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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第三章 勇者誕生
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第四十九話


 お城の中はとても静かでした。

 あちこちに転がる白骨を見ても、あまり怖いと思いません。


 ただ、ひどく胸が締め付けられるだけです。


 そして、ポツリポツリと言葉が頭に響きます。


 ──こうるさかった大臣、女の尻ばかり追いかけていた騎士、仕事熱心な侍女……ああ、それが高じて婚期を逃して開き直ってたっけな。


 見知っている方々なのでしょうか。

 骨になってしまった方々の中から、覚えのある衣装を見てはそんなことを呟いています。通路を歩きながら、私はあえて亡くなった方々一人ひとりに目をやりました。別にこの人を責めているわけではありません。本人が、そうしたいような気がしたからです。

 廊下を歩き、真っ直ぐに進めばとても広い部屋に着きました。開いていた扉から中に入れば、正面の舞台のようになった段の上に豪華な椅子があり、王冠をつけた白骨がありました。


 ──息子を生贄にしようとした報いだ。ばか親父め。


 その声は震えています。震えながら悪態をついています。なので、私はこの人が……シュザージ王子が嫌がりそうなことをしてやろうと思いました。

 正面を見据えたまま歩き、玉座の前でひざまづきます。そして、ポケットから魔法陣を出して父王に向かって掲げました。

 

 ほら、ちゃんと言うべきことを言いなさい。言いたくて仕方ないのはわかっているのですからね。


 そう、心で伝えてやればなんだか悔しそうな気配がしました。観念なさい。せっかく来たんですよ。なんとなく舌打ちされた気がしましたが、気にしないであげましょう。ほらっ


『父上……私の短慮で国を滅ぼしてしまい、申し訳ございません』


 父王は何も言いません。静かに玉座に座っているだけです。贖罪のしようがないことをやってしまったバカ王子。

 生まれ変わって私になってしまいましたが、せめてこれ以上悪さしないよう見張り、世のため人のためにその力を使えるように私が導きますから許してやってください。


 ──何を偉そうに、愚か者め。……愚か者め。

 

 私が思ったことと、こいつが──シュザージが思っとことが一致したかはわかりません。けれど、少しだけ元の調子が取り戻せたようです。よかったのかどうかはわかりません。私的には良くないのかな? 大人しくしおらしくなってくれた方が良かったかしら?


『やかましい。さっさと目的の場所へ行くぞ──テレシー』


 立つように促され、目的の場所が頭の中に示されたのでそちらに向かって歩き出しました。オーリー先生たちは静かに後をついて来てくれます。


 玉座の間を出て、少し進めば広い庭園に出ました。その真ん中に塔が立っています。


『私の研究室兼倉庫だ』


 塔の入り口は朽ちていて開きっぱなしでした。

 入ってみれば、正面に一つ扉があり、横から螺旋状に上に伸びる階段がありました。上の階にも部屋があるそうです。

 まずは一階の部屋。その扉はしっかり施錠されています。扉に手をかざすと、指先が勝手に動いて簡単な魔法陣を描きます。魔法陣の鍵が施されていたようです。


「おおっ」

「これは全部術道具か」

「見たことないものばかりだわ」


 その部屋に入った途端、術士お三方の目が輝きました。部屋の中は所狭しと術道具や何かの箱が置いてあります。私には今ひとつわからないものばかりですが。


『ここにある物はほとんど試作品だ。使える物はみな城のあちこちで使っている』


 シュザージがそう言えば、みなさんちょっとがっかりしました。


『その箱に上質の魔石と神石が入っている。それを持って上の研究室へ行く』


 二つ並んだ黒い箱と白い箱。

 私が持ち上げようとしたら、白い箱はトルグ様が持ってくださいました。なかなか重いので助かります。ミリネラ様も手伝おうとしてくれましたが、主人の手を煩わせるわけにはいかないしひとつくらいは持てるのでお断りしました。

 が、上の階でまた扉を開けるための魔法陣を描かなくてはいけなくなり、結局持ってもらうことになってしまいました。申し訳ございません。


 研究室は思った以上にきれいに整っていました。さっきの物置もそうでしたが、意外にきちんとしているのですね。なんとなく自分に通じるものがあってなんだか嫌です。


『不服を考えるな、いちいち返しておれんわ。それより、神石と魔石をそこの机に置け。力を統合して小さくして持っていく』

「はっ!? 統合じゃと!?」

『もしやそんな技術も残っていないのか? 私は魔法陣を使うが、神王国あたりでは別の方法で似たような技術があったと聞いたが?』

「私どもは知りません。そのような技術があったとは……」


 お三方とも感心しておられます。私もすごいと思いました。

 シュザージに指示されて、テーブルの上にきれいに磨かれた銀の板を敷きます。その中心に一番小さくて手に握り込める魔石を置きその周りに他の魔石を並べます。


『魔属性魔法陣、魔力集約、魔力圧縮。神属性魔法陣、魔力封じ結界』


 指先が動き、いつもより大きな魔法陣を描きます。銀の板の周りに白く光る半透明の囲いができ、魔石からモヤッとした黒いものが出てきて中心の魔石に吸い込まれました。

 皆さんも私も、息を飲んでそれを見ています。


『神属性魔法陣、伸縮強化』


 締めに追加の魔法陣を描けば、銀の板の上に残ったのは少し紫がかった黒い魔石だけになりました。とても綺麗です。


「これは……この魔法陣を使えば魔王石も作れるのでは?」


 オーリー先生が震える声で問えばシュザージは『無理だな』と答えます。


『魔王石にするには力を寄せる石の容量や耐性がなさすぎる。せいぜいこの手のひらに握り込める大きさの低位魔石を、大きさを変えず上位魔石にするぐらいだ。これでもかなり持ちが良くなるし使い勝手も良くなるのだぞ』

「それはそれですごいですな」

『理屈では魔王石も作れるが、魔王石並の魔力を溜め込み形を崩さず維持し、魔術を施せる柔軟性を出したり無駄な魔力を溢れさせないようにするにはそれ相当の器が必要だ。そんな器になるような原石は万に一つ、いや億に一つもないくらい珍しいものなのだ』

「なるほど、ならば神王石もそのようなものですかな?」

『そうだ。ただ、神石に関しては神王国が秘匿していることが多々あるので一概には──』

「あの、お二方その辺で。とても興味深いのですが外で兄たちを待たせていますし……」


 申し訳なさそうにトルグさんが術談義を止めてくださいました。よかったです。つい私も聞き入ってしまっていました。ミリネラ様もそうみたいで口元に手を当て恥ずかしそうにしてます。


 その後、神石も同じように力をまとめて一つの石に納めました。先ほどの魔法陣の魔と神を入れ替えて唱えたものでした。

 出来上がった神石もうっすら紫色をしていて綺麗です。

 その二つの魔石は私が隠し持つことになりました。

 シュザージが魔法陣を使うために必要なので当然と言えば当然ですが、よく考えたらこれはものすごく高価なものなんじゃないでしょうか? 無くさないように用心しなければ。どきどき。

 その他に先ほどの銀の板を数枚と、何か小さな術道具。かつてシュザージが魔法陣研究を書き記した書類などをまとめて部屋にあった鞄に入れました。ただ、人目に触れさせたくないものに関してはシュザージが自分で、というか私の目を通して記憶し直し置いていくそうです。私の頭には今ひとつ入ってないのですが、大丈夫でしょうか。


『何も持ち出さないのも不自然だしな。ガラクタをいくつか持っていくか?』


 シュザージがそう言えば、お三方はまた目を輝かせて下の階に降り物置を物色していました。それぞれに気になっていた物を手にすれば、シュザージは『ここまで付き合わせた礼だ』と言って皆さんに差し上げました。

 ……ガラクタって言ってましたよね?

 皆さんがいいならいいのですが。


『ここはこれで良い。都の結界強化に城の術部屋へ寄っていく』

「あの、この上の部屋にはいかなくていいのですか?」


 ミリネラ様がそう言えば、シュザージの心がまたギュッとなるのを感じました。


『この上には、召喚の魔法陣と私の死体しかない』

「そ、それなら尚更、弔いを……」

『そんなものは最後の最後で良い』


 タケユキさんを助け出して、父王様方を弔って、それからで良いのだと声にならない心が伝わってきました。弔いを申し出てくれたトルグ様に、私はうなずいて答えます。

 

 塔を出て、城の奥へ向かいます。

 通路には窓もなく、出入口には騎士が数人倒れていました。よほど重要な場所のようです。


『ここで都を守る全魔法陣を管理しているのだ。厳重で当たり前だ』


 なるほど。

 行き着いた先にあった重厚な扉も魔法陣を使って開けるみたいです。


「この国では皆が魔法陣を使えたのですかな?」

『だいたいは使えたな。私ほど多く使いこなす者はいないが』


 なるほど。今、自慢しましたね。

 まあ、確かにすごいですけど。

 とりあえず、私たちは開いた扉をくぐります。


「わあっ……」


 その部屋に入れば、斜めに背を合わせた机がずらりと並び、さっき見たような銀の板がたくさん並んでいました。それぞれに魔法陣が描かれています。よく見たら天井にも大きな魔法陣があり、シュザージが銀の板の魔法陣に触れると天井の魔法陣がチカチカと光りました。

 

『……召喚魔法陣を使ったとき、これらを通してあちこちから足りない魔力、神力、生命力を引き出してしまったようだな。いくつか地中魔力を集める機能が過剰暴走した後がある』

「地中魔力とは?」

『地面の下にある微量な魔力の流れを知らんのか? 地面に魔法陣を描いた銀盤を埋め、地下を流れる魔力を取り込むことで半永久的に起動させ続けるのだ。これによる結界があることで、この都は無粋な城壁で囲って守る必要がなかったのだな……』


 ちょっとよくわかりません。

 先生たちもよくわからないようで、後日教えてもらうことになりました。

 とりあえず、ここから遠隔操作であちこちに埋まっている魔法陣を操れるそうです。


『うむ、これで私が都を出るとともに強力な結界が貼られ、私が戻るまで誰一人都に入ることはできなくなる』


 ふふん、と嬉しそうに言うシュザージ。


『この都、いやテルセゼウラ王国はいずれ私の手で再建するのだ。妻であるタケユキを取り戻した後に、新王として立つ!』


 何を言っているのですか?

 その手とは私の手ではないのですか?

 私はただの小間使いですよ?

 そもそもタケユキさんは男性です。跡継ぎとかどうするんですか?


『お前が産めばよかろう』


 唐突に魔法陣からそんな声が出て、みなさんピャッと驚いています。


「なっ、何を言ってるんですかーー!?」

『私がタケユキを孕ませたいところだが、今の私の体は女なので自分で産む方がよかろう』

「言ってる意味がわかりません‼ その“私”は私のことでしょう!? 」

『タケユキの子を産むのは嫌か?』

「えっ、それは、その、あの……うぁぁぁぁぁぁぁ~っっっ」

『お前が新生テルセゼウラ王国の女王として立てば良い。タケユキを伴侶としてな』

「私は小間使いなんですってばぁぁぁ!!!」

『ならば小間使い兼女王というのはどうだ?』

「それは…………困るわ」


 頬を赤らめそう言ったミリネラ様のちょっと怖い笑顔で、そのやりとりは一応収まりました。本当に、とんでもないことを言い出しますね、この白骨バカ王子は!



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