表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第四章 会いに行く
71/192

第七十一話

ここから竹雪が主人公に戻ります。

時間も少し戻って、二章の終わりあたりから始まりです。



 皇弟殿下の護衛役を満場一致で却下されたその日。

 オンタルダ帝国にもたらされた急報は、俺を含めてみんなが首を傾げるものだった。


 テレシーが勇者って……なんで?


 その日の日暮れ時にはさらに追加の情報が入ってきた。

 帝国には長距離を飛ぶ鳥を使った情報伝達方法があるらしい。その伝書鳥がもたらした情報をもとに俺と皇帝兄弟はいろいろと話し合い、気がついたらすっかり日が暮れていた。


 今、俺は皇城の上階にある皇帝一家の私的な居間にいる。


「捏造された魔王の悪行が、誇大に宣伝されるのは予想していたが……わけがわからんな」


 オンタルダ帝国皇帝トマシウス陛下は頭を抱えた。


「よりによって勇者ですか……。神王国は何を考えているのか」

「他国を巻き込む狙いがあることは間違い無いと思われます。しかし、私たちが親善に出向いた国の内、二つもの国がそれに応じるとは。残念です」


 皇妹オーレリア殿下と、同じく皇妹カトリーネ殿下がため息をつく。追加情報で、スルディアも正式に勇者を送り出したってあったよ。がっかりだね。


「でも、神族再降臨の件がタケユキと掛け離れたものになったのはよかったんじゃない?」


 唯一の光明に注目を促すのは、こちらも皇妹パレアーナ殿下。

 化物事件の時、鉱山の人たちを助けて回ったことで俺は最降臨した神族だと噂されてしまったんだけど、なぜか帝国の外では噂が違うものになってたよ。


「なぜナルディエ神王国に降臨した神が、自主的に帝国に来て勝手に捕まったことになっているんでしょうね」

「大方、噂を聞きつけた神王国の者どもがタケユキの手柄を横取りして、あわよくば自分たちの身内として取り込もうと企んだのであろう」


 忌々しげにそう言う皇帝さんに、みんなうなずく。


「まあ、俺と結びつかない人物像になっているのはありがたいですが」


 神族は皆、類まれな美貌の持ち主と言うから、むしろ俺がそうですって言ったら笑われそうだ。俺と同じ想像をしているかはわからないけど、パレアーナさんは「うんうん」と嬉しそうに頭を振っている。

 お姉さんたちも皇帝さんもまだ心配顔だけど。


「タケユキの正体がごまかせたのは良いとして……だからと言って、今からベルートラスまで飛んでいくなんて。いくらなんでも無謀ではなくて?」

「そうだな。やはり、病み上がりで無茶はするべきではない」

「もう大丈夫ですよ。体調は万全です」


 よく寝たし、御典医さんのお墨付きももらった上でベッドから出してもらえたんだし。


「それに、どうしても自分で確かめたいんです。間違いか同名の別人ならいいけど、もし本当にテレシーが勇者なんてものに祭り上げられて危険な場所へ連れて行かれたのだとしたら、俺は何がなんでもテレシーを助けに行きます」


 舞い込んできた情報は色々と錯綜していた。

 ベルートラスから派遣されたのがテレシーだけと言うものと。テレシー一行、つまりオーリー先生やトルグさんミリネラさんまで一緒というもの。どちらが本当かはわからないけど、テレシーという名の勇者が出てきたことは確かなようだ。

 俺が超能力で盗賊を倒してしまったことが発端で、俺を庇ったテレシーは特別な力を持っていると認識されてひどい目にあった。もし、今回もそれが理由だったとしたら、責任は俺にある。


「テレシーって、タケユキが担いで逃げたあの娘よね? あの時も仲良さそうだったし、もしかして……タケユキの大事な人?」


 パレアーナさんが、俺の隣に立っているリドルカさんをチラリと見る。


「テレシーは恩人なんです。俺がこの世界に来てから何度も助けてもらって、親切にしてもらって。なのに、俺はまだ彼女に何の恩返しもしていないのです」


 ふわふわと笑う、優しい笑顔を思い出す。同時に、神属騎士に殴られて気を失って倒れ伏した姿が過ぎる。


「大事な人ですよ。もし、みなさんが彼女に何かしてたら、俺はこの城を壊してましたから」


 皇帝さんと妹さんたちが、ハッとして少し青ざめる。

 俺を攫って来たばかりの頃の話だね。

 あの時この皇城を壊していたら、その後起こったテロや化物に対処できずに帝国は滅んでしまっていたかもしれないな。俺は一人で海に出て泣き暮らすことになっただろうし。そもそも、パレアーナさんがテレシーを放り出したりひどいことしてたら、船で気がついた時点でリドルカさんと戦って死んでたかもしれない。

 そんなことを思っていたら、ぽん、とリドルカさんの大きな手が俺の頭に乗せられた。くしゃっとそのまま撫でられる。


「恩人……か」

「はい」

「では、行かねばな」

「はいっ」


 リドルカさんは俺に付いて来てくれる事になった。

 護衛をする予定だった人に付き添いしてもらうのはどうかと思うけど、リドルカさんが来てくれるのは実のところ本当に助かるんだ。

 俺は夜空を飛んでベルートラスに辿り着けるか自信がない。けど、リドルカさんは方向がわかるらしい。すごいな。

 ベルートラスの上空まで行けば、じーさん先生の家はわかる。

 もし家に誰もいなければベルートラスの王様を締め上げに行くことになるけどね。その時はさすがに俺一人でなんとかするつもりだけど。

 

「でも、リドルカさんが帝国を離れて、本当にいいんですか?」


 リドルカさんに尋ね、皆さんの方にも顔を向ける。


「心配がないわけではないけど、国を開けるなら今しか機会がないでしょうね。タケユキ殿のおかげで内通者が一掃された今なら、敵に感づかれず国外へ出られるでしょう。もちろん空を飛べるタケユキ殿とリドルカだからできることですが」

「敵が勇者を揃えて何か仕掛けてくるとしても、今すぐと言うわけにはいかないでしょう。むしろその勇者が何を狙って集められているか探ることができればありがたいわ」


 オーレリアさんとカトリーネさんがそう言うなら大丈夫かな。皇帝さんもパレアーナさんもうなずいているし。

 リドルカさんもうなずくと、俺の肩を抱き寄せた。

 俺たちの準備はできている。

 服はここに来た時に着ていたトルグさんのお下がりに着替え、その上に暖かくて軽いフード付きのマントをつけている。

 リドルカさんも皇族に見えない安手の黒い服を着て、装飾のない紺色のマントを羽織っている。それと腰には荷袋と剣を一振り下げているよ。うん、何を着てもやっぱりかっこいい。


「じゃあ、行ってきます」

「ああ、行っておいで。必ず無事に戻るように」

「もしもの時は、良いようになさい。こちらは気にせずにね」

「リドルカ、魔力の暴走にはくれぐれも注意するのよ。リドルカが止められない時はどこにでも放り出していいわよ、タケユキさん」

「あの子に、えっとテレシーに謝っておいてね! ごめんなさいって」


 それぞれの言葉に、俺は笑ってうなずいた。

 そして、空に向かって──テレポート。


 大きな大きな皇城を見下ろす高みへ飛んで、そこからはリドルカさんが俺を連れて飛んでくれる。病み上がりの俺が自分で飛ぶことを、リドルカさんが許してくれなかったんだ。


 あったかいマントに包まって、あったかい腕に抱かれて、俺はベルートラスに向かって旅立った。

 

 テレシーに会うために。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ