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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第三章 勇者誕生
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第五十七話

 揺れの少ない馬車に乗り込み、私の旅は始まりました。


 オーリー先生のお家を出る時は涙の旅立ちとなりましたが、お城を出た後は恥ずかしさで泣きたくなりました。

 白馬に乗った王子様に先導された馬車は、お城から王都の城門までたくさんの人々に見送られることになったのです。

 街の道々に騎士と兵士たちが立ち並び「勇者テレシー出陣! 魔王を退治し無事の帰還をお祈り申し上げます!」と声をそろえて叫ばれました。事前に何も知らされてなかった街の人々も、なんだなんだと集まって「へえ、勇者様だって」とか「馬車じゃ顔が見えねえぞ」とか「テレシーって術学者さんとこのテレシーちゃんとおんなじ名前なんだねえ、へええ」とか口々に言っています。

 これは、本当に恥ずかしいです。


 ──顔を上げろ。こんなことで恥ずかしがってどうする。


 こんなに大げさにされたら恥ずかしいに決まっているでしょ!? どうしてこんな派手なことになっているんですか!?


 ──もっと大々的にやってほしかったが、時間がなかったので仕方がない。


 シュザージが言うには国を上げての見送りには意味があるそうです。捨て駒にされないためにも国の代表であることを内外に示す必要があるとか、今後の支援を受けやすくなるとか、身内であるオーリー先生たちの身の安全を図れるとか。なんか色々あるらしいです。

 先生方の安全は何より大事ですが。

 滅びの都へ行く時、護衛してくれた自由兵士の皆さんまで来ていて手を振って応援されたのにはいたたまれない気持ちになりました。

 帰って来た時、なんて言われるんでしようか。

 ため息が出てしまいます。

 

 ……帰って来た時


 タケユキさんは、一緒に帰って来てくれるでしょうか?


 ──どういう意味だ?


 もし、攫われた先で幸せになっていた場合。どうなるのでしょう。タケユキさんを連れて行ったのが帝国のお姫様なら、よほどタケユキさんを気に入って連れて行ったんだと思います。今頃、お城で幸せに暮らしているかもしれません。


 ──それはありえん。あの帝国だぞ? 攫われた者は十中八九奴隷だ。姫君の奴隷として寝所にはべらされる事はあっても幸せになどなれるはずがない。飽きられたら終わりだ。臣下に払い下げられた挙句、女にも男にも慰み者にされ……


 や・め・て・く・だ・さ・い!

 あなたは帝国に偏見を持ちすぎじゃないですか? 

 いくら自分が帝国の老女に婿入りさせられそうになったからって。


 ──私もそうなっていたかも知れんだろ。ああ、恐ろしい! 帝国め!

 

 もうそれはいいです。

 それより、本当にタケユキさんに好きな人ができていた場合、あなたはどうするのですか?


 ──どうとは? タケユキは私と運命で繋がっている。そのようなことはありえん。


 私とは、繋がってないかもですよ?


 ──繋がっておるわ。魂に結ばれし運命の糸を手繰り寄せたのだぞ。我が渾身の魔法陣に失敗はない。


 国が滅んだじゃないですか。


 ──ぐっっ。いや、あれは発動させるための力が足りず強制徴収してしまっただけだ。魔法陣に込められた術そのものは発動しているはずだ。なぜならタケユキは私の好みに的中しておったからな!


 何を焦っているのですか? 

 もしものことも、少しは考えておいてくださいよ?


 ──おまえは考えているのか?


「………………考えたくはないですが」


 一言だけ、ポツリとこぼして窓の外を見ます。

 いつの間にか王都を出て、馬車は街道を早足で進んでいます。

 

 まずはタケユキさんの無事な姿を見てからですね。


 少しだけ頭を振って、私は間近にあることに意識を向けました。

 二頭立ての馬車は足が早く、御者も交代要員がいて二人御者台にいるのでとても早く進んでいます。護衛についていてくださる騎士様も、皆が騎乗しているので私たちの移動は滅びの都に向かった旅に比べてかなり早くなるでしょう。

 馬車の中は私一人ですが、外には六人の騎士様がいらっしゃいます。

 神属騎士団から、今回もトルグ様のお兄様であるホルド様が来てくださいました。少し胃のあたりを押さえながら同行を承諾してくださったそうです。それともう一人、トルグ様の顔見知りの騎士様と女性の騎士様の三人です。

 魔属騎士団からも三人。こちらも前回から引き続き、モルデン様が来てくれました。国王に命令された時、少し歯を食いしばっておられましたが。

 ホルド様とモルデン様はいつの間にか距離が縮まって仲良くなっているように見えます。共通の話題でもあるのか、よくお話しされていますね。ちなみに、魔属騎士にも女性騎士がいらっしゃっています。

 私が女の子ですから配慮するようにと、オーリー先生がお願いしてくれたのです。


 こうして、私たちの馬車はその日のうちに西隣にある国、ルニエル国に入りました。距離だけでも滅びの都よりずっと近いですし、二頭立ての高級馬車で整備された道を走って来たのですからそれは早くて当然です。

 今夜はそのルニエル国で一泊し、次の日には国の端まで行って、翌日はその隣のメイリンク商国を抜けます。どちらもベルートラスの半分もない国なのでさほど時間はかかりません。その先のフレンディス国の方が道が悪く待ち合わせの街まで少しかかるかもしれない、とのことです。


 ──テレシー。お前はこの旅の間は、主従で言えば主にあたるのだ。女騎士の世話を焼くな。戸惑っているだろう。


 宿では、女性騎士のお二人が同室になりました。私は宿についてすぐ荷解きを手伝い、三つ並んだベッドの選択を尋ね、食事の予定時間を聞き、備え付けられているお風呂の準備をしようとしました。

 ミリネラ様と旅をする時は、こういう上等な宿に泊まることもあったので気後れすることもなく、いつものようにしようとしただけですが。

 シュザージに窘められた時はムッとしてしまいましたが、女性騎士にもものすごく困った顔で遠慮されてしまいました。

 世話をされる側って、あんまりなかったのでついいつもの調子で行動してしまいました。すみません。


 ──其方、絶対に男騎士の世話は焼くなよ?


 絶対って。なぜですか?


 ──間違いなく勘違いされる。


 勇者じゃないな、って事ならその通りなので勘違いではないでしょ?


 ──愚か者。こいつは自分に惚れてるな、と勘違いされるのだ。元の街に居た時もテルセゼウラの道中でもそんな感じのことがあったろ。


 ありました?

 タケユキさんはまったくそんな感じにならなかったですよ?


 ──タケユキは妹に重ねていたからな。妹が世話好きだったのではないか?


 はうぅ。

 私の旅は恋を取り戻す旅ではなく、お兄ちゃんを連れ戻したい妹の旅に思われてしまうのでしょうか?

 それはかなり切ないです。



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