第六十六話【アロ:勇者に!】
あの山の向こうには魔物の国があると、子供の頃から聞いて育った。
魔物は山を越えてやってくる。
触ったり襲われたりすれば、あっという間に魔物の毒を食らって人も獣も魔物になっちまうって話だ。始めて聞いた時は怖くて仕方なかったよ。
それと同時に、恐ろしい魔物に立ち向かいやっつける戦士の話を聞くのは好きだった。町にはそんな戦士がいっぱいいたしな。エリーナとエハンとラッシュと、町の守備隊の詰所に入り浸っては話を聞いたり訓練に参加させてもらったりして、いつか俺たちも魔物を倒せる戦士になろうって話し合ってた。
もちろん、母ちゃんたちには叱られたけどな。家の手伝いしろとか、危ないことはするなとか。
けど、俺たちは頑張って町を守る守備隊に入ることができた。
小さい頃から四人で考えた戦法で、山を越えてきた魔物をたくさん倒して町では結構有名にもなっていったよ。
そんなある日、守備隊の隊長がすごい話を持ってきた。
「国をあげての魔王討伐に勇者を募集するってよ」
魔王討伐。
それは、子供の頃聞いた戦いの話では一番憧れたものだった。
仲間たちと力を合わせて魔王を倒す勇者。世界を救った英雄の話は寝物語でもよく聞いた。
「俺が行く、と言いたい所だけど町を守るだけで手一杯だ。だから、若手で一番力をつけてきてるお前たちに行って欲しいんだが……どうだ?」
俺たちはもちろん引き受けた。
おっさんどもは悔しがってたけどな。自分が行きたかったって。
世界中から集まった強い奴らと、魔王を倒して英雄になる。憧れてた勇者に俺たちがなるんだ!
そうして、俺たちはウェルペンという大きな街にやって来た。
けどさ……
やって来た勇者はたった三人。偉そうな神術士と、剣は持ってるけどいつもすみっこにいる弱そうな剣士。それに……女の子。
エレーナと違って本当に女の子っぽい、つつくだけで泣き出すような奴だ。そう言ったらエレーナに殴られた。
あんなのが魔物と戦えるわけがない。
現実を知ったら泣いて帰るに違いないと、脅しのつもりで勝負を挑んだら……バカみたいに強かった。
指先から空中に描いたキレイな絵から、風や水や石や火が飛び出した。俺はろくに近づくこともできなくて、大量の燃える鳥とか魚につつかれて負けちまった。なんだよあれ。あんなのアリか?
神術と魔術を組み合わせた術だと言っていた。
生き物を魔物にする力と、それを救う力をごちゃ混ぜにして使うなんて信じられなかった。けど、俺たちの神術士であるラッシュは目を輝かせて感動していた。そんなになのか?
キレイだとは、思ったけどな。
そいつは戦ってる時と普通にしてる時で全然感じが違う変な奴だ。エリーナは女の子仲間がいたってんで喜んでたけど。女の子仲間ねえ、って言ったらまた殴られた。
まあ、そいつには好きな男がいるそうだ。
別にいいけどな。………………ちぇっ。
すみっこ剣士は思ったより強かったし、偉そうな神術士は頑張ったらすごくなるのもわかった。それは良かったと思うぞ。
ちょっと魔王討伐に希望が出て来た時、エハンの弟が助けを求めて駆け込んできた。故郷の町にこれまでにない数の魔物がどっと押し寄せて大変なことになっていると。
俺は宿舎の管理をしている奴や騎士に頼んで町を助ける軍隊とか出して欲しいと頼んだ。最悪、俺たちだけでも助けに帰ると。
けど、奴らはそれを邪魔して俺たちを帰そうとしないし助けも出さない。
予定がどうとか、勝手なことはするなとか。勝手なのはどっちだよ!
そんな中、助け舟を出してくれたのはすみっこ剣士となんとか術士だった。
なんとか術士はなんか変だったけど、そいつらのおかげで俺たちはホーケンの町に戻ってくることができた。
「くっそう! なんでこんなに魔物が出てくるんだ!?」
「泣き言言ってる暇はないわよエハン! ラッシュ、神術は大丈夫!?」
「ああ、魔法陣のおかげでまだまだ行けそうだ」
「無理だとわかったら引けよ!」
「わかってる!」
俺たちは谷から来る魔物を町に入れないように潰して回る。ラッシュの術がいつもより効きがいいようで、俺だけじゃなくエハンの剣でもほとんどの魔物が一撃で倒せた。
「術に緩急をつけるなんて、今まで怖くてできなかったよ」
そんなことを言って余裕の顔を見せるラッシュ。
魔物の大きさや強さ、剣を振るう瞬間、その時その時で剣に込める神石の力を変えているらしい。おかげで魔物を狩るのが楽になったしいつもより長く戦えている。守備隊のみんなも驚いてる。
いつも戦いの時は、冷や汗かきながら必死に術を使ってたのにな。すごいぜ、ラッシュ!
馬車でもらったマホージンって紙切れのおかげで、自分があとどれくらい術が使えるとか、神石の力が溢れすぎないよう抑えながら使わなくても良くなったとか言っていたっけ。なんだか知らないけどなんとか術士のあいつもすごい!
「アロ! 交代だっ、一度下がって休んでこい!」
休息に庁舎に戻っていた奴が帰って来てそう言ってくれたけど、俺たちはまだ大丈夫だ! って言ってやったら
「いいから行って来い。お前が連れて来た奴らすげえぞ! とにかく見てこいっ」
笑いながらそう言われて、俺たちは首を傾げた。
こんな大変な時に何を笑ってんだって。
が、あんなの見たら笑っても仕方ないよな。
庁舎の広間に行ったらすげえでかい絵が床に描かれていて、そのキラキラ光る絵の上にいる魔落ち寸前の奴らがみるみる治っていくんだからな。
魔落ちの心配がなくなったなら、後の戦いは暴走する動物を狩るのと変わらない。そりゃ笑いたくもなるさ。
「あれ? スタング!? これってテレシーじゃなくてあなたがやったの!?」
エリーナが叫んだので、同じ方を見たらスタングがいた。
なんとか術士の描く丸い絵の中に杖を立てて立っている。
「……私がやったわけではない、魔法陣を描いたのはテレシーだ。私はこれを維持するよう頼まれただけだ。私にしかできないそうなのでな」
ふんっ、と偉そうに鼻を鳴らしたスタングはなんか嬉しそうに見えた。なんだか知らんが、やっぱりこれを描いたのはあいつか。と思ってあいつの姿を探して辺りを見たら、壁に寄りかかるようにして寝てた。
「えっ!? テレシー!?」
「どうしたの、彼女──」
「休ませておけ。ここまでだっていくつもの魔法陣を描いて、こんな大きな術も使ったんだ。疲れて当然だろう」
なんだ、疲れただけか。よかった。
確かに町に着くまでの道々でも、すごい術で魔物を倒してくれてたしな。俺たちだけじゃ辿り着けたかもわかんねぇよ。あいつがいなきゃ途中でエレーナの矢が突きちまってたろうし、町に着いたとしてもくたびれ切って使い物にならなかっただろうから。
それにしても、スタングもなかなかなもんだ。ラッシュが言うには、あのマホージンを維持するのはすごい神力がいるんだってさ。スタングはそれをやすやすとやってのけている。
そういやクレオだってすごい奴だ。剣の腕もなかなかだし、俺たちが町に到着する少し前に来ただけなのに町長や隊長たちにきっちり話をつけてくれていた。俺たちが到着してすぐに戦いに出れたのも、なんとか術士がこんな術を広間に描けたのもそのおかげだろう。
魔術なんて使うって言ったら、下手したらみんなに袋叩きだったぜあいつ……テレシー。
俺たちって、すごいよな。
本当に魔王を倒せるんじゃないのか?
そうだ、俺たちでなってやろうじゃないかっ、本物の勇者に!




