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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第三章 勇者誕生
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第六十五話

『神属性魔法陣、氷を為せ。魔属性魔法陣、風を成せ。飛べ氷の刃!』


 重なる魔法陣から複数の薄いナイフのような氷が飛び出し畑を走って来た魔物に突き刺さります。小動物の形の魔物が倒れ、どろりと溶けて崩れました。


『火で焼き払うほうが早いのだがな』

「それでは畑も果樹園も燃えちゃいますよ」


 馬車がホーケンの町に近づくと、道々に果樹園や畑が見え始めました。そして、あちこちから魔物が現れこちらを見つけると飛びかかってくるようになりました。

 はじめはエリーナさんが矢を射ろうとしたのですが『かぎりのある矢をこんなところで使うな』とシュザージに止められ。今、私は揺れる馬車の上で足を踏ん張りながらシュザージの術の手伝いをしています。すこんと入れ替わってくれた方が楽なのに。頑張りますが。


「町が見えてきました! もうすぐですっ」


 御者台のエハンが叫びます。

 木々の向こうに町が見えてきました。魔物が少しずつ増え出します。

 街道から直接伸びる大通りを真っ直ぐ走れば広場に出ました。その正面に町の庁舎があり、魔物退治の指揮はそこで町の守備隊がとっているはずだとアロさんが言っていました。


「おおっ! 本当にアロたちが帰ってきたぞ!」


 庁舎の二階のベランダから声がかかり、同時に正面の扉からクレオさんが出てきました。更に、周りを警戒しながら武器を持った人たちが数人。


「みなさん、こちらです! 馬はそっちへ、畜舎があります」


 アロさんたちは心得ているのか、庁舎脇に馬車を止めるとすぐに馬車から降り、エハンさんと弟さんが馬を馬車から外し弟さんが庁舎裏に馬を連れて行きました。そちらからも武装した人が出てきて弟さんを手伝ってくれています。馬が魔物化しないようそちらで守っているようです。


「アロ! 良く帰ってくれた!」

「隊長っ‼ 状況は!?」


 隊長と呼ばれた、三十代半ばの大柄な男性は山の方を指差しながら言います。


「南西の谷側からまだまだ来ている。お前ら元気なら早速向かってくれ!」

「わかった!」

「任せてっ」

「いくぞ!」

「やります!」


 それぞれが返事をして、隊長さんに言われた場所に走って行きました。勝手知ったる自分の町なので、魔物がどこから来るのかなどよく知っているのですね。アロさんたちと一緒に数人の武器を手にした人たちも走って行きます。


『状況は?』

「良くないですね。魔力に当てられて危険な人も多くて、治療するにも戦闘に出ている神術士がほとんどで手当てが間に合いません」

『では、我らはそっちへ行くか。お前もこっちだ』


 呼び掛けられたスタングさんはムッとしましたが、私たちについて来てくれました。

 庁舎に入れば、所狭しと町の住人が不安な顔でひしめいてました。廊下から役員さんたちの仕事部屋から。ケガをして座り込んでいる人もいます。

 中央の大広間には、あちこちが真っ黒になって倒れている人がたくさんいました。思わず私が足を止めると、シュザージは気にすることもなく指示を出します。


『こいつらを皆、端へよけろ。魔傷治療の魔法陣を描く。インクと筆を持ってこい!』


「へっ!?」


 と、治療にあたっていただろう医師や役人の方々がこっちを見ました。


「言われた通りに!」


 クレオさんが、重症度の高い人から抱えて端へ寄せ始めました。それを見て、何人かがそれに習います。役人の一人がどこかへ走って行ったと思ったら、インクと筆を持ってきてくれました。

 先行していたクレオさんが、この町の人と先に信頼関係を結んでいてくれたおかげでしょうか。思ったより簡単にシュザージに従ってくれました。


『人数が多いな。インクが足りん、もっと持ってこい!』

「はっ、はい!」

『テレシー、ここは私に任せよ』

「もちろんです」


 私の全身はシュザージの意識下で動き出します。

 開けた広間の真ん中に歩み寄り、シュザージは床に直接筆を走らせ魔法陣を描き始めました。

 まずは真ん中に馬車の車輪ぐらいの魔法陣を描きました。その手の動きは指先で直接引き出した力を操って描くのと同じくらい、ものすごく早くて正確で綺麗です。描き上がった魔法陣、その真ん中に予備の中でも上位の魔石を置きます。


『魔属性魔法陣、魔力収集』


 魔力、と聞いた人たちがざわめきましたが、今は無視です。

 追加のインクが大瓶で届き、シュザージは真ん中の魔法陣にくっつくように別の魔法陣を六つ描きました。小さめの神石と魔石を交互に三つ置きます。


『神属性魔法陣、収集魔力拡散。魔属性魔法陣、地中魔力誘導』


 最後に、両手の魔石神石の力を引き出して、指先から天井に向かって床の魔法陣に似た魔法陣を描いていきます。


『複合魔法陣、魔傷治療を成せ!』


 天井に向かって描かれた魔法陣がすうっと降りてきて、床の魔法陣と一体化し大きく広がります。黒と白と、ほんの少し紫の混じり合った美しい光を放ちその魔法陣は完成しました。

 この部屋の半分以上に広がったため、端に寄せきらなかった何人かが魔法陣の内側に入ってしまっていました。驚きの声を上げる人々。ほとんど悲鳴ですね。

 ですが、そこにいた魔傷を負った人から魔法陣に向かって黒い何かが流れ出しました。それは陣の模様を伝うように真ん中の魔石に向かって行き、周りの神石に当たるとモヤに変わって解けるように消えていきます。

 これまで見てきた魔法陣の作用から考えると、身体に入り込んだ魔力を外へ排出し、集めて地下にあるという魔力の流れる所へ押し流しているように思えます。


『そういうことだ。よくわかったなテレシー』


 褒められました。

 私だって、少しは学習してるんですよっ


「か、体が楽になった?」

「あんた! 黒いアザが消えてるよっ‼」

「すごいっ、魔落ちが治るなんてっ」


 その場が沸きます。

 魔に落ちれば助からないと思っていた人たちが歓声を上げています。


『重症者は真ん中に近い所に寝かせろ。魔石と神石には絶対触れるなよ。魔傷はこれで落ちるが怪我は治らん。それは医師の仕事だ』

「はっ、はいっ!」


 顔が綻んだ役人や医師の方々は患者さんを次々魔法陣の中に運んでいきます。


「これは、すごいですね……」


 クレオさんが関心したように息をつきます。


『だが、魂が抜け落ちた者には効かん。溶けかけていても魂があれば命は取り留めるが、形だけ残っていても生者に群がる魔物となった者は魔力が落ちても死体になるだけだ。魔法陣に込める力や場所には限りもある。その辺りの選別はこの町の責任者に任せる』

「わかりました」


 クレオさんがうなずくと、背後でこちらを見ていた質素な服のおじさんもうなずきます。おじさんは神石の杖を持っているので神術士でしょうか。


「別室の重症者もここへ運べ! 治った軽症者は広間から出ろ! これから連れてこられる怪我人の選別は……ワシがするっ」


 どうやらホーケンの町長さんのようです。

 町長さんは何人かの武装した人に指示をします。それを聞いた武装した人たちは急いで庁舎から出て行きました。

 ウェルペンの領主様よりずっと頼もしい人のようです。


『もうひと仕事だ』


 シュザージは、光る魔法陣の外に残ったインクでもうひとつ、車輪大の魔法陣を描きました。


『魔属性魔法陣、魔法陣連結。神属性魔法陣、遠隔調整……おい、こっちへ来い。スタング』


 名前を呼ばれてスタングさんはビクリとしました。


『ここからはお前の仕事だ。お前の杖をここに立て、あの魔傷治療の魔法陣を維持しろ』

「なっ!? 私にそんなこと──」

『あっちに置いた神石の力が薄くなったら、ここにその杖の神石から力を流せ。これだけの魔力を処理するには手持ちの神石だけでは神力が足りん』

「しかし……」

『今は術士の技量より持続させられるだけの神術の資質が必要なのだ。ここにいる神術士でそれができるのはお前だけだ、やれ』

 

 シュザージの命令のような指示を聞て、怒るかと思ったスタングさんは大きく口を開けてぽかんとしてしまいました。どうしたのでしょう。

 けれど、すぐにキュッと唇をひき結んで魔法陣の中に立ちました。

 そして杖を立て、魔傷治療の魔法陣を見据えます。


「……私しかできないのか。なら、仕方ない」

『神力の流れはわかるな?』

「それぐらいわかる!」

『なら、任せよう』

 

 スタングさんにその場を任せると、シュザージは壁にもたれかかってそのまま座り込みました。

 意識が私に戻ります。

 へたり込んだと思ったのか、クレオさんが慌てて駆け寄ってきました。


「だっ、大丈夫ですか!? これほど大掛かりな術を使った訳ですし、さすがに疲れたのでは……」

「大丈夫ですクレオさん」

『ああ、体はな。だがしばらく術は使わん。テレシーの術資質ではこの辺りでやめておく方が無難だ』

「えっ!? そうなんですか!?」


 魔に落ちるとか光の塵になるとか思い出すとちょっと怖くなってしまいました。けど、心の中に響く声は少し笑ってます。


 ──そのような心配はない。まだまだ余裕はあるが、この辺りでやめておく方が良いのだ。


 シュザージ?


 ──我らの目的はタケユキの救出だ。それ以外に全力を見せて、使い潰されたり利用するための算段でもつけられたら厄介だ。


 なるほど。

 じゃあ少し休みましょう。


 実のところ、予備の神石も魔石もまだあるのですがそれも内緒でしまっておきます。スタングさんが維持できるなら任せた方がいいです。

 この町はもう何年も魔物の被害にあっていて、対応にも慣れていますしね。なにせ勇者候補が誕生するくらいですから。魔落ちの心配が少なくなれば、魔物退治もなれた方々に任せた方がいいかもしれませんね。


「では、僕はアロ君たちに合流して少しでも魔物を倒して来ましょう。無理はしません、様子見程度ですよ。ご安心ください、シュザージ殿下」


 そう言って、礼を取るとクレオさんは外へ出て行きました。


 あの人……何者なんでしょう。


 ──スルディア出身の貴族で勇者候補でテルセゼウラの民の子孫で、更に訳ありか。なかなかに面倒なことだな……


 私とシュザージはそろってため息をつきました。



 その後、深夜になる頃には山を越えて来る魔物の数が激減したと報告が入り。夜が明ける頃に山を超えて来る魔物はいなくなったそうです。

 後は交代で休憩を取りつつ、町や近隣に散った魔物を掃討するだけとなりました。


 私たちは、この日もオーリー先生に連絡を取ることができませんでした。



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