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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第三章 勇者誕生
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第五十話


 すっかりくたびれきって、城から出てきた私たちを見た留守番の方々は青くなって出迎えてくれました。


「ど、どうしたのだ、そんなに疲労して!」

「やはり城の中は呪いの術で溢れていたのか!?」


 違います。

 元凶は悲しいかな、私の中にいるんです。


「お? トルグ、その手に持っているものはなんだ!? 宝か!」


 お兄様の声に、ハッとしたトルグ様は満面の笑みでその宝を掲げました。


「そうです、兄上! これは水を浄化する術道具で、なんと術士でなくても使える物なのです! このように小さいながらも魔法陣を通すことで汚れた水も飲み水にできる優れものです! まだ改良しなくてはならないようですが、これが使えれば旅の水問題も辺境の開拓にも役に立つでしょう!」


 捲し立てたトルグ様に、騎士も兵士も頬を引きつらせました。


「こちらは暖を取るためのもののようですわ。火も使わず、一定の温度で熱を発するようですよ。温度管理に難があるようですが、なんとか調整して寒い冬に布団に入れて眠りたいですわね」


 にっこりと、自分の持ってきた術道具を見せるミリネラ様。私もそれは欲しいです。

 そして、次は自分の番だとオーリー先生が持ってきた術道具を出したところで「待て!」と声がかかりました。


「なんだそれは!? これだけの城に、他に何もなかったのか!? 財宝とか、武器とか、術士ならばせめて上等な神石か魔石の一つでも持って来るのが当たり前ではないのか!? なんでそんなガラクタばかり持ってきたのだ‼ それでは王に献上できん!」


 お兄様騎士がおっしゃる通りです。

 石は私がこっそり持ってますが、持ち主が持っているようなものですから献上などできません。あと、先生たちが持ってきたのは本当にガラクタだったので献上なんてできっこないです。


「兄上、私たちは財宝を求めてこの地に来たわけではないのですよ? 古き魔法陣を研究し、今後に役立てるためです。ちゃんと魔法陣の資料も持って来ました」


 キリッとそう言ったトルグ様にお兄様は頭を抱えました。


「そんなものが魔王討伐に役に立つのか? 私は王に報告しなければならないのに何もないでは困るぞ」


 魔王討伐。忘れてました。

 シュザージの知識と術道具を持ち出して、帝国にタケユキさんを助けに行く事しか頭にありませんでした。


 ──仕方ない。私の私物でよければ貴金属をやろう。


 頭の中でシュザージがため息をつきます。私もため息をつきます。

 騎士たちにもう一度探してくると言って、私たちは城に戻ります。今度は王族の住居区画に向かいました。


 王族の居住区ともなれば、さすがに通路も美しく飾られています。花は枯れていますが立派な花瓶が並び、壁には王族の肖像画でしょうか、いくつもの絵が飾られています。


「あら? もしかしてこの中に賢者様の絵もあるのかしら?」


 ミリネラ様がそう聞けば、私の視線がクッと一枚の絵に向かいます。


『それだ』

「…………え?」


 そこに飾られていた絵は、一人の青年の全身像でした。金髪に赤みの強い切れ長の目。金縁に豪奢な刺繍の入った赤いローブを身に纏い手には分厚い本を持っています。佇まいからしてとても美しく賢そうな雰囲気の王子様がそこにはいらっしゃいました。


「あら、賢者様は美青年なのね」

「髪色はちょっとテレシーに似てないか? いや、テレシーはもう少しオレンジ味があるか」

「ほほう。ベルートラスの王子より賢そうで王子然としておりますな」


 褒めすぎではないですか?

 トルグ様、私と比べないでください。


『これは二十三、いや二十四の歳に描いたものか。面倒だからほとんど絵師に勝手に描かせたやつだな』


 なるほど。割り増し絵というわけですね。


「賢者様は今はおいくつ……いや、申し訳ない」

『気にするな老学者。死んだのは二十六の時だったな』

「なんとっ、私より年下ですか!?」

「私はもっと年下だと思っていたわ」


 トルグ様もミリネラ様もめいめい驚いていらっしゃいます。

 私は同じくらいかと思ってました。まさかタケユキさんより年上だったなんて。あんな暴走した人が……


 ──やかましい。


「良いものを見せていただいた」


 オーリー先生が礼を言って、その場はとりあえず収まりました。そしてシュザージに促されるまま彼の部屋に入り、衣装室や戸棚にしまわれていた指輪や首飾りなど装飾品をいくつかいただきました。


『魔力も神力もないただの宝石など興味ない。式典用などいろいろあるから適当に持ってけ』

「申し訳ございません、賢者殿」


 トルグ様が恐縮しまくってます。

 ちなみに、ミリネラ様も同じ理由で宝石には興味がないそうです。お嬢様育ちですが、確かに昔からそういった物には興味を持っておられませんでしたね。

 まあ、持ち主がいらないと言ってますし、これで騎士様方やベルートラスの王様の機嫌が良くなるならいいでしょう。それを見て、今後ここに押し入ろうとしてもできなくなるわけですし。

 後は知らぬ存ぜぬでタケユキさん救出に行くのです。


 それらの不要な宝物を持ち帰れば、騎士様も兵士たちも目を輝かせていました。もっとあるのではと言い出しましたが、魔法陣の呪いの件などを持ち出してこれ以上は勘弁してもらいました。

 騎士のお二人も兵士の方々も、何を考えてか帰りの道では顔がニヨニヨしていました。

 シュザージが盗賊を警戒して結界の強化をはかった理由が分かります。なんだかゲンナリしちゃいます。


 そんな感じで私たちは、とりあえずベルートラスへの帰路に立ちました。



 その帰り道で、私たちは襲撃を受けます。



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