第五十八話
旅はそのまま順調に進みました。
私たちは今日のうちに目的の街、ウェルペンに着くようです。
それにしても。
魔王と戦うのにどうして各国の代表をちょっとづつ呼び寄せるなんておかしなことをしているのでしょう。魔王って数人で挑んでどうにかなるような相手なのですか? シュザージみたいなすごい術が使えたり、剣技がすごかったりしてたとして。
──そんなわけないだろう。軍は別に用意しているのではないか? ただ、魔王討伐に神王国やフレンディスのような神属性勢力の強い国以外からも、支援を引き出すための布石にでもするつもりじゃないか?
また何か難しい裏話でもあるんですか?
──まあ、奴らが何を考えていようと。我々はタケユキ救出のために利用できればそれでいい。
はい。
などと、ほとんどひとりで話をしていたのでそれほど退屈することもなく、私たちはウェルペンの街に到着できました。
ウェルペンの街はベルートラスの王都に比べれば少し古めかしい感じがしました。木造の建物が多いのは似ているのですが。
──ウェルペンも元々は小さいが一つの国だったのだ。百年前の知識にはなるが、それより昔、南方に魔力を主とした帝国が発足しどんどん力を増すことに留意した神王国が、その地にあった小国をまとめ上げて一つの大国にしたのだ。メイリンクやルニエルは神の意向より金の意向に従う商人中心の国だからフレンディスに組み込まれることを拒否したらしい。
ほほう。そうなのですか。
──興味なさそうだな。
すみません。
──要するに、大国の一部となってはいるが、元々の国の文化や風習、建築様式などは壊されず続いているということだ。歴史を感じて当然だ。まあ、神殿勢力は蔓延ったようだがな。
街の一等地に領主の城ではなく神殿があるのでそうなんでしょう。
馬車は今、その神殿の隣にある領主の城へ向かっています。
「やっと到着ですね!」
領主の城の門前で、宿泊するのは離れだと聞き案内人をつけられました。そうしてやって来たちょっと古びたお屋敷の前。横付けされた馬車から降りて私は「んーっ」と伸びをしました。
「お疲れ様です」
女性騎士に笑われながら労われました。ちょっと恥ずかしいですね。
馬車から荷物を下ろし、案内人に泊まる部屋に案内されることになりました。
荷物と言っても私の持ち物はそれほど多くはありません。
一人で背負える着替えなどが入ったリュックがひとつ。腰のベルトの右側に予備の神石が入ったポーチが、左側に魔石が入ったポーチが。後ろに薬などが入った大きめのポーチと、スカートと上着のポケットにお金を小分けにして入れた財布があるだけですね。
実は、主に使う石は両手の手袋についているのです。
トルグ様の案で、騎士がつけている手甲のように術用の石を取り付けた手袋がないかと探してくださった所。自由兵士の術士が似たようなものを使っていたらしく、兵士御用達の店へ行けば女性術士用の魔石神石付きの革手袋があったのです。
出発前に、シュザージが大急ぎで手袋の石に魔石神石の力を移して、今私の手にあります。かっこいい上にちょっと可愛いのでかなりお気に入りです。手のひらが自由になるのも嬉しいです。転んだ時とか怖いですから。これならうっかり落とすこともないですしね。
ついでに言えば、シュザージが声を出して話すための魔法陣入りペンダントも下げていますが、これを使うのはよほど相手を見極めてからです。
ホルド様たちにも私の中にシュザージがいることは伏せるようお願いしています。相手を見極める役目は基本的にシュザージ自身がするそうですが。
などと考えているうちにお部屋に着きました。二階の角部屋であまり日当たりはよくないですが、一人部屋なのがいいですね。
──やっと、通信魔法陣が使えるな。
まだですよ。
すぐに領主様や先に来ている勇者様方にご挨拶に行かなきゃいけないそうです。ベルートラスが最後らしいですし、これ以上遅くなるのは良くないのでは?
シュザージがため息をつきます。
私もオーリー先生やミリネラ様が気になりますから早く通信魔法陣を使ってほしいのですが、夜までお預けですね。挨拶から戻ってみんなが寝静まってからです。
それに、騎士様方は領主様に挨拶して、フレンディス王に届けてもらうベルートラス王の親書を渡すと、乗って来た馬車を連れてすぐに国に帰ってしまわれるのですから。
ちょっと仲良くなれた騎士様方とお別れするのは寂しいですが、仕方ないです。
お部屋にはリュックだけ置いて私は宿泊するお屋敷を出て、また案内の方と一緒に徒歩でお城に向かいました。先頭に案内人、その後ろをホルドさんとモルデンさん。その後を私がついて歩きさらにその後ろに残りの騎士様が続きます。歩くこと数十分。
到着したのはお城の広い中庭でした。
「少々お待ちください。領主様に到着を報告してきますので」
案内人の人が、城の入口に立つ兵士に何かを告げると兵士は小走りに中へ入って行きました。少々ってどのくらいでしょうね。ここで焦っても仕方がないので、きれいに整えられた庭をぼんやり見ていたらシュザージの声が頭に響きます。
──テレシー。不審者がいるようだ。気をつけておけ。
へ?
と、思った瞬間。
庭の灌木の陰から飛び出してきた男がホルドさんに向かって剣を振り上げ襲いかかって来ました。咄嗟の攻撃にも怯まず、ホルドさんも剣を抜き振り下ろされた襲撃者の剣を弾き返しました。
「何奴っ!?」
飛び退った男は、ニヤリと笑って剣を構え直しました。
「なかなかやるな、ベルートラスの勇者。遅れて来るくらいだ、適当な者を遣して茶を濁すかと思ってたぞ。スルディアの貧弱勇者のようにな」
わあ、たぶん勇者の誰かでしょうが失礼極まりないですね。それに、私が何もしなくても勘違いされていますよ?
──騎士に囲まれていては、ただでさえ小間使いにしか見えない者を勇者とは認識できまい。それにしても、スルディア国ははじめのベルートラスの如く、贄でも送ってよこしたか。
という感じで、頭の中でポヤポヤ話している間にも失礼勇者はまたホルドさんにかかって行き剣での打ち合いを始めます。何がしたいんでしょうか。
「その辺にしなさいアロ。まだ挨拶もしていないのに」
「そうだぞ、また平民出身はこれだからって叱られるぜ」
「ベルートラスの勇者様は騎士か。貴族や王族ばっかでつまんないな」
なんでしょう。近所の悪ガキですか?
ツンツンした弓を持った少女と、剣を持った少年と、神石のついた杖を持った少年が、笑いながら同じく灌木の影から出てきました。隠れるのがうまいですね。私はまったく気がつきませんでした。
よくよく見たら、失礼勇者も同じくらいの年頃でしょうか? みなさん十代後半のようです。私も十七歳ですが、これはちょっといただけませんね。
「おっ、おやめ下さい勇者アロ様! お仲間の皆様も止めてください!」
案内人の人があわあわしてます。お城から兵士の方々も出てきました。その後ろからまた、似た年頃の少年が二人。ひとりは神官のような服を着てさっきのかくれんぼ少年とは比べ物にならないくらい立派な神石の杖を持っています。もうひとりは、情けなく眉尻を下げておどおどと様子を見ていますが、腰には立派な長剣を持ち簡易ですが品の良い鎧を身につけています。
なんとなく、後のひとりがスルディア出身の方のような気がします。
「心配するなよおっさん。勇者の力量を試してやっただけだ。先輩勇者としてな」
ははんと、失礼勇者は悪ガキのように笑います。いえ、もうただの悪ガキです。
「あー……何を勘違いされているかはわかるが、私は勇者ではない。勇者殿を送り届けに来たベルートラスの使いだ」
「何っ!?」
わー、悪ガキ勇者サマ恥ずかしいですねー。
悪ガキ勇者はサッとモルデンさんを見ました。モルデンさんも首を振ります。他の騎士も首を振ります。そして、私に向かって手を差し出したホルドさんが紹介くださいました。
「ベルートラス王国の勇者テレシー殿です」
その場が沈黙したのは、しょうがないですよね。




