であれ、魔王であれ、私でない私にさえ。取られるものかぁぁっ


 胸が痛くなる叫びだった。


 国を犠牲に、時を犠牲に、自身の命も、魂の半分をも失い、わずかに残した記憶を頼りに待ち続け探し出したたった一人への想いと執着。生まれ変わっても望みが得られぬままにまた命を失えば、死者の常世に引き戻されて魂を洗浄されてわずかな記憶さえ消されそうになる。それに抗い、必死につなぎとめてまた生まれ変わって……俺を求めた、その想い。


 ──私が招いたのだ、私が守らねばならん。何一つ守れなかった私が、今度こそなにをかけても守らねば……


「だったら、話くらい聞けよ! バカーーっ‼」


 心に握った拳を振るったら、そいつに当たった。


『シュザージっ!?』


 心の中に像が浮かぶ。ぼんやりとしていてわかりにくいけど、テレシーの隣にそいつが見えたのでぶっ飛ばした。やればできるもんだ。

 テレシーの体も動きを止める。


『えっ!? ええっ!? タケユキさん、今、魂の半分を殴り飛ばしました!?』

『ごめんねテレシー。テレシーは大丈夫?』

『はっ、はい』

『なっ……何が、今?』


 そこにぼんやり見える白骨バカ王子の像は、はっきりとは見えない。そりゃそうだろ。俺はそいつの姿を知らないから。俺が知っている姿は──

 俺はそいつに掴みかかった。


『何が守るだふざけんな! 勝手に召喚しておいて勝手に死んでたくせに。あの誰もいない塔の上で白骨死体を見つけた俺の気持ちがわかるのかよ!』


 心の中だから、こっちで覚えた丁寧な言葉でなくても通じるんだ。

 言いたいだけ言ってやれる。


『俺は星に願って気がついたらこの世界にいたんだ! 運命の人に会いたいって願って、召喚されたその先にいたのが白骨死体だったんだぞ!? どれだけ絶望したかわかるか!? 俺には運命の人なんてもういない、死ぬまで一人ぼっちなんだって、知らない世界で最悪の夢しか見られないんだって!』

『──っ!?』

『タケユキ……さん……』


 涙が出るよそりゃ。

 ボロボロ泣いている俺は、こいつには見えているだろうか。心の中だけど、俺だって泣くよ。 


『俺だって、生きたあんたに逢いたかったよ……』


 俺たちをつなぐ光の糸が、この人は、まごうことなく運命の人だと示している。生身ではもう、触れることすらできない人を。


 ぐすぐすと、止まらない涙と胸の痛み。

 俺だってたくさんのものを押し込んで生きてきたんだからな。暴れて気が済むならそうしたいよ。でも暴れたらどうなるかも叩き込まれていたからしなかった。冷静に、生きる道を探すよう教えられていたから動揺せずに動き出せた。

 そうしてテレシーたちに逢って道が開けて、リドルカさんに逢って新しい夢をもらったんだ。


 この気持ちは、言葉にしなくても通じてしまっているようだ。


 だってテレシーも泣いてるし、そいつもたぶん泣いている。


 俺から繋がるもう一つの糸も少し震えた気がした。




 ふと、何かが俺の体に触れた。

 小さな手。

 テレシーの手だ。

 背中には暖かいあの人の温もりを感じる。


 目を開いたら、キラキラひかる青い光が浮かんでいた。赤い光も同じように漂っている。


 俺はいつの間にかテレシーを抱きしめていて、テレシーの手が俺を掴んでいた。それを丸ごと抱きしめてくれているのは大きな手。リドルカさんの暖かくて優しい手だ。

 もしかして、また俺は暴発するところだったのかな。

 こっちに来てから……いや、大事な人ができてから、ちょっと暴発しすぎかも。シュザージを叱ったのに様にならないな。

 

「リドルカさん、ありがとう」

「……よい」


 俺の腕の中にいるテレシーが、ゆっくり顔を上げて俺を見た。


「話を……聞いてくれますか?」


 問えば、うなずきで返してくれる。

 それがテレシーだったかシュザージだったか、両方だったのかもしれない。


「よかった」


 ホッと、ひとつ息をついたけど、今度は背後のリドルカさんがビクリと動いた。


「誰か、山を登ってくる」

「えっ!?」

「見つかるわけには、いかんな」


 もちろんだ。

 俺はリドルカさんとテレシーを連れて、目に見える一番遠い山の上に転移した。これでさっきの山に誰かが登って来ても大丈夫。山の上はかなり荒れてるけどね。


 辺りはすっかり真っ暗だ。


 真っ暗な空から真っ黒な小鳥が降りてきて、俺の肩に止まった。


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