第七話
テレシーにお茶を淹れてもらい、一服してから話し合いを続けた。
もちろんテレシーには部屋を出てもらう。
「さて、では聞いておきたいのじゃが。お前さんが召喚されたという場所に禍々しい力を放つ黒い石はなかったか?」
禍々しいって、どんなの?
『なかったです。天井のない塔のてっぺんでしたが、あったのはバカ王子の白骨とその手帳くらいです。バカ王子の持ち物を全部探ったわけじゃないので絶対とは言えませんが』
「うむ。バ……王子は魔法陣の発動とともに亡くなっておるなら、召喚物を手にしているとは考えにくいな。嫁であれ魔王石であれ」
うんうんとうなずくじーさん先生。先生もバカ王子って言いかけてたね。言っちゃっていいのに。バカ王子め。
「話は戻るが、お前さんが魔王だとは思っとらんよ。魔力を全く感じんからのう。魔王石を取り込むか持っているかすれば強大なその力を隠すなどできんから、わしはともかく魔術士のミリネラが気が付かんはずがない」
そうなのか。ちょっとホッとした。
ってことは神様方面の力は? そっちも何か一目でわかる何かがあるのか?
「神族っていうのも、なにか力を感じて分かるんですか?」
「うむ、神力なら神術士にわかるじゃろうがそれ以前にな。神は人と変わらぬ姿に絶大な力を宿して降臨されたと伝えられるが、その姿は誰もが平伏し尊ぶほどの美しさだったと……」
ああ、なるほど。皆まで言うな、です。
微妙な空気を誤魔化すようにじーさん先生は神石と魔石の説明をしてくれた。
神石とは。
千年前に神が降臨した山岳地帯で獲れる水晶のような白い石で、神の力が宿っていて、適性のある人間が使えば不思議な現象を起こせるらしい。
光を放ったり、熱を発したり。上級者になれば治癒もできるそうだ。
トルグさんはその素質を持っているらしく、盗賊との戦いの時に目眩しの術を使っていた。
ただ、神石は資質の上限を超えて使いすぎると神に導かれ眠れる者の常世へ行くらしい。それって、天国?
魔石とは。
大陸中、どこでもとれる魔の力を帯びた黒い石で、神石と同じように適性のある者が使えば術となる。けど、こっちの方が危険で資質の上限を超えなくても少し使いすぎると魔に取り込まれて魔落ちし、魔物になってしまうそうだ。
自然界でも、何かの拍子に取り込まれた動物や植物が魔物化することがあるんだって。
魔物がいるのかこの世界。
怖いね。
ちなみに、ミリネラさんはこの魔の資質が高いらしい。そして、神の資質を持つトルグさんは多少なら魔の力を抑えられるらしく、ミリネラさんが魔石の力を使う時は常にそばにいて魔落ちしないように守っているらしい。
……いいな。
あの夫婦って、俺の理想の夫婦だったんだ。
「わしが滅びの都に調査に出た理由じゃがな。一ヶ月と少し前、神王国にある大神殿から各国の神殿に御触れが出てな。強大な魔の波動が感知されたので直ちに調査し、世界に脅威を及ぼす者を捕らえよと」
一ヶ月と少し前?
じゃあ俺とは関係なかったのか。よかった。……よかったのか?
『その、魔王って世界征服を企んで人間を滅ぼして魔物の世界を作るとか、そうゆうのですか?』
「察しがいいのう。そういうのじゃ」
さっきも聞いたけど、魔王とは魔王石と言われる強大な力を持った魔石の力を取り込んだ者を指すそうだ。魔王石は本来は地中の奥底にあると言われていて、過去に鉱山などで発見された例もあるらしい。坑夫が呪われて暴れ出すこともあったらしいが、それらは神石の術士が複数で挑んで倒すことができた。が、今回感知されたそれはこれまでにない強大なものらしい。
「昔から、魔王石の力を取り込んだ者、もしくはそれを取り込ませた者を操り、その絶大な力を使って世界の覇者たらんとしたものは幾人もいたと聞く」
『俺に、それと戦えと?』
「戦力の一端になってもらいたいと思っておるが……」
『お断りします』
「そうか、なら仕方ないのう」
なんかあっさり引いたけど。何か企んでるのか?
「そう警戒せんでいい、戦場に出ろとは言わん。魔王か魔王石発見の手助けしてほしいと願っておるだけじゃ」
『俺は自分の力のことで目立ちたくないんです。好きな人とこじんまりと平穏に暮らすのが一番の望みですから』
「けどな、魔が蔓延る世界になってしまえばそうも言っておられんぞ」
『身に危険が及びそうになったら対処します』
「少し顔見知りになっただけのわしらや護衛兵士たちを助けるために、病の身で秘匿したいはずの力を奮ってしまったお前さんが、脅威にさらされた人々を見捨てられるか?」
『……………………ずるいですよ、じーさん先生』
「じーさん先生?」
『あ……』
口で喋ってたわけじゃないのに口を押さえてしまった。
「えっと、オーリー先生」
「ホッホッホッ、じーさん先生で良いよ」
口に出して名を呼んだら、じーさん先生が笑った。
うーん。俺は思ったよりお年寄りに弱いかもなぁ
「そういえば……その話はテレシーにしたのかのう?」
「テレシー? いいえ」
「あの子がお前さんを庇ってあの力を奮ったのは自分だ、などと言い張ったのは平穏を望むお前さんを気遣ってではないかと思ったのじゃがな」
なんで?
『あの子にそんな話はしてません。と言うか、会話はほとんどしてないですよ』
「この心で話すというやつもか?」
『ええ……──あ、でももしかしたら……』
そう言えば、熱でフラフラしてる時に色々心で愚痴ってたな。テレパシーのコントロール失敗して、聞くだけでなく逆流して心の声を聞かせてしまってたかもしれない。熱冷ましにずっと額を触ってくれていたし。接触してると流れやすいんだっけ。
母さんが、父さんと揉めて離婚騒動になった時もそんなことがあって聞いたな。なんだかんだあって仲直りしたから良かったけど。母さんは俺が生まれるまで力のこと父さんにも秘密にしてたらしいから──……
「何か心当たりがあるのかね?」
心配そうに問われ、思考を戻す。
ちょっと照れくさいけど、可能性を話してみた。
じーさん先生はそんなこともあるのか、と手を伸ばして俺のおでこに触ろうとしたので拒否した。
普段ならそんなヘマしないよ。
「そうか……では、あの子は本当にお前さんを庇って言い出したんじゃな」
そう言うと、じーさん先生は声に出さずに俺に向かって話し出した。
『こうやって考えていれば伝わるのかのう。あー、実のところテレシーがあんなことを言っても護衛兵士たちはお前さんを疑っておる。わしも疑っておったわけじゃしな。今は魔王のこともあるから、国は力のある者を求めておるし、護衛兵士の口から上に伝わればお前さんは兵士になることを強要されるかもしれん』
うえ!?
『けど、テレシーが馬車の中にあった神石や魔石を使って火事場の馬鹿力を出しただけ、二度とできんとか術学者のわしが口添えすれば誤魔化せるじゃろう』
『それ、いいんですか?』
『ああ、その代わりと言ってはなんじゃが。お前さんも魔王調査の手伝いをしてくれんかのう。トルグたち同様、わしの弟子としてじゃ。仕事に応じて生活の場と食事、給金も出すが……どうじゃ?』
「じーさん先生、ずるいです」
これは言葉で言いたくて、きっちり口から出て言った。
じーさん先生がまた笑う。
他に行き場があるわけじゃないし、これはこれでいいのかな。戦闘を強要されるわけじゃなさそうだし、この世界の魔法については知っておきたいし。
じーちゃんとは全然違うタイプだけど、じーさん先生はちょっと気に入ったから信じてみようか。
年寄り孝行は嫌じゃない。




