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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第四章 会いに行く
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第七十五話


 領主の館の近くまで来たら、周りはやたらと慌ただしかった。


 館のそばの人目につかない場所に隠れ、透視と遠見で館の様子を探ってみた。

 領主らしい人がカンカンに怒っていて、部下らしい人たちに当たり散らしている。当然、その声も拾って聞いてみる。


「──では、奴らは本当にホーケンの町に行ったのだな!? 魔物討伐は完了したのか!?」


 魔物討伐? ホーケンの町?

 なんだか嫌な予感がするよ。


「はい、後をつけた騎士の報告では勇者たちは皆、ホーケンにて魔物と戦闘。いえ、あの魔法陣使いの少女は魔落ちを癒す魔法陣を描いて治療に当たったとか……」

「魔落ちを治す魔法陣だと!?」


 あれ?

 悪い勇者に拐かされたんじゃないんだ。というか、それって……さっき見たあの町のことじゃない?

 あれっ? あれっ!? 行き違っちゃった!?


「はんっ、そのようなものがあるわけない。魔法陣は魔術を用いるのだろう? それでどうやって魔落ちを防ぐというのだ。そもそも魔石を用いるなど神への冒涜でしかない」


 偉そうに鼻を鳴らしたのは、領主の隣に立っていた派手な格好のでっぷりした、絵に描いたような狸じじい。


「ウェルペン神殿長、彼女の魔法陣は神術ではなしえないほどの力を見せました。あの力を侮ってはなりません。うまく取り込めれば我が国の力となるでしょう」

「うむ……」


 悪いことを企んでそうかな。

 テレパシーも併用して聞いておこう。


『あの娘を私が後見人として差し出せば、このウェルペンが国王の目にかけられるやもしれん。役立たずの勇者しか集まらなかった責任を取らされるかと思ったが、アレを献上できれば少なくとも私が咎められるのは避けられる』


 おい領主。


『ふむ、確かバロウ神王国は魔法陣に興味を持っていたか。フレンディス王都の神殿はナルディエ神王国かバロウ神王国かどちらに取り入るか迷っていたが、その娘を捕まえて連れて行けば選択肢が増えるな。見目のいい娘なら使い勝手も良い。これは次期王都神殿長の推薦が狙えるやも』


 おい神職。


 ろくでも無い事を考えてたよ。むしろ魔物退治に行っててくれてよかったんじゃないか? というか、魔王討伐はもういいの?

 俺は見聞きしたことを小さな声でリドルカさんに話した。


「行き違ったか……」


 リドルカさんもため息をついた。


「もう一度、あの町に戻りましょう。あのろくでなし領主や悪徳神官が動く前にテレシーを──」


 と、立ち上がろうとしたら本格的に目眩がした。

 そんな俺を抱きとめたリドルカさんは、強い口調で言った。


「安否と居所はわかった。今日は宿をとって休む」

「リドルカさん、大丈夫です」

「大丈夫な者は、ふらつかん」

「でも……」

「病み上がりだということを、忘れるな。ここまでは許したが、これ以上は許さん。無理にでも休ませる」

「けど、テレシーが」

「目の前でお前が倒れれば、その娘はなんと思う?」


 びっくりすると思う。

 そして、自分のために無理をするなと泣くだろう。

 また負い目に思って俺を庇って、大変な目に合うかもしれない。

 今だって、俺のために勇者なんてものになってしまったんだ。


 考え込んでしまっているうちに、リドルカさんは俺を抱え上げて歩き出していた。ちょっと熱が上がってきているのを自覚する。

 情けないね、俺。


「もう日が暮れた。悪党どもが動くなら、明日だろう。あの町の魔物もそろそろ落ち着くはずだ。タケユキは、休んでいい」


 普段は口数が少ないリドルカさんが、一生懸命俺をなだめてくれている。

 一番近くにあった宿を取り、部屋に通されてすぐベッドに入れられた。

 領主の館に近いだけあっていい宿だ。

 幸い、お金はちゃんと持っているからその辺の問題はない。鉱山の町を救ったお礼のお金だって、帝国で結構な額をもらってしまった。

 寝込んじゃった治療費とか考えると、もらって良かったのか悩んだけど。今はあって良かったと思う。

 リドルカさんは宿の人に頼んでパンとスープをもらってくれた。人と接することが苦手なリドルカさんに世話になりっぱなしで申し訳ない。なのに、せっかくの食事はほとんど食べられなかった。

 スープだけもらって、典医さんがくれた薬を飲む。

 一息つくとすぐに眠気が襲ってきた。


「リドルカさん……」


 ぽんぽんと、自分の隣を叩いてみた。この部屋にはベッドが二つあるけど、できればいつものように一緒に寝てほしいな、って思ったから。

 リドルカさんは小さく笑う。


「そのつもりだ」


 そう言って、俺の隣に横になってくれた。

 抱きしめられるとひどく落ち着く。


 ごめんねテレシー。

 もうちょっとだけ待っててね。


 目を閉じると、すぐに意識は遠のいた。



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