第八話【テレシー:ほのかに想う】
その方はタケユキさん。
聴き慣れない響きの名前を持つ、遠くの島からきた人です。
一見するとひ弱そうで、でもすごい投石の技を持っていて、私を追いかけて来た盗賊をやっつけてくれたんです。
その瞬間は残念ながら見てませんけど。
転んだのか、盗賊に殴られたのか、私は気を失ってしまってましたから。
オーリー先生は大陸から離れた遠い島から来た人だろうと言っていました。神族降臨の影響を受けず、独自の文化や言語を使う人たちがいるそうです。タケユキさんもはじめはなかなか言葉を使えなかったみたいですが、根気よく私たちの話を聞いて覚えようとされてました。そして、ほんの数日で簡単な会話ならできるようになられたんです。とても賢い人です。
そして、不思議な人です。
再度、盗賊が大虚して襲って来た時、あの人は熱を出して苦しかったにもかかわらず、不思議な力で盗賊をやっつけてくれました。
不思議な人。不思議な力。
あの時聞こえた声、その言葉を思い出します。あれはあの人の……
「おい、いい加減部屋に戻ってろよ」
声をかけられて、一瞬びっくりしました。
旅の間、護衛に雇われている自由兵士のレノンさんです。
タケユキさんの休まれている部屋を、見張る役目をされています。
「廊下でうろうろしててもしょうがないだろ? あいつが悪さしたら俺が取り押さえてやるから大人しくしてろよ」
「ひっ、ひどいこと言わないでください!」
「あんな得体の知れない奴、なんで庇うんだよ」
「助けてくれた人だからです」
「旅の護衛をしてやってるのは俺たちだぞ」
それは、そうです。
盗賊に襲われた時、先生や奥様方を助けてくれたのは護衛兵士の方々です。
でも、私を助けてくれたのはタケユキさんでした。
それに……
「お前さ、盗賊どもを浮かせたのは自分だって言い張ってるけど、本当はあいつなんじゃないのか? 隊長もローグさんたちもそう思ってるぜ」
「私です。無我夢中で気がついたらって感じですが、私です」
「じゃあ、ここでもういっぺんやってみろよ。俺を浮かせてみろ」
「それはできません。あの時は夢中だったんです、改めてもう一度なんて無理です」
「チッ、嘘つき……なんであんな奴」
舌打ちされました。
嘘つき結構。恩人の望みが平穏なら、私はそれを守ってあげたいだけです。
あの時。
熱に浮かされたあの人に触れた時に聞こえ言葉。あれはあの人の心の言葉じゃないでしょうか。
不思議な島から来た人です。
魔石や神石を使わない、独自の能力があるのかもしれません。そして、それを知られたくないとあの人は思っているんです。
私の思い込みだったら、恥ずかしいけど……
運命の人が、欲しい──とか
「何赤くなってんだ?」
「なっ、なんでもないです!」
「むうっ、あんな気持ち悪い奴のどこがいいんだよ!」
「なんですかそれはっ。別に気持ち悪くなんかないでしょ!?」
「気持ち悪いよ! あいつの笑った顔見るとさ、なんか背中がゾクゾクするんだ。ローグさんだってあいつに睨まれたらなんか胸がギュッとしたって言ってたぞ!」
んんん? なんかそれって──いえ、違いますよね。
私が思ってる気持ちとは。うん、違うでしょう。
レノンさんの頬が赤いのも別の理由だと思います。
などとやりとりしていたら、扉が開いてびっくりしました。
「おお、テレシー。そこにいたんじゃな。食事とお茶を用意して欲しいんじゃが」
「タケユキさんのですね!? 食べる元気が出たんです!?」
「んん……まあのう。胃に優しいものを頼むぞ」
「はい!」
そう返事して、私は宿の食堂に向かいます。
ここは、盗賊と出くわした場所から一番近い町です。
盗賊を全員縛って連れて来たので、村で一休みとはいかなかったのです。
そんなでしたから、馬車でぐったりと意識のないタケユキさんがとてもとても心配でしたが。
食事ができたら、もう少し元気になれますね。
よかった。
──ヨカッタ……ヤット、逢エタ……運命ノ人……




