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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第三章 勇者誕生
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第六十一話


 決闘の後は大変でした。


 私たちはまた談話室に戻り、椅子を勧められて一休みしました。冷たい水が渡されます。そのコップに服の袖口をちょんとつけて毒物がないか確認。もちろん袖の内側に描かれた魔法陣で、です。

 何もないようなのでいただきます。結構喉が乾いてました。

 シュザージがそんな魔法陣までつけると言い出した時はちょっと用心しすぎかと思いましたが、今はあって良かったと思います。思えば、タケユキさんも眠り薬で眠らされて連れて行かれましたからね。


 今、私の周りは色々と気持ち悪いのです。


 さっきとは打って変わってニヨニヨしている領主様とか、審判をしていた興奮気味のウェルペンの騎士団長とか、その他興味津々で私を見ていたお城の人たちとか。

 勇者たちもです。

 神官勇者はじっとりとした目で見てくるし、悪ガキ勇者は目が合うと真っ赤になってそっぽを向く癖に、視線をそらせばじっと見てきて落ち着きません。その仲間の神術士も何か言いたげにそわそわしています。

 私は“主人が取り乱した時も冷静に対処する優秀な小間使い”の心得を思いながらお水をもうひと口いただき、そっと息をつきます。


「ああ、改めて勇者様方をご紹介しましょう」


 そう言って、領主様がうやうやしく勇者たちを紹介してくれました。


 ラスタル神王国出身。スタング・ノス・ラスタル 十七歳。さらっとした白い髪で首の下辺まで伸び、目は濃い紫色。背はタケユキさんよりちょっと大きいかな。

 なんとラスタル神王一族に連なる、神族の末裔だと言っています。お国では神官をされていたとか。 

 シュザージが言うには、神術の資質が異様に高いように感じるそうですが、術の扱いがいまいちだそうです。お顔はかなり良いらしいですが私の好みではないのでピンときません。


 スルディア王国出身。クレオ・ピアトマ 十八歳。栗色の髪に目は茶色。普通と言われればこんな感じ、という見た目をされています。貴族出身の剣士だそうですが、普段は隅っこでじっとしているのがお好きなようです。

 国がお隣さんで似た文化圏なのと、戦いの時にスッとこちらについてくれたので好感度は高いです。


 フレンディス国出身。アロ 十九歳。濃い茶色の短髪に水色の目をした悪ガキです。この悪ガキがこの中で一番年上で、しかも現地の出身って……何を考えて選ばれたのでしょうね。

 お仲間の方々と一緒に南方の国境沿いで魔物狩りで名を馳せた方らしく、単独よりお仲間三人と一緒に戦った時にその真価が発揮されるそうです。

 お仲間の方々は、弓使いの女性エリーナ 十九歳。剣士エハン 十八歳。神術士ラッシュ 十八歳。皆さん同じ町の出身で幼なじみだと言われました。


「あれ? 勇者は各国から集まってくるって聞いていたんですが?」

「それが……今の所、これで全部です」


 なんと、ほとんどの国が選出に時間がかかっているとか、状況を見てから決めるなど言って勇者を送ってこなかったそうです。


「メイリンク商国とルニエル国、クオスト国は明確に拒否してきました。クオスト国は帝国の属国なので分からないでもないですが、メイリンクとルニエルは帝国と商売などで取引をしていますし、少し前に親善大使として訪れた皇帝の妹弟と交流があったとか」


 項垂れた領主様がまたため息をつきました。けど、私と目があった途端バッと顔を上げました。


「だが! ベルートラスとスルディアは違う! 帝国の甘言に乗ることも威圧に屈することもなく、世界のために本物の勇者を遣わしてくれたのだ!」


 ……違いますよ。ベルートラスの王様は基本的にあまり物を考えてない感じです。良く言えば自国の利益だけはちょっとばかり考えています。私たちがここに来たのはとてもとても個人的な理由からで、あわよくば利用してやろうとの算段からです。

 スルディアはどうだろう、と横目でクレオさんを見たらなんだか視線をキョロキョロさせながら苦い顔をしていました。もしかして、同類ですか?


「どうか、邪悪なる魔王の討伐とそれを用いて世界を支配しようとする帝国に正義の鉄槌を!」

「その…………出来る限りだけ頑張ります。それよりっ! 私たちはいつ帝国に向かうことになるのでしょうか!? できるだけ早い方がいいのですが」


 ちょっとごまかし気味に言ってみたのだけど、領主様には「素晴らしい!」と絶賛されてしまいました。期待しないでください。


「はやるお気持ちはお察ししますが、今しばらくお待ちください。三日後には出立できるかと思われます」


 三日後、ですか。

 もうこんなところから逃げ出して帝国に向かった方が早いんじゃないですか?

 シュザージに問えば、彼も困ったように答えます。


 ──そうしたいのも山々だが、クオスト山脈を歩いて越えるのは難儀だ。迂回するにしても、私が知っているのはクオストがフレンディス領だった頃の話で、帝国の属国となった今では情報が役に立たんかもしれん。


 帝国に入るまでは連れてってもらう方が、結局は早道なんですね。


「わかりました」


 それでは、と宿泊予定の離れに戻ろうとしたら止められました。ぜひ領主の城の方へとお泊まりくださいと。丁重にお断りして改めて帰ろうとしたら、次はこの領地の術士たちに囲まれてしまいました。


「古くに廃れた魔法陣をいかにして復活なされたか!?」

「魔法陣そのものの危険性はないのか!? まやかしではないのか!?」

「魔術はいかん。神術のみで効果の高い魔法陣を我らにもご教授願いたい!」

 

 ベルートラスの術士たちはもっと謙虚でしたよ?

 とてもとてもうるさいので、“迷惑なお客様に対応するベテラン小間使いの態度”であしらって逃げ出せば、今度はこの地の騎士たちに道を塞がれました。


「見事な神術でしたな! 我々騎士も魔物退治屋どもと同じく武器に神の力を宿すのだが、本当に術士の負担が減るなら術を使う騎士に伝授してはもらえまいか?」

「いやいや、あの火の付いた鳥の方がいいだろう。敵に飛ばせれば攻撃手段として最高だ。神術のみでできればなおいい!」


 こちらもベテラン小間使い的にあしらおうとしましたが、がたいのいい騎士に囲まれては抜け出せず。困っていたらシュザージが右手だけ動かして、一番偉そうな騎士の頭にとある魔法陣を描き飛ばしました。ハラハラ落ちる毛。

 頭がさっぱりした騎士を見て、みんなが距離をとってくれたのでその隙間を縫って囲みを抜けました。

 その後は遠巻きに見ていた人たちに絡まれることもなく、宿舎に戻ることができました。

 宿舎の前には馬車が用意されていて、送ってくれたベルートラスの騎士たちが帰り支度をした状態で待っていてくれました。

 お見送りしなければなりませんからね。

 このまま帰りたい気持ちもありますが。


「道中の護衛、ありがとうございます。トルグ様、オーリー先生、ミリネラ様にも私の無事をお伝えください」

「ああ、弟には勇者テレシー殿の大活躍を伝えよう。もちろん、ベルートラス国王陛下と王子にもな」


 活躍などまだ何もしていませんが? それに、なぜ王子様にもなんですか? ホルド様、訳がわかりませんよ?

 まあいいです。

 この後こっそり魔法陣を使って、トルグ様はもちろんオーリー先生にもミリネラ様にも直に報告するので、帰られてから何を言われても大丈夫でしょう。

 

 そうして、騎士の皆さんを見送った後。やっと部屋に戻って、すぐさまベッドに飛び込みゴロンと横になりました。


 ………………疲れました。


「あの騎士、魔物退治屋って言ってましたけどそれって……」


 ──ちょっと待て。


 シュザージが私の両手で魔法陣を描きます。それを扉に飛ばして貼り付けました。遮音の魔法陣ですね。


『これで良い』


 ペンダントから声が聞こえました。


「わざわざ声を出さなくても私となら話せるでしょう?」

『自分の声で話せる方が良い。お前は頭でごちゃごちゃ考えすぎているので、聞き漏らされても困るしな』

「まあ、私も頭の中に別の誰かの声が響いているよりマシですね」


 かなり慣れてはきたのですがね。


「それにしても、ここは気持ち悪いところですね。あそこまで魔術を毛嫌いするなんて」


 ミリネラ様を連れて来なくて本当に良かったと思います。ミリネラ様は魔術士です。こんなところに来てしまったらどうなることかわかりません。


『それだけではない。あの言いよう、魔王討伐を託す勇者を指して言う言葉ではない』

「魔物退治屋って、アロさんたちのことですよね?」


 悪ガキ勇者は平民出身ってことで色々言われているようだと、はじめに聞いたお仲間の言葉でわかってました。勇者として取り立てておいて随分な扱いですね。それで意地になって喧嘩をふっかけてきたのでしょうか。


「勇者って、なんなんでしようね」

『端的に言えば勇気を持つ者だから、魔王に立ち向かう勇気さえあればそれで良いのだろう』

「それで勝てるんですか?」

『無理だ。魔王石というのはとてつもない魔力を持っている。それを取り込んだ人間を殺すのは、ここにいる勇者と騎士と神術士が全部で挑んでも無理だろう』

「シュザージでもですか?」

『無理だ』

「えっ!? じゃあどうするんですか!?」

『どうもせん。勝手に死ぬのを待てば良い』

「へ?」

『魔王石を取り込んだ者の魔力の資質や耐性、諸々の条件にもよるが大抵は三ヶ月ほどで溶けて死ぬ』

「そ、それなら討伐なんかしなくても……」

『その三ヶ月でベルートラスなら半分くらい壊滅するな。この国は神属性ばかりだが対抗するには弱い。魔力の扱いを知らなさすぎて、あっという間に飲まれてしまうだろうな。ベルートラスより被害は大きくなるのではないか?」


 おおう……

 私もミリネラ様のそばで魔術や魔力について習いましたし、なんとなく魔王石についても聞いていましたが思っているよりずっと怖いものなんですね。


『何、気にすることはない。離れている分、ベルートラスに戦火が及ぶ可能性は低い』


 つまり、ベルートラスより北方の他の国はもっと安全なのでしょう。勇者だなんだとかかわるより、様子見してる方が無難です。


『それに我々の目的はタケユキの救出だ。勇者どもが頑張って魔王を引き付けている間に皇都に乗り込みタケユキを探し出す』

「それって……」

『この国、いや神王国の狙いもその辺ではないのかな? 勇者どもが魔王を引き付けている間に本軍が皇都を襲い帝国を滅ぼす、とかな』

「それじゃあ、あの人たちは囮ですか!?」

『人身御供という奴か。まあ、ただの憶測に過ぎぬ。あんな勇者をわざわざ魔王にぶつける意味が他に思いつかん』

「でも、私たちもその人身御供組なんですよ? それに……」


 と、言いかけた時に扉がコンコンとノックされました。



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