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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第四章 会いに行く
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第七十三話

 とりあえず、俺たちは玄関に回ってお屋敷に入れてもらえた。

 リドルカさんがいるから談話室のほうに行くのかな? と思ったけど、通されたのはじーさん先生の研究室だった。


 席を勧められたので俺は四つある椅子でよく座っていた椅子に座る。じーさん先生はその正面に。

 けれど、なぜかリドルカさんも俺の後ろに立った。


「リドルカさん?」

「ここでいい」


 そう言えば、リドルカさんは人が多いところでは隅っこにいることが多かったっけ。自分の魔力に当てられないように。

 ご兄弟の中でもギリギリ抑えられるのはカトリーネさんだけだって言ってたっけ。姉妹三人がそろっていれば、お茶の席にもついてくれたけど。


 お茶……か。


 いつもならここでテレシーがお茶を淹れてくれたんだろうけど、テレシーはいない。なんだかテレシーのお茶が飲みたいなって思っていたら、駆けてくる足音が二人分聞こえた。

 扉を開けて先に入って来たのはミリネラさんだった。


「タケユキ!? 本当に一人で戻ってきたの!? どうして!?」

「ミリネラ、落ち着いてっ」


 トルグさんが肩を押さえたが、ミリネラさんは止まらない。


「戻ってこれたなら、なぜもっと早く戻らなかったの!? あと少し早く戻ってくれていればテレシーは勇者になんかにならなくて済んだのにっ!」


 ドキリとする。


「やっぱり、俺のせいでテレシーは……」

「そうよ! あなたを助けに帝国へ向かおうと、勇者に名乗りを上げてフレンディス国へ向かったの‼」


 え?


 思わず首を傾げてしまった。

 

「盗賊を倒したのがテレシーってことになって、それがきっかけで勇者に祭り上げられたんじゃないんですか? 神属騎士に連れて行かれたみたいに」

「いつの話をしているの!? テレシーはあなたが好きなのよ! だから助けたくていてもたってもいられなくてっ」


 ……好き?


「なのに、あなたはしれっと自分で帰ってくるんですもの! 帝国にいて何をしていたの、タケユキ!」

「……死にかけていた」


 びっくりした。

 思わず後ろを振り向いた。

 ミリネラさんの問いかけに答えたのはリドルカさんだ。


「リ、リドルカさん、それは……」

「昨日、やっと典医の許しを得てベッドから出たばかりだ」

「なっ? まさか、そんな」

「死にかけって……いや今、昨日と言ったか?」

「い、いったい何が!?」


 ミリネラさんもトルグさんもじーさん先生も、これまでで一番驚いているんじゃないだろうか。

 話さないと、テレシーのこと聞けないかな。


「リドルカさん、話してもいいですか?」

「兄上と姉上の許可は出ている」


 俺の判断に任せてもらっているのは知っている。もちろん、誰彼かまわず話していいことじゃないだろうけど。


「トルグ、ミリネラもこちらに来なさい。全部、話してくれるんじゃな?」


 俺はうなずいた。

 トルグさんとミリネラさんは、じーさん先生の後ろに立った。二人も聞いてくれる気になったらしい。

 ひとつ息をついて、心を落ち着かせてから、俺は船に乗せられて帝国へ向かった辺りからできるだけ細かく見聞きしたことを話した。

 目が覚めた当初はすぐに逃げ出すつもりだったこと。

 リドルカさんに見張られ、逃げ出すのが困難だとわかって、それなら帝国まで行って内情を探ろうと思ったこと。

 皇帝兄弟が一堂に会したので超能力で脅したこと。事前にテレシーの無事は確認済みで。

 その後、ベルートラスへ帰してもらえることになったけど、内乱に巻き込まれて色々あって倒れてしまったこと。


「……色々を省くな。タケユキは帝国の民を助けるために無理をして、その上この俺を救わんとして敵の攻撃を受けて倒れた」

「うっ、あれは後先考えずに踏ん張りすぎただけで」

「帝国はタケユキに救われた」

「それはさすがに言い過ぎです。えっと、そんなわけで、そのあと寝込んで回復に時間がかかってしまって。目が覚めた時、テレシーと言う勇者の話を聞いて急いで飛んで帰ってきたんです」


 俺が全部を話し終えたら、先生たちは揃って頭を抱えてしまっていた。

 特にトルグさんとミリネラさんは深刻だ。

 所々、俺の能力を説明しなくてはいけなかったので、補足としてじーさん先生が俺の本当の正体を話してくれたんだ。


「本当に帝国の皇帝一家を力で脅していたとは……しかも内乱? 死にかけたのも本当だなんて」

「トーセル島国ではなく異世界から来たなんて、信じられないけど。でも、一国を滅ぼし、百年の時をかけて召喚されたならその方が納得できる気もするわ」


 ミリネラさんがなんだか怖いことを言っている。

 滅びの都のこと?


「オーリー先生は初めからタケユキのことをご存知だったなんて。教えてくれればよかったのに」

「すまんのう。まあ、はじめにトーセル島国と言ったのはわしの勘違いじゃったんじゃがな。しかし、無茶をしたものじゃ。お前さんがそういう性格だと知っておったが……わしらのためか」


 俺は小さくうなずいた。


「でも、帰らなかった事でテレシーに心配かけてこんなことになってしまいました。先生に嘘をつかせて、みなさんを騙していたのも本当です。ごめんなさい」


 責められても仕方がないことをしてしまった。

 俯いた顔が上げられない。


「俺は無事ですしテレシーが勇者をする必要もないので迎えに行ってこようと思います。テレシーはフレンディス国のどの辺に向かったんですか?」

「ウェルペンと言う街だが──」

「ちょっと待って!」


 ミリネラさんが手を挙げてトルグさんを制した。


「テレシーを迎えに行くと言うなら、その前に聞かせて頂戴。タケユキはテレシーのことをどう思っているの?」

「どう……」

「あの子は、命をかけてもあなたを救い出したいくらいあなたに恋をしているのよ」

「ミリネラ、そういうことは本人たちの気持ちの問題で──」

「でも、私はテレシーには幸せになってほしいのよ!」


 ……幸せに


「俺も、テレシーには幸せになってほしいです。だから、俺のことは諦めてくれるよう伝えるつもりです」

「なっ!?」

「なぜじゃ!?  タケユキは好いた相手と結ばれて平穏に暮らすのが夢だったんじゃろ!?」


 じーさん先生まで身を乗り出してきた。

 なんとなくは、そうじゃないかと思っていたけどね。皆さんが、俺とテレシーの仲を望んでるって。

 俺はゆっくり顔をあげた。


「俺の夢は、運命の人と二人きりで誰もいない場所で静かに暮らして、何も残さず終わることでした」

「は? それは夢か?」

「そうです。もし運命の人に会えなかったら、最後は無人島でも探してひとりで生きて死ぬつもりでした」

「なっ!?」


 じーさん先生にもここまでは言ってない。

 みんなが驚いている。


「でも、リドルカさんが俺の運命の人になってくれて、その夢は捨てたんです」


 俺はリドルカさんを見ると、リドルカさんは小さく笑ってくれた。

 みんなは更に驚いたけど。


「ちょ、ちょっと待って、まさかあなた、あなたたち……」

「タ、タケユキ? リドルカ殿下は男性だよな?」


 あまり受け入れられないだろうと思ってたけど、ここでも男同士はダメなのかな。……あれ? 皇帝一家はこうならなかったな。


「そんなっ、じゃあテレシーは!? 賢者様はどうなるの!?」


 賢者様?

 さっきも聞いたけど、誰だろう。

 まあ、それどころじゃないか。


「テレシーには無理です」

「どうして!? 女の子だから!?」

「そうです。俺と一緒になったら、テレシーは死んじゃうかもしれないですから」


 驚いていた顔が蒼白になった。

 言いたくなかったけど、言わなきゃいけないだろうな。


「死……って」

「俺の力は遺伝するんです。最低でも、一人はこの力を引き継いだ子供が生まれるんです。代々ずっとそうでした」

「それは、聞いたが……」

「子供はね、お母さん中に宿って少ししたら、すぐにその力を発現するんですよ。まだ自我もない、自分で力を操れない子供の力は母親が抑え込まなければなりません。けど、母親の力より子供の力の方が大きかったら……大変なんです」


 母さんの泣き顔が過ぎる。

 ばーちゃんに預けられた日に見た、姿。


「母さんがそうでした。俺より力が弱かった母さんは、俺が生まれるまで何度も死にかけたそうです。幸い、うちのばーちゃんは俺よりも力があったので赤ん坊の力を押さえ込んでくれて、俺はなんとか生まれることができたんです」


 しん……と鎮まってしまった部屋の中。

 生まれた後も、結局母さんでは制御できなくて俺はばーちゃんに預けられて育ったんだ。力を持たずに生まれた弟たちとは一緒に置いておけなくて。

 泣きそうになるのをなんとか堪えて、続きを話す。


「この力が男に遺伝することは少ないらしいですが、大抵の場合、結婚したら奥さんを死なせてしまうことになるそうです。普通の人でしかない奥さんは、この力を押さえきれません。夫が抑えられたならいいですが、四六時中一緒にいてお腹を抑えているなんて無理でしょ? 子供の力が父親を上回ってしまったら、それはもうどうやってもダメなんですが」


 この話を聞いた時から、俺の運命は女の子に負わせられないと思ってた。

 ばーちゃんがいなくなった今では尚更。


 リドルカさんがいてくれてよかった。

 運命の人になってくれて、よかった。

 ごめんね……テレシー


「いや、それならばまだ諦めることもあるまい。テレシーには賢者殿がおる」


 泣きそうになった時、じーさん先生がそんなことを言った。

 だから、賢者って……誰?

 なぜか、顔を見合わせたトルグさんとミリネラさんもうなづいている。


「これは言っておいていいじゃろう。実はな、テレシーはお前さんをこの世界へ呼んだ魔法陣の賢者、テルセゼウラの王子シュザージの生まれ変わりだったんじゃ」


 ………………へ?


 全く理解できなくて首を傾げた。目元にたまった涙はまだ落ちない。


「わしらも驚いたがな。死の直前、自分の魂に魔法陣を描いて生まれ変わっても記憶を維持できるようにしていたそうだ。その方がテレシーに生まれ変わって、お前さんに会ったことで自我を取り戻し、今ではテレシーの中で共存されているのじゃ」

「そ、そうよ! この家の守りの魔法陣を書いてくださったのもその方よ。いろんな術が使えるの、もしかしたら良い手立てがあるかもしれないわ」

「その方がいたからこそ、テレシーは勇者として名乗りを上げられたんだ。異世界から花嫁を呼び寄せるくらい物凄い魔法陣を扱える方だ。あの方も今世のテレシーとタケユキが結ばれることを望んでいる。協力は惜しまないはずだ」


 え? えっ? り、理解が追いつかない。

 生まれ変わり? 賢者? 白骨バカ王子……?

 オーリー先生が、ミリネラさんが、トルグさんが言ってることが、わからない。


 でも


 それって……


「俺に、リドルカさんを捨てろって言うんですか!」


 怒鳴った瞬間、力が溢れ出すのがわかった。

 まずい、と思った時。俺はリドルカさんに抱きしめられていた。俺の周りにうっすらと青い光が輝いている。

 リドルカさんの魔力だ。

 黒くないのにそう思った。それは間違いではなく、暴発した俺の力を止めてくれていた。よく見れば、先生たちの周りにもそれがあった。

 俺にも俺の力にも干渉できなかったはずの魔力がどうして? と疑問が浮かんだが、それよりも目に映った情景に戦慄した。

 窓ガラスにヒビが入っている。書棚の書類や机の上のものが一部散らかっている。

 背筋が震え、体温が下がっていくのがわかる。


 俺は危うく、大事な人たちを傷つけるところだった。


「う、うえぇ……」


 涙がこぼれ出す。

 怖かった。

 思い出した過去の悲しみではなく、自分の力が怖くてたまらなかった。

 

「リ、リドルカさ……止めてくれ、て、ありがと……うぅっ」

「お前も俺を止めただろう」


 そう言って、リドルカさんが抱きしめてくれた。あやすように頭を撫でてくれる。この手を、捨てることなんて絶対にできない。


「タケユキ……」


 ミリネラさんが、泣きそうな顔をして俺を呼んだ。

 みんな、俺が怖かったんだろうか。

 ……怖れられている感じは、しないのは、なぜだろう。


「す、すまんかった。少し自分らの願いを押し付け過ぎてしまったな。許してくれ、タケユキ」


 じーさん先生が慌てて謝罪してくれた。

 俺は涙を拭って向き直る。

 子供みたいな暴発をしてしまった。こっちこそ恥ずかしくて申し訳ない。


「ごめんなさい。力が暴発してしまいました。今後は気をつけます」


 グスリと鼻が鳴る。

 まだ涙がうまく止まらない。


「テレシーは、迎えに行きます。ほっとけませんから。ちゃんと連れて帰ってきますから、それで許してください……」


 リドルカさんに抱きしめられたまま、頭を下げた。

 じーさん先生たちは何も言わない。


「えっと、テレシーがいるのはその、フレンディス国のウェルペンって街でいいんですね。リドルカさん、知ってますか?」

「ここから西、クオスト山脈から遠くない場所だ」

「よかった、場所がわかるんですね。オーリー先生、トルグさん、ミリネラさん、行ってきます」

「あ、ああ……」


 これがこの家に来る最後になるかもしれない。

 テレシーが諦めてくれても諦めてくれなくても、受け入れられない俺はもうテレシーの家族であるこの人たちには会いに来れないよ。


 本当に、ごめんなさい。


「しかし、な。今もその街にいるかはわからないんだ」


 トルグさんが手を上げてそんなことを言った。

 帝国のように鳥を使った通信手段はこの国にはなかったはずだ。旅立った人の居場所がはっきりする方がおかしい。


「あー、いやな。魔法陣の賢者殿が通信の魔法陣を置いていってくれたんだ。ウェルペンに到着したらすぐに連絡をくれるはずだったのに、予定の日になっても連絡がない。こちらからは呼びかけられないから心配で──」


 通信手段があるのに連絡がない!?


「何かあったんですか!?」

「わからんよ。わしらも心配じゃが、こうして連絡を待つしかないんじゃ。交代で銀盤の魔法陣から離れんようにして、待っておるんじゃが」


 テーブルの上の銀の板。

 トルグさんは夜通し連絡を待って研究室にいたのか。


「急いで行きます! リドルカさんっ、跳びますよ!」


 リドルカさんにぎゅうっと抱きついて──テレポート!

 先生の屋敷の上へ跳んだ。

 下で窓の開く音がしたのが聞こえた。窓を開けた先生たちが空を見上げて俺たちを見つけたのがわかる。

 振り返って、手を振った。

 そしてすぐに上昇する。

 すでに日がのぼって明るくなっているので、できるだけ高く。


 高く、高く、上がって上昇を止めると、今度はリドルカさんが俺を抱え直して浮遊する。


「無理をするな」

「してませんよ。御典医さんがもういいでしょうって言ってましたし」

「……震えている」

「寒くはないですよ?」


 心以外は。

 なんて思ったのが通じたのか、リドルカさんの眉が寄る。


「タケユキは俺を諦める必要はない。俺も手放さん。何があろうと」

「もちろんですよ」

「俺もタケユキが好きだ」

「うっ、は、初めて言われた気がします」

「……そうだな。お前がおかしなことを言うから」

「おかしなことって?」

「護衛兵になるなどと」

「不採用でした」

「当然だ。お前は俺の妻になれば良い」

「俺は男なので、皇弟殿下のお嫁さんは無理かもって思ってたんですが」

「兄上は狭量ではない。姉上もカトリーネもパレアーナも。……貴族や王族には、男の妾を持つ者もいたのでな」

「ああ、なるほど……」


 皇帝兄弟はみんな、帝国の闇をどっぷり見てきた人たちだもんな。

 いろんな意味で心が広い。


「妻になってくれるか?」

「もちろんです。嬉しいですよ、リドルカさん」


 ごめんなさい。俺だけ幸せになるなんて、申し訳なくて……でも……


「だが、タケユキが望むなら、その娘を手に入れればいい」

「……はい?」


 思わず目をぱちくりしてしまった。

 リドルカさんは何を言っているんだろう。


「これ以上、俺のために願いを捨てることはない。共にありたいと思う者がいて、それができるなら手放す必要などない」

「で、でも、そんなの、許されないでしょ?」

「俺からタケユキを奪う者は許さん。だが、共にあることを望むなら排除などせん」


 ええ……

 もしかして、一夫多妻もありなの? 帝国。

 一夫多妻じゃなくて一夫一夫?一婦になるんだけど。


「タケユキが泣く方が、辛い」


 ブワッ、と熱が上がった。

 熱いよリドルカさんっっ

 なんで笑うんですかっっ!?


 かっこいいですっ、もうっ!


 なんだか恥ずかしさでもだもだしてると、リドルカさんの唇が俺の額に触れた。そして、唇に。


 初めての、キスだぁ……


 ゆっくりと唇が離れて、目の前の運命に震えた。嬉しくて。

 

「行こう」

「はい」


 青い空の中。俺たちは西に向かって飛び立った。

 そこに、新しく開ける運命があるかどうかは、まだわからないけど。

 行ってみよう。


 テレシーと、その中にいると言う魔法陣の賢者に会うために。



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