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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
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第四十六話


 翌日は昨日より元気になっていた。


 怪我やなんかは超能力で少しは癒せるけど、力の使いすぎによる疲労や病気なんかは、やっぱり眠るほか治しようがないな。薬はちゃんと効くから、それはいただいてぐっすり眠ったよ。


 今日は皇帝さんが来ると言うので起き上がろうとしたけど、リドルカさんがベッドから出してくれなかった。皇帝さんがいいならいいけど。いいんだろうな、あの皇帝さんなら。


 午後になり、リドルカさん家の侍従長さんが先触れを告げにきた。やっぱりベッドにいていいとのことでそのまま待つと、皇帝さんがパレアーナさんとアスノンさんを連れてやって来た。


「少しは顔色が良くなっておるな」

「ありがとうございます。いろいろお世話になってしまって、すみません」

「礼を言わねばならんのはこちらだ」


 そう言うと、近づいてきた皇帝さんが俺の手をとった。


「其方は命懸けで我が国の民と弟を守ってくれた。ありがとう」

「えっ、それは、そのっ」


 そんなに感謝されても困る。

 リドルカさんは全力で助けたいと思ってたけど、民のみなさんはついでのようなものだったし。そんなこと正直に言うと昨日のリドルカさんみたいに泣かせちゃうかもしれないから言わないけど。


「ふふ。トマシウスお兄様、タケユキが困ってるわ」

「お? おお、これは済まぬな」


 笑顔を浮かべて手を離してくれた皇帝さんは、用意されていた椅子に座りその隣にパレアーナさん、後ろにアスノンさんが控えた。リドルカさんはベッドの横に立っている。


「さて、話というのは外でもない。其方の今後について相談したくてな」

「今後……ですか?」


 今後といえばベルートラスへ帰してもらう件だろうな。やっぱり帰せないと言われるかさっさと帰れと言われるか。

 俺も話したいことがあるけど、まずは皇帝さんの話を聞こう。


「其方は今、内外で再降臨した神族ではないかと噂されておるのだ」

「……へ?」


 俺が変な声を上げて驚いていると、アスノンさんがペコリと頭を下げた。


「私がタケユキ殿を最上位の神術士と民に伝えたせいではないかと思う。まだ間者がいるかもしれないことは重々警戒していたが、助けられた民たちから噂が広がりおそらく、警戒網から逃れた間者に伝わってしまいこのようなことに……」

「い、いえ、あれはごねる街の人を黙らせるために仕方なかったし、最上位の神術士という言葉から一足飛びに神まで飛躍する方がおかしいですよ」

「いや、其方がどのようにして民を助けたかを聞けば、まさに神の所行としか言えんだろうて」


 問答無用で離宮にぽいぽい放り込んだだけですが?


「それに噂が広がっているって、早くないですか?」


 随分寝込んでいたけどあれからまだ十日そこそこだ。内外にって言ってたけど、他国にも広がってるってことだろ? スパイが入り込んでいて本国に情報を伝えるとしてもそんなに早く噂を広められるだろうか。この世界の通信手段ってなんだろう。電話みたいなのがあるのかな。

 俺が訝しんでいたら、皇帝さんが忌々しそうに「ふんっ」と鼻を鳴らした。


「奴らは初めから噂を流す準備をしていたのだろう。帝国の魔王が恐ろしい魔物を用いて民の虐殺を行ったと。そこに、それを止めるべく神が降臨したが魔王によって捕らえられてしまったと付け足して広めただけだ」

「……なんですか、それ」

「新皇帝に対して反旗を翻し皇都に向けて進軍したローレンド領を、魔王討伐を志した神聖軍だと評していてな。お笑い草だ。奴らは我が子までも魔物と変え戦力として世界を牛耳ろうとしていた先帝の忠臣だぞ? いや、今や忠臣でもないか。ローレンド領主が狙っていたのは自らが先帝になり変わり、帝国を真に非道のまかり通る魔の国に戻すことだった」


 怒りをにじませ苦々しく言う皇帝。パレアーナさんもアスノンさんも、リドルカさんもうなずいている。

 さらに聞けば、ローレンド領主は先帝の妹の一人を妻に迎えており、その息子は正当な皇家の血を引いているとのこと。


「あの、皆さんは先帝の血を直に継いでおられるんですよね?」

「まあ、あまり嬉しくはないがそうだな」

「トマシウスお兄様は先帝と正妃の子よ。後は側妃や寵姫の子、母親はバラバラだけど父親は一緒よ」


 ため息まじりの皇帝さんに続きパレアーナさんが教えてくれた。

 そうなんですか。

 五人兄弟みんなお母さんが違うのか。八人の弟さんたちはどうなんだろう。

 まあ、それは置いといて。

 息子を帝位につけ摂政として権力を握ろうと企んでいたローレンド領の領主は、リドルカさんの外遊中にことを起こしたかったが準備に手間取っているうちにリドルカさんが予定より早く帰着。焦って未完成の魔物部隊を動かそうとして全滅したそうだ。


「魔物部隊? 全滅?」


 部隊じゃなくてでっかい一匹だったよ? 

 そういえば軍隊が向かってきている話だったけど、あの時はそれらしいものは見なかった。いたのは化物一匹…………まさか


「軍隊もあの化け物に取り込まれていたのですか?」


 問えば、アスノンさんがうなづいた。


「叛意のうかがえる領地には、もとよりこちらからも密偵を放っております。敵軍に潜入し、情報を探っていてくれた部下のほとんどがアレに飲まれて息絶えたと聞きました……」


 アスノンさんは悔しそうにそう言った。


 アスノンさんは本来は隠密兵団の長で、帝国の暗部を取り仕切っているらしい。パレアーナさんの下にいるだけあって、先帝の時代よりは血生臭さは少ないそうだけど。

 その配下、ローレンド領に潜入していた隠密兵のほとんどが還らぬものになってしまったが、一部命からがら生き残った者が情報を持ち帰ってくれた。

 それによると、ローレンド軍は魔物を従えた神術士を伴い領都を出立したものの、道中で魔物が暴れ出して共食いを始め取り押さえようとした術士も兵士も飲み込んで巨大化していったそうだ。


「あの巨大な化物はローレンド領都からディレントル鉱山の間にある街も村も農場も森も湖も、そして共に出立した軍隊も全部飲み込んであのような姿になっていたようです」


 生き残った隠密兵は、真っ直ぐに王都に向かって進行している化物を避け、遠回りして王都を目指し戻って来たため報告が遅れたそうだ。だから詳しい情報が着く前にリドルカさんが化物と対峙し、俺たちが大慌てで鉱山の住民を避難させることになったわけだ。


「タケユキ殿が気がつかなかったら、先んじて住民に紛れ込んでいた尖兵に離宮を乗っ取られていたやもしれません。ローレンド軍そのものは化物に飲まれてしまいましたが、取り調べた尖兵によると敵は皇都へ攻め入る前にディレントル鉱山の黒の離宮を奪い、人を魔王石に変える(すべ)を手に入れる手筈だったと述べました」


 魔王石に変える(すべ)? 魔王石そのものではなくて?


「本当に……タケユキ殿には感謝しかない」


 大きく息をついた皇帝は、視線をしっかり俺に向けてきた。以前にも見た、皇帝然としたその目を見て俺もきちんと向き直る。気になることがあったけど後で聞こう。

 皇帝はひとつうなずくと、真面目な顔で話をはじめた。


「タケユキ殿に頼みがある。ぜひ、我が妹パレアーナと婚姻し皇家に入ってもらいたい」


 ──は?


「おっ、お兄様っっ!?」


 パレアーナさんも寝耳に水のようだ。ものすごく混乱しているし湯気が立ちそうなほど真っ赤だ。


「お断りします」


 キッパリ返したら、パレアーナさんは「はうっ」と変な声を上げて胸を押さえた。ごめんなさい、こうゆうことははっきり言っておかないとあやふやにしてたら合意と勘違いされる。と、ばーちゃんもじーちゃんも母さんも言ってた。


「そうか……。了承してもらえれば一番良い形で其方を国に留め、協力を求めることも庇護することも叶ったのにな」


 少し寂しそうに言う皇帝。


「リドルカの友人という立場だけでは弱いのだ。其方が女ならば、リドルカの花嫁として迎えることもできたろうに」


 今度は俺が胸を押さえる羽目になった。

 そうだよね。皇帝の弟さんなんだもんね。欲しいのはお嫁さんだよね。もともと諦めていたことだけど、家長であるお兄さんにそれを突きつけられたら、悲しい。


「今の帝国では“攫ってきた神族”である其方を庇護することはできない。身勝手極まりない話だがな。更に元いた場所へ帰してやることも叶わん」

「トマシウスお兄様!?」


 パレアーナさんが憤ったような声で皇帝に詰め寄ろうとしたが、アスノンさんがやんわりとそれを止めた。

 皇帝が口にしたことは、とっくに考えていたことだからそれについてはなんとも思わない。


「顔もわれてますもんね。確実に目をつけられているならじー……オーリー先生にも迷惑かけてしまいます」

「オーレリアからは、其方はいずれ人を避けてどこかの孤島に一人、移り住むつもりだと聞いたが。ここを出れば、そうするつもりなのか?」

「そうですね……」


 でも、と続く言葉を発する前に、底冷えがするような冷気を感じて見上げれば、リドルカさんが真っ黒なモヤを揺らめかせながら目を見開いて俺を見ていた。


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