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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第四章 会いに行く
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第七十九話【テレシー:めくるめく】


『待っててね、テレシー。必ず助けるから』



「タケユキ……さん?」


 確かに今、はっきり聞こえました。

 タケユキさんの声です。


 ──ああ、そうだ。間違いない!


 落ち着いてくださいシュザージ‼ タケユキさんは待っててって言ってましたよ!


 ──ぐっ


 気がはやり、入れ替わって走り出そうとするシュザージを慌て止めました。



 ここはホーケンの町にある庁舎の談話室。

 私は他の勇者たちとここに閉じ込められています。扉には見張りに立つ神殿騎士が二人。

 剣呑な空気が漂う中でひとり、いない人の名を呼んでキョロキョロしていたら不審に思われても仕方がありません。


「何をしておる貴様! 怪しい動きをすればその腕を切り落としていいことになっているんだぞ‼」

「寝言は寝てから言いなさい」

「そうだぞ、俺だって眠いの我慢して居てやってんだ。寝ぼけてんじゃねえよ、バーカ」


 クレオさん、アロさん、見張りの騎士を挑発するのはやめましょう。


「師匠の偉大さをわからぬ愚者に何を言っても無意味です」


 なぜかスタングさんまで参戦してます。

 それより……


「あの、さっきから気になっていたのですが。スタングさん、師匠って何ですか?」

「もちろんあなたのことですよ。此度の魔物討伐が終われば魔法陣について教えていただけるという話でしたので」

「ちょっとスタング! それは僕に言ってくれたことでしょっ! 僕もっ、僕も魔法陣を習いたいです!」


 ラッシュさんまで手を上げて主張し始めました。


「僕としてはどうして殿下がそこにいらっしゃるのか、その辺の事情を詳しくお聞きしたいですね」


 おおう、クレオさんまでそんなこと言い出しましたよ。騎士の手前、遠回しに言ってますが、シュザージがなぜ私の中にいるか聞きたいんですよね?

 というか、殿下って。


「いい加減にしろ貴様らっ‼」


 虜囚らしくない私たちに騎士がキレてます。

 結局は手出しできないのでしょう。魔法陣の力が欲しくて連れて行こうとしているのですから、私の腕を切り落とせるわけがないんです。

 皆さんもそこの所は察していらっしゃるようですね。アロさんでさえ。

 私は精一杯、鼻で笑ってやりました。

 ふふーんだ。


 ──お前まで参戦してどうする。


 シュザージに呆れられてしまいました。

 まあ、そんなことはどうでもいいです。それよりタケユキさんです。

 心の中とはいえ声が聞こえたのですから、すでにこの町に来ているということでしょうか?

 だとしたら、どうしてこんなに早くここに来れたのでしょう。しかもウェルペンではなくこのホーケンに。


 ──決まっておろう。愛だ! 運命のなせる技だ!


 トーセル島国の不思議な力でしょうか。初めて会った頃、熱を出したタケユキさんに触れた時、心の声が聞こえたのも気のせいじゃなかったんですね。


 ──お前は……はぁ、そうであろうな。


 でももし、あれが辛い時に出る能力だったら大変ですよ。

 タケユキさんは今、近くで苦しんでいることになります。


 ──確かに一理あるな。ならばさっさとここを出てタケユキを助けねば。


 けどそのためには見張りの騎士が邪魔ですし、今逃げ出したら町の人たちはどうなりますか?


 ──それは……




「ねえ、テレシー。大丈夫?」


 心配気に顔を覗き込んできたエリーナさん。

 またやってしまいましたね。

 心の中でシュザージと話をしていると、押し黙ってしまうので心配されてしまうのです。

 エリーナさんにヘラりと笑いかけつつ、そんなことを思っていたら、なんだか外が慌ただしくなっている気配がしました。窓の外では、叫び声が響きます。

 即座に反応したのはアロさんたちです。


「何があった!?」


 窓に駆け寄ろうとした時、扉が勢いよく開けられ真っ青な顔の騎士が飛び込んで来ました。


「ばっ、化物が出た!」

「化物? 魔物が残っていたのか!?」

「違う! あれは化物だっ! 山からこっちに向かってきているっ、勇者は直ちにアレを討伐しろぉぉぉ!」


 飛び込んできた騎士は錯乱しています。

 ほんとに何事でしょう。化物とはいったい。

 私が疑問を口にする前に、アロさんエレーナさんエハンさんラッシュさんは武器を手に飛び出して行きました。私も後を追って庁舎を出ます。もちろんクレオさんもスタングさんも。


 庁舎の外の広場へ出て、みんなの視線が向かう方を見れば……そこには確かに化物がいました。

 山のてっぺんに人の何十倍もある真っ黒い塊が蠢いているのです。青い稲光を纏わせた煙るような姿。生き物のようには見えないのに、山の上からまるでこちらを見ているようにゆらゆらと揺れています。


「す、凄まじい魔力だ……」

「何アレっ、何アレっ!? これまでの魔物なんかと比べ物にならないよ‼」


 スタングさんとラッシュさん、神術士のお二人が震え上がって叫んだことで、アレがどれほどの化物だと知れみんなが蒼白になりました。

 そんな時です。


『テレシー、こっちこっち』


 と、タケユキさんの声がしました。

 まるで緊張感のない声に驚いてあたりを見渡せば、空に一匹の黒い鳥が飛び路地の方に飛んでいくのが見えました。そして、その路地の入り口に緑のマントを羽織ったタケユキさんの姿が──……


「タケユキさん!?」


 ──タケユキ!?


 私たちは同時に叫び、走り出します。


「ちょっとテレシー!?」

「どこへ行くんだっ!?」


 呼び止められても振り向いてなどいられません。すぐそこにタケユキさんがいるんです!

 けど、タケユキさんは私が追うと路地の奥へ入ってしまいました。私はさらに追いかけて路地を進みます。あっちの路地もこっちの路地も、逃げ惑う人とすれ違ってなかなか前へ進めません。ただ、避難する人は皆、庁舎を目指しているので次第に人影はなくなっていきました。


「タケユキさん!? タケユキさん! どこですか!」


 路地を抜けた先、少し開けた場所に出た時。

 ふと、背後に気配を感じ振り向きました。


「タ……」

「油断したな! 生意気な魔術士め‼」


 そこには扉の番をしていた神殿騎士が、剣を振り上げて立っていました。

 私の指が咄嗟に何かを描こうとして、ピタリと止まります。


「ぐっ!? ムムゥッっ!?」


 騎士は剣を振り上げた形のまま、宙に浮き上がったのです。唇を引き結び息苦しそうに呻いています。まるで無理やり口を閉じさせられているような感じです。

 悪者を浮かび上げる、このやり方には覚えがあります。


「テレシー、こっちこっち」


 その声は、はっきりと耳に聞こえました。

 振り向けばそこには……


「タケユキさん‼」


 ほんの数歩先に、その人はいました。

 肩に先程の黒い鳥を乗せて笑っています。


 会いたかった人。

 逢いたくて仕方なかった人が。

 せっかく逢えたのに、溢れ出す涙で前が歪んでしまいます。また見失ってはと不安に駆られた足が一気に駆けて、私はタケユキさんに飛び付きました。


「タケユキさんタケユキさんっっ、ぶ、無事ですね? 本物ですよねっ!?」


 ボロボロとこぼれ出す涙を止めることもできず、しがみついたままタケユキさんに問えば、タケユキさんは笑って頭を撫でてくれました。いつだったかのように、あやされています。


「本物だよ。心配かけてごめんね」


 本物ですっ!


「ふっ、ふぁぁぁぁぁっっ」


 泣き声を上げてぎゅーっとしがみついていたら、背後からボキボキと変な音がして「グヘッ」と気持ち悪い声と、グシャっと何かが落ちる嫌な音がしました。


「あのね、大事な話があるんだ。誰もいないところで話がしたいから、一緒に来て欲しい。いいかな」

「もちろんです! 私もっ、話したいことがいっぱい──」

「よかった」


 と、タケユキさんが笑った瞬間。

 ふわりと目眩がしたような感覚になりました。


 そして……

 気がついたら、そこは町中の路地ではありませんでした。

 岩がゴツゴツした、妙に空が低く感じるそんな場所。


「へっ?」


 ──化物っ!?


 心の中のシュザージが叫び、私が振り向けば、そこには山の頂上に見えた真っ黒い巨大な化け物がいました。


「きゃあああああああああっっっ!」

「大丈夫だよ、テレシー。ちょっと待っててね」


 至極冷静な、いつもの声でポンと私の頭を撫でてタケユキさんは離れて行きました。しかも向かう先は化け物です。


「タっ、タケユキさんっ危ない!」

「危なくないよ。リドルカさん、もういいです」

「……そうか」


 真っ黒の化物はそう言うと、みるみるしぼんでいきました。そして、その中から一人の男性が出てきました。

 青みのある真っ黒な髪の背の高いその人に、見覚えがあります。


「タケユキさんを、攫って行った人!?」


 私はすぐにタケユキさんに手を伸ばそうとしましたが、足が勝手に止まりました。

 ……シュザージ?


『な、なぜだ』


 ペンダントから声が漏れました。


 その時、私の目に青い光と赤い光が見えました。

 赤い光は私からタケユキさんに向かって伸びています。そして、青い光がタケユキさんからあの男性に向かって伸びています。

 まるで、糸のように。

 シュザージの震えるような声は、叫びます。


『なぜ、なぜ其奴と運命が結ばれているのだっ!?』


 その叫びと共に、私の意識は強制的に切り替えられてしまいました。激しい怒りの感情で全身が熱いです。両の手はすでに魔法陣を描いてます。


『魔属性魔法陣、業火を成せ! 神属生魔法陣、暴風を成せ! 炎獄よ、魔王を焼き滅ぼせ‼』



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