第六十七話【スタング:勇者に?】
神王四国と呼ばれる四つの国がある。
千年前に神が降臨した土地、世界で唯一神石が採れるその場所を聖地とし神殿を祀り、守る国である。
それぞれの王族は元は降臨された神の血を引く一族で、絶大な神力の術資質を持っているのだ。
その中で一番小さな国がラスタル神王国。
さらに、その王族の中で最も地位が低いのが私だ。
父は国王の兄だが、政権争いで負けて弟の臣下となった。
だが父は王位を諦めることができず、幼い私に無理な教育を押し付け次期神王である従兄弟に対抗させようとしたのだ。
神術を極めさせるべく師に無理な教育を迫り、神術を使い続けた師は私の目の前で光の塵になってしまった。
以来、私は術を使うのも学ぶのも恐ろしくなってしまった。
幼少期に術に委縮すると資質も下がると言われている。
私は、神王一族としてはありえないほど資質のない術士だと言われるようになり、城にも離宮にも住むことを許されず。神殿に雑用係として放り込まれることになった。
それから数年。
突然、神殿から連れ出された私は神術士として再教育を受けることになった。指示をしたのは王の息子で従兄弟でもある王子だった。父はいつの間にか死んでいたらしい。
そして命令を受けた。
「勇者を率いて魔王を討伐してこい。さすれば神王一族としての地位を取り戻させてやる」
と。
何がどうしてこんなことになったかわからない。
今更、神王一族に戻ったところで何ができるわけでなし。すでに神の子孫を誇れるほどの術資質はないのだから。さりとて、逆らったところで殺されるのが落ちだろう。
だがもし、本当に魔王を倒せたら?
私が率いる勇者の中に本物の傑物がいれば、共に戦い魔王を倒すことで私も勇者と称えられるようになるかもしれない。ラスタル神王家の出自と、その誇りを取り戻せるかもしれない。
あまりに儚い希望を抱いて、やって来た属国の一地方領地。そこに集った勇者たちにはため息しか出なかった。
そこに居たのは野蛮な平民と、辺境出の頼りなさそうな剣士。更に遅れてやって来たのが戦闘には無縁にしか見えない少女だった。勇者というより一緒にいた騎士たちの使用人と言ったほうが正しいような気がする。
しかも、神術に魔術を混ぜ込む複合術の使い手だと言う。それも一国を滅ぼした呪われた技術である魔法陣を用いて術と為すと。
ありえない。魔王を討伐するのに魔術を用いる者を同行させるなど。
しかし、居丈高に言った彼女の言葉でひとつだけ、聞き逃せないものがあった。
複合術を使うことで、光の塵にならない?
問い正そうとしたら、なぜか勝負することになってしまい頭を抱えた。けれど、彼女の術は素晴らしいものだった。あれだけ立て続けに術を使って無事だなんて信じられなかった。しかもそれが子供の手習程度のものだというではないか。
この力を、手に入れられないものか……
しかし魔術を取り入れるなど神王の一族としてどうなのか。それに今の私の術資質ではどれほどの成果となるか。
悩んでいるうちにほとんど眠れないまま夜が明けてしまった。
下の階から怒鳴り声が聞こえた。騒がしさに起き出し、部屋を出たらなぜか拉致された。訳の分からないまま魔物の討伐に同行することになってしまったのだ。なぜこうなる。
その道中、またもや驚かされた。
私の術資質が、幼い頃のままだと言われた。神の血を引く者が誇る、膨大な力を扱える能力が、まだあると。
そうして今、私はかつての師が残した杖を手に魔法陣の上に立っている。
魔法陣。
目の前にある、その凄まじい技術に息を飲む。
じっくり見れば、その複雑に描かれた記号や文字の列ひとつひとつに全く違う術が込められているのがわかる。
あの方が口にした呪文のような言葉は、全体を通して得られる術をまとめただけのものだ。これを全て覚えていて、組み合わせ神力魔力を込めていく。それも文字を書く程度の速さで。
私にも、できるのだろうか。
今はまだ、言われた通りに神力を注ぐしかできないが、いつかは私にもこれだけの術を使うことができるようになるのか。
これは、憧れずにはいられない。
もう、神王の一族として国に戻る希望など飛んでしまっている。
魔法陣の賢者。
私はその名に惹かれた。
共に勇者として戦うためになら、私にもその技を伝授してもらえるだろうか。師と呼んでも、許されるだろうか。
私は目の前の魔法陣をじっと見つめながら、その力を少しでも読み解けないかと頭を働かせた。
楽しくなって来た。




