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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第四章 会いに行く
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第七十八話


 何の音かと振り返ったら、街道から町に入り込んでくる一団が見えた。

 騎乗した騎士たちに、いやに派手で趣味の悪い馬車が一台。

 近くにいた人たちが一斉にその一団を睨み据える。そのほとんどが口にしているのは


「今頃来たのか」


 だった。

 まあ、そうだよね。

 よく考えたら勇者だけで勝手に魔物討伐に先行したっていうのも変な話だ。昨日見た限りでも魔物退治をしていた中に騎士なんか一人もいなかったし。

 目の前を通り過ぎた騎士の大半は昨日見た神殿騎士のようだけど、ウェルペン領の騎士も混じっているそうだ。町の人たちのささやきがそう言っている。


 それにしても、困った。

 領主や神殿より先んじてホーケンに来たと思っていたのに、思ったより動きが早かった。よほど急いでやって来たのか。


 大通りを威圧するような勢いで騎士達が走り去り、ハデハデ馬車は庁舎の前に横付けされ、中からこれまた派手な格好の男が出てきた。布地は白いけど装飾が派手だ。昨日見た神殿の狸じじいと雰囲気は似てるな。近しい立場のやつか。

 騎士たちは庁舎を取り囲むように布陣し、それを見た町の人たちは遠巻きにそれらをじっとり睨んでいる。俺たちはその町の人たちに混じって騎士たちを見ていた。

 庁舎から大慌てで職員らしい人たちが出てきた。

 その人たちに向かって騎士が言う。


「勇者どもを集めよ! ウェルペン神殿、神殿長補佐官であらせられるアンゾル様の命令だ‼」

 

 ひどい言いようだ。「ども」って。

 庁舎から出てきた職員の中から一人、前に出てきて騎士を睨む。


「神官や神殿騎士が今頃になって我が町に来られた用件をお伺いしたい」

「用件は勇者が揃い次第話す! 地方役人は口答えなどせず我らに従え! どなたによる恩恵で暮らしていられると思っている!?」


 神殿ではないんじゃないかな……と思うけど、ここは神属関係者が強い国なんだよね。今、騎士に問いただした人は町長さんらしい。

 悔しそうに職員たちに指示を出している。

 職員さんは外に内に走り出す。


 やっとテレシーと会えそうだったのに。

 こいつら全部浮かせて放り出してやうろか……と、考えていたら腕を引かれた。見上げればリドルカさんが怒っている。そのまま引っ張られて人混みから出て人気のない所を探すように歩く。

 

 リドルカさん!


 と、人混みの中で名前を呼ぶわけにもいかない。テレパシーが通じないのがもどかしい。

 庁舎前の広場から、二、三軒、行ったところに宿屋があった。

 ああ、ここでなら話せるね。

 俺たちは宿屋に入る。


「あれ? さっきの旅の人」


 宿にはさっきの守備隊見習いの少年の一人がいた。この子の家なのかな、女将さんらしい人と話をしていたのが俺たちが入って来たので揃ってこちらを向いたみたいだ。


「あの、部屋が空いていたら借りたいんです。勇者に会いに来たのになんだか怖い人たちが庁舎を取り囲んじゃったんで、明日にしようかと」

「なんだって!?」


 少年は面白そうな物でも見つけた顔をして飛び出していった。


「ったく、しょうがない子だねぇ。ああ、お客さん。部屋ならいっぱい空いてるよ。好きな部屋をどうぞ。魔物騒ぎで商売あがったりだったから大歓迎さ」


 そう言って、サッと俺たちの身なりを見た後、ちょっといい部屋に案内してくれた。俺たちの服、地味だと思ったけど高そうに見えるのか。

 まあ、そんなこと今はいいか。


 俺たちは部屋に入って鍵をかける。そしてすぐに外の様子を探る。もちろん遠見と透視の超能力で。

 外へ走り出していた少年が戻り、庁舎前の様子を母親に話している。母親もやっぱり「今頃なにしに?」と呆れている。

 宿には他の泊まり客はいない。

 でも、一応部屋の空間は閉じておこう。会話を聞かれたら大変だし。


 一通り確かめてため息をついたら、リドルカさんに抱きしめられた。大人しく俺の肩に止まっていた羽太郎がパタパタっと飛んで備え付けの棚の上に止まり首を傾げる。

 なぜかリドルカさんもため息をついた。


「リドルカさん?」

「何かしようとしたな?」

「う……しませんよ。考えただけです。あの邪魔な奴らを蹴散らせないかって」

「無謀だと、わかっているな?」

「はい……」


 なんでわかっちゃうかな。

 俺って顔に出やすいのかな。だったら気をつけなきゃ。

 体調面でも心配ばかりかけてるのに──と、考えていたら、いつものように頭を撫でられた。また心読まれた? 

 チラッとリドルカさんを見たら、なぜか少し笑っている。


「全部自分でしようとするな。もっと、俺を頼れ」

「それは……」


 こんな町の中でリドルカさんに力を奮ってもらうわけにはいかない。


「俺は、リドルカさんに助けられてばかりですよ?」

「力を使って、庁舎の中を探るのだな?」

「はい。あ、今日はまだまだ元気ですよ」

「見聞きしたことは、全て話せ。だが、無理はするな」

「わかってます」


 もう怒ってない。

 心配してくれてありがとう、リドルカさん。

 俺もリドルカさんをギュッと抱き返し、その状態のまま息を整え──少し距離のある庁舎の中を視る。



 庁舎の中では、さっきの神官が偉そうにふんぞり帰って椅子に座っている。談話室だろうか。そこに、庁舎で休憩していたらしい勇者二人が嫌そうな顔でやって来た。

 少しして、職員たちに連れられ地元の勇者たちが、銘々あくびをしながら庁舎にやって来た。


 あっ!

 テレシーがいた‼


 廊下で地元勇者たちと合流したよ。元気そうだ。よかった。

 けど、神殿騎士に偉そうに命令されてムッとしている。しかもそいつは突然テレシーの腕をねじり上げた。

 リドルカさんが何かを察して、俺の肩を押さえてくれなければ暴発したかも。あいつの腕は後で折ってしまおう。

 それにしても、テレシーを助けてくれた他の勇者の二人が、某御隠居を守るお侍さんみたいになってるのはなぜだろう。あれ? うっかりの人、お風呂の人、風車の人、猿の人、全部揃ってる?

 話がそれた。じーちゃんと見たテレビのことは忘れよう。


 それにしてもあの銀ピカ神官も神殿騎士団長とやらもひどい奴らだ。

 よくもまあ帝国のことをあそこまで悪し様に言えるね。

 嘘ばっかり。

 そこまで言うからには何か理由でもあるかと、心を読んでみたら頭の中は欲得しかなくって気持ち悪すぎてすぐに切った。出世とかお金とか身分とか、神術士らしい勇者以外は趣味じゃないとか。あーやだやだ。

 とりあえず、こいつは上から言われて来ているだけで、詳しいことは知らないらしい。

 騎士団長も、説明していたウェルペンの職員も似たようなものだ。

 ……ああ、もういい。気持ち悪くなってきた。


 意識を切り替える。


 テレシーの心を読んでみた。

 確かに……声が二つ響いている。


 あれが魔法陣の賢者な白骨バカ王子──


 彼の激しく波打つその感情を、テレシーは一生懸命宥めてる。

 自分の中にある力を押し込めるのがどれだけ大変か。テレシー大丈夫かな。

 超能力や魔力でも大変なのに、テレシーの中にある力は自我を持っている。

 

 本当に、生まれ変わりなんだな。

 一つの魂の上に二つの人格があるのだと聞いた。

 共存しているとも。

 俺に出会ったことで、出て来たとも……


『待っててね、テレシー。必ず助けるから』


 そう呼びかけたら、テレシーが俺の名を読んでキョロキョロした。



「どうだ?」


 超能力を全て切りひとつ息をついた時、リドルカさんが声をかけてくれた。俺は今見て聞いた話をリドルカさんに伝える。


「庁舎に閉じ込められ、騎士が見張りについている……か」

「はい、みんなで助けた町を丸ごと人質に取られたみたいです」


 談話室に転移で飛び込んで、テレシーだけ連れてここに戻ることも可能かもだけど、間違いなく騒ぎになるだろうな。

 あの神官たちに連れて行かれる前に、穏便に、こそっと、誰にも知られずテレシーだけを連れ出せないものか。

 俺が考え込んでいると、リドルカさんも一緒に考えてくれている。そして、ふと何か考えついたのか口を開いた。


「俺があの化物を作ろう」

「……は?」

「俺の魔力で、あの化物の偽物を作る。影を操るだけの物だが、あれが山を超えて来たとなれば勇者を向かわせるだろう」


 化物とは、あのローレンド領から這い出て山を越えようとしていたアレのことだろう。


「で、でも、それは」

「俺の姿は見せん。タケユキがテレシーを連れて戻ればすぐに消す」


 昨日、ホーケンの町を見下ろしたあの山の頂上に行って化物の幻影を作るそうだ。あの大きさの化物なら町からも見えて騒ぎになるだろう。やる気のない騎士や神官は勇者たちに討伐を命じるだろうし、うまくすれば町から逃げ出してくれるかもしれない。

 混乱の中、庁舎から出てきたテレシーを誘導して連れ去るくらいできるかも。

 あの高さなら他の勇者が山を駆け上がったとしても、すぐにてっぺんまではたどり着けない。テレシーを連れて山頂に転移して、リドルカさんと合流して飛んで逃げれば俺たちの正体は知られないで済むだろう。


 確かにいい手だと思う。

 思うけど……


「リドルカさんに魔王の真似事させたくないです」


 そう言えば、リドルカさんは俺の頬を撫でた。


「勇者の真似事をする娘を救うための芝居、と思えば面白かろう?」

「……むう。面白くないですよ」


 結局、その案で行くことになったけど。


「絶対に見つかっちゃダメですよ? 見つかったら目撃者をみんな始末することになっちゃいますからね!」

「タケユキは、時々ひどく過激なことを言う」


 と、言って笑われた。むう。




 それから、俺はリドルカさんを連れて今朝見下ろしていた山の頂上へ転移した。

 一旦そこで別れて、町の片隅に戻る。


 夕陽が傾き、空が赤く染まった時、山の方を指差して叫んだ。


「あれはなんだ!?」


 そしてすぐに身を隠す。

 山を見上げた人たちの中で、目のいい人はすぐに気がついたようだ。

 真っ黒い蠢く塊が山を越えようとする姿に。


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