第七十話
領主の側近さんが話を続けるようです。
面倒ですが聞くしかありません。
この後、ウェルペンでタケユキさんを待たなければならないので波風は立てられませんもの。
「実は、勇者様方の出立が延期されることになりました」
「ええっ!?」
アロさんたちが大声を上げました。
「どうしてだよっ。町はひとまず落ち着いたし、俺たちはいつでも出発できるぜ!」
「それが……実は、魔王討伐のために我がフレンディス国と密かに協力関係にあった帝国北方の領地、ローレンド領が数日前に完全に壊滅したと言う報告が飛び込んで参りまして」
え……?
「先日、皇帝がその悪政に反旗を翻した領地を魔王に襲わせたという知らせはすでにご存知でしょうか? それを憂い、ナルディエ神王国に再降臨された新たな神が立ち向かわれましたが、その方も帝国に囚われたという噂です。我らはその方を取り戻し魔王と帝国に立ち向かわねばなりません」
意味がわかりません。
そんなのがいたならなぜ勇者と合流して一緒に向かわなかったのですか?
勝手に行って勝手に捕まった人など知りません。私たちが取り戻したい人はもう無事なのでどうでもいいです。
「ですが、帝国は潜伏していたローレンドの領主一族の生き残りや領民を根こそぎ壊滅させるために再び魔王を動かし領内の町や村まで魔に落とすという恐ろしい制裁をおこなったのです。ローレンドは魔力に飲まれた泥沼のような場所になってしまったと、かろうじて逃げ延びた我が国の手の者が報告をもたらしてくれました。その者も、魔傷を負っておりすでに死亡しております」
なんですか、それは。
みなさん同時に息を飲みました。
「もしかして、ホーケンを襲ってきた魔物どもは……」
「はい。その時魔に落ちた獣が山脈を越え、やって来たものと」
「魔王めっ!」
アロさんがダンっと足を鳴らして怒鳴りました。その怒りはわかります。今回の魔物に襲われて亡くなった方は少なくないからです。シュザージの魔法陣のおかげで多くの人が助かりましたが、間に合わなかった方は何人もいたのです。
アロさんもエレーナさんもエハンさんもラッシュさんも、憤りを隠せません。
なんてひどいことを……無茶苦茶しますね帝国は!
シュザージやオーリー先生が言ってた通り、本当に帝国は極悪非道な国なんですね!
けれど……そんな話を聞いている時に、あの銀ピカ神官は何をニヤニヤ笑っているのでしょう。騎士団長も素知らぬ顔です。
おかしいです。
「勇者様方には、クオスト山脈を迂回し海岸線を通りローレンド領に向かっていただく予定でしたが、そのような情報が入ったからにはルートを変えざるを得ません。再考する間、アロ様たちはこのままホーケンに残っていただき、スタング様とテレシー様はフレンディス王国の王都へ向かってもらいます。クレオ様はホーケンでもウェルペンでもどちらで待機していただいても良いそうです」
「は?」
声に出したのはクレオさんだけでしたが、皆さんも同じ気持ちでしょう。もちろん私もです。
「待ってください、なぜ勇者をわけて待機させるのですか? それに、帝国に向かうなら待機場所はウェルペンの方が動きやすいでしょう。私は師匠と二人きりでも構わないのですが」
あれ? スタングさん、今なんて言いました?
「確かフレンディスの王都はずっと北寄りで、ここからだとベルートラスの王都に向かうのとほとんど変わらない距離があるじゃないですか」
クレオさんの言葉にびっくりしました。それならいっそ帰りたいです。いえ、タケユキさんが来たら一緒に帰るつもりですが。
「これはフレンディス国王の命令だ」
「僕はスルディア国の者でテレシーさんはべルートラスの代表です。フレンディスの国王の命令など聞く必要もないですし、神殿の意向に従ういわれもありません」
クレオさんが私の方を見て言ったので、私はうなずきました。そんな遠くへ行っている場合じゃないんです。タケユキさんが来てくれるのを待たなければいけないんですから。
なんて思っていたら、銀ピカ神官が突然立ち上がり激昂しました。
「なんという暴言! 神に刃向かう背信者め! 魔術などという汚らわしい力を使った罪で極刑にされてもおかしくない所を、神とこのフレンディス国にその身と力を捧げることで許してやると言っているのだ。首を垂れて我らに従え!」
魔法陣狙いでしたか。
汚らわしいのに捧げて欲しいんですか?
魔王討伐はもうどうでもいいのですか?
──呆れてものが言えん。百年前は神殿もここまでひどくなかったと思ったのだがな。
シュザージと一緒にどうしたものかと考えていたら、熱くなった銀ピカ神官はまだ吠えます。
「逆らうなら、魔術などに頼ったこの町ごと罪を問うてやっても良いのだぞ!」
「なんということを言われる!」
即座に反論した町長さんはすごいです。その言い様は流石に無茶が過ぎるでしょう。私もですがアロさんたちも銀ピカ神官が何を言っているのかすぐにはわかりませんでした。
ですが、激しい怒りを覚えたのは町長だけではありませんでした。
『自国の民を……人質にとる気か……?』
思わずペンダントを抑えました。
私の全身に、シュザージの怒りがめぐるのを感じます。
「な、なんだ、今の声は」
「民を人質にするなど言語道断だと言ったんです! 恥を知りなさいっ」
クレオさん、ごまかしてくれたのですか?
助かりました。
銀ピカ神官の意識はクレオさんに向かっています。まだ何か捲し立ててますが、クレオさんにお任せします。
シュザージ、落ち着いてください。
私だってあいつは張っ倒してやりたいですが、ウェルペンでタケユキさんを待たなければいけないんです。あいつらを血祭りにあげてる場合じゃないですよ。
ここのところ、シュザージが不安定で……心配です。
「ええいっもう良いわ! 騎士団長、こやつらをこの部屋から出すな。明日の朝、夜明けと共に出立だっ」
吐き捨てるように言って、銀ピカ神官は部屋を出て行きました。
神殿騎士団長は扉の前の騎士に命令を出し、一緒に部屋を出ます。まだ騎士が二人いますが、うるさいのがいなくなってちょっとだけホッとしました。
「大丈夫? テレシー」
「どうぞ、こちらの椅子にお座りください」
町長さんが椅子を勧めてくださいました。なにげに銀ピカが座っていた席ではなく自分のいた席を勧めてくださるところに好感が持てます。
エリーナさんが心配して背中をさすってくれています。ずっとペンダントを握っているので、胸が苦しいように見えるのかもしれません。
いえ、胸は苦しいですが。
シュザージ、ここにいる人たちはあなたの国の民じゃないですよ?
あなたがそこまで気に病む事はないんです。
そりゃ私だって見捨てたくはないし、頭のおかしい銀ピカなんかに好きにされたくないですからね。もしもの時は暴れますが。
心の中に声をかけ続けていれば、シュザージの苛立ちは少し落ち着いてきたようです。
──そうだな……
早くタケユキさんに逢いたいですね。
そうしたら、シュザージも少しは癒されるはず……
そう、思った時です。
頭の中に私を呼ぶ声が聞こえました。
シュザージではありません。
私は辺りを見回します。
こんなところで聞こえる声ではありません。だって、昨日こちらに向かって立たれたと聞いたばかりなのですから。どれだけ早くても三、四日はかかるはず。
でも、この声は──
「タケユキ……さん?」
第三章はここまでです。
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