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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第三章 勇者誕生
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第五十九話


「なんでこんなのばっかが勇者なんだ!? ふざけるなぁぁ!」


 沈黙を破ったのはやっぱり悪ガキです。

 なんと剣を振り上げて飛び上がって襲いかかって来ました。


 ──動くな


 無理です!


 頭の中でシュザージが無茶なことを言いました。私は思わず目を瞑って両手で頭を庇いました。ガキン、と音が鳴って振り下ろされた剣は私に当たるより少し遠くで弾かれ軌道を逸らしました。

 ゆっくり目を開けるとびっくりして私を見ている悪ガキ勇者がいました。


 ──ほう、ちゃんと直前で止めるつもりだったらしい。威力が弱まっていた。


 何言ってるんですか!? すごい勢いだったじゃないですか!


 ──固定魔法陣の検証ができてよかったではないか。いろいろ仕込んでおいて良かったろ?


「……はう」


 私の着ている服の裏にはたくさんの魔法陣が描かれています。物理防御もそのひとつです。ミリネラ様に買ってもらった真新しい旅装束。袖を通す前に大量の魔法陣を書き込まれてしまった私の気持ちがわかる人がいるでしょうか? 服をめくれば気合の入った図柄がビッシリなんですよ? うう、ミリネラ様の新しい服が。そりゃ着心地が悪いわけじゃないですが。


「あーあ。アロが泣かせたー」


 俯いて服のことを考えていたら、お仲間の弓少女がそう囃し悪ガキ勇者はビクリとして狼狽し始めました。泣いてませんよ?


「えっ!? うえっっ!? ゆっ、勇者のくせに泣くなよーーーっっ」


 女の子を泣かせて動揺するいじめっ子そのものです。泣いて焦るくらいならやらなければいいのに、という奴です。泣いてませんがっ。


「と、とにかく、領主様がお待ちです。談話室へいらしてください」


 案内の人にそう言われ、悪ガキ勇者は剣を納めました。

 初めから面倒な方に会ってしまったものです。


 と、思っていたら。

 悪ガキ勇者も他の勇者の方々も一緒について歩いてきました。そして、みんなで談話室に入ります。そういえば領主様だけでなく勇者様方とも顔合わせをするんでした。他はまともな人だといいのですが。いや、待ってください。悪ガキ勇者はこんなのばっかりって言ってませんでした?

 案内の人が扉を開けてくれて、ホルドさんとモルデンさんと一緒に入室します。他の騎士様は廊下で待つようです。


「おお、よくお越しくださいました。ベルートラスの勇者よ」


 待ち構えていたウェルペンの領主様は、間違えずに私に向かってそう言いました。ただ、目が死んでいるような気がするのはどうしてでしょう。

 私に一礼した後、騎士様方に向かい合います。

 ホルドさんたちがべルートラス王の親書を渡したり、やりとりされている間にお部屋をささっと見渡します。広くて整えられてはいますけど、領主様のお屋敷の談話室としては随分質素ですね。オーリー先生のお屋敷と変わらない位です。


「──にしても、ベルートラスからは高明な術学者とそのお弟子様がいらっしゃると伺っていたのですが?」


 領主様のため息混じりの声にハッとして、声の方に目をやりました。

 もしかして、問題児どもの取りまとめ役の大人を期待していたのでしょうか? 同年代の小娘ですみません。


「いえ、術学者グルトルー先生は勇者として戦うには高齢で、その代わりにと弟子の中でも優秀な彼女が来ることとなったのです」


 ホルド様。うちの国の王様は、その高齢な先生を無理やり派遣しようとされていたんですよね? ついでに言えば、私は臨時の弟子で本職は小間使いです。

 なんだかくたびれている様子の領主様にそれを言うのもかわいそうなので言いませんが。

 後から入ってきた勇者たちは部屋の中で思い思いにすごしています。

 悪ガキ勇者たちは部屋の端寄りにあるテーブルに勝手に腰掛けて雑談してますし、スルディアの方は部屋の隅っこでじっとしています。神官風の方だけは領主の近くに来て、一緒に話を聞いているようですが。

 それらを見渡して、領主は重いため息をつきました。

 ……とても魔王討伐隊の精鋭には見えませんものね。こんなの預けられた領主様はさぞお困りでしょう。


「そうお気を落とされず。こう見えて、彼女は凄腕の複合術士なのです。たった一人で三十人からなる盗賊団を血祭りにあげたのですから!」


 ホルド様のその声で、室内の視線が全て私に向かってきました。

 なんて紹介するんですか、ホルド様!


 ──まあ、このメンツを見ればな。我を宿すお前が一番優れた勇者だと思うだろう。ベルートラスの面目躍如のためにも一戦交えろとか言い出すんじゃないか?


 シュザージがとんでもないことを言いました。嫌です。怖いです。面倒です!


「やっ、やめてください! ホルド様!」

「いやいや、ご謙遜なさらず。ベルートラスの誇る魔法陣の力、見せてやってください」

「ま、魔法陣!?」

「まさか、ベルートラスは失われたはずのあの呪われた術を隠し持っていたのか!?」

「マホージンってなんだ?」

「先ほどは複合術とも言いましたね」

「フクゴー?」

「アロは黙っててっ」


 あああ、なんだか様子がおかしいです。

 どうしたらいいんでしょうっっ


 ちなみに声を発したのは神官服の子、領主様、悪ガキ一味です。


 ──まずいな……おい、テレシー。私に変われ。


 はっ、はい! 

 ホルド様を止めてください!


 私とシュザージの意識が切り替わります。シュザージは鋭い目つきでホルド様を睨みつけました。


「黙れ、三下騎士。魔法陣は我がテルセゼウラの誇る術法だ! ただの複合術すら見下して老学者を疎外してきたくせに、何を抜け抜けと申すか! 恥を知れ‼」


 ……ああ

 めまいがした気がしましたが、私の体はしっかり足を踏みしめたまま偉そうにふんぞってます。シュザージに任せた私がバカでした。


「だからフクゴー術ってなんだよ」

「神術と魔術を合わせた術ですよ。神殿では禁忌とされている邪法です」

「魔術だと!? 魔物を生み出す危険な術を神術と混ぜるなんて正気か!?」


 神官勇者の言いようもアレですが、悪ガキ勇者も悪ガキのくせにずいぶんですね。

 スルディアの方は首を傾げていますが。


 ──神殿の影響が強いのだろう。それに長く帝国と対立している国だからな、魔術そのものを忌避しておるようだ。


 なるほど。

 そういえば、スルディア国はベルートラスと似た感じで、魔属性も神属性も共存してましたね。昔、魔法陣資料を探しに行ったことあります。

 まあ、ベルートラスと同じく仲は良くないみたいでしたが。


「愚かなことだ。複合することで互いの難点を消しあえるのだ。私はいくつもの魔法陣を同時に使うが魔に落ちることも光の塵となることもない」


 ふふんとか笑わないでください。みなさん怒ってますよ。

 もう、どう収集つけたらいいんでしょう。


「ならば、その術をぜひ見せていただきたい」

「そうだ! 俺たちと勝負しろ‼ 魔物の術なんか消しとばしてやらぁ!」


 神官勇者さんはたぶん見たかっただけですよ?

 なぜ勝負にしたがるんでしょう、まさに悪ガキですね。ほら、神官勇者さんが微妙な目であなたを見てます。あれ? ホルド様たちは笑っている?


「狙い通りになって満足か?」


 睨み据えられてもホルドさんは「いえいえ」と手を振るだけです。


「ただ、あの魔法陣の戦いをもう一度きちんと見てみたいとは思っていました。安全な場所から」

「国王陛下も、機会があれば見て来いと」


 モルデン様まで……


「ふん、頭髪を死滅させる魔法陣でも頭に描いてやろうか。命に別状のない安全な術だ、その身で知りたかろう?」


 それはいいですね。


 その場にいる、気になる年頃の男性たちが「ひっ」と悲鳴をあげました。


「よしっ! じゃあ中庭に出ろ! 今度は泣かすだけじゃ済まないからな、覚悟しろよ!」


 まずはこいつの頭に描いてやってはどうですか?


 ──それで懲りるように見えるか?


 わかりません。



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