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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
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第四十五話


「バカな子だねまったく。全力で温泉掘って倒れたなんて」


 ごめんなさい、ばーちゃん


「いいじゃねぇか、温泉だぞ、温泉! すげーぞタケユキ」


 じーちゃんはうれしい? よかった


「あんたはタケを甘やかしすぎじゃないのかね」

「ばーさんが行きたがったから掘ったんだろ? なあタケ」


 うん


「はあ、仕方ない子だねえ」

「そう言いながら、早速岩を運んで岩風呂作って来たのは誰だい?」

「そりゃね。孫が掘り当ててくれた温泉を使えるようにするのは婆として当たり前だよ」

「そんな婆はおめえさんだけだ。はははははっ」


 ばーちゃん、よろこんでくれたの?


「ああ、嬉しいよ。早く元気になんな、一緒に入りに行こうな」


 うん……いっしょに、いっしょにいこうね。



 


 懐かしい、夢を見た。


 なんだかホワホワ暖かくて、うとうと目が覚めたらリドルカさんがいた。

 またベッドに連れ込まれちゃったのか、一緒に寝ていたよ。

 リドルカさんが俺が目覚めたことに気がついたみたいだけど、抱きしめてくれている腕が気持ち良くて、すぐにまた眠ってしまったよ。



 次に目を覚ました時もまたリドルカさんがいた。

 リドルカさんは起きていて、俺のひたいにそっと手をやる。


「まだ、眠っていた方がいい」


 そう言った後、ベッドから出ようとするので思わず服の裾を掴んでしまった。リドルカさんは少しの間、固まってしまったけどすぐに気を取り直してベッドに腰掛け俺の頭を撫でてくれた。それに安心して、俺はまた目を閉じる。



 次に意識が戻った時。

 そばに誰もいなかった。

 けど、それまでのうつらうつらしていた時と違って、なんだか頭がはっきりしている。


 俺、なんかすごく恥ずかしいことしなかったか?


 じーちゃんとばーちゃんと暮らしていた時の夢ばかり見てた気がするから、その流れでリドルカさんにむちゃくちゃ甘えてたのを思い出した。いい歳して子供みたいなことを──

 と、頬を押さえて悶えていたら突然扉がバンッと荒っぽく開けられた。

 リドルカさんだ。


「ちょっとお兄様! 病人が寝ている部屋に──あっ! 起きたのね!? タケユキっ!」


 パレアーナさんだ。


「だったらそう言ってください、お兄様。突然立ち上がって寝室に向かわれてはびっくりするじゃないですか!」


 リドルカさん、言葉が少ないからな。

 でも、隣の部屋にいて俺が起きたことよく気がついたな。すごいよリドルカさん。

 叱られながらもずんずん俺に近づいてきたリドルカさんは、俺のひたいに手を当てた。もう熱は治ってると思うよ。クラクラしてたのは楽になってる。体はまだだるいけど。

 そっとリドルカさんの隣に来たパレアーナさんも俺の顔を覗き込む。


「大丈夫? タケユキ」

「だ……ケフッケフッ」

「あっ! 水よ水!」


 パレアーナさんが慌ててサイドテーブルの水差しからコップに水を入れてくれた。それをリドルカさんに手渡し、リドルカさんが片手で俺の背を起こしてコップを唇に当ててくれる。ゆっくり水を口に含み、飲み込む。

 ほう……と息をついた。


「ありがとう、ございます」

「いいのよ。いいの……グスッ」


 え? なんで涙ぐむの?


「お兄様、医師を呼んできますから。部屋に入れてもいいですね?」

「………………」

「いいですね!?」

「……ああ」


 よく見たらここってリドルカさんの部屋だ。

 なんで俺、寝込んでるんだっけ?

 思い出さなきゃ、と考えていたら背に回されたリドルカさんの手がゆっくり下されまたベッドに寝かされた。まだまともに起きれそうにないからいいけど。

 リドルカさんはそのままベッドサイドに座り、俺の頭を撫でたり、頬を撫でたり、ハッと気がついて布団をかけ直してくれたりした。その後は、じっと俺を見ている。

 なんか、その視線が落ち着かない。

 以前のように睨まれているわけでもないし、なんだろうね。

 リドルカさんの心は読めないし、まだ疲労感が抜けない状態で超能力は控えよう。まあ、何があったか思い出す方が先か。

 ……えっと

 

 テロリスト、鉱山の町、黒い化物、魔物、白の離宮、避難民。なんか色々あったなぁ。


 ポツポツ思い出し始めた頃に、パレアーナさんが二人の医師を連れて戻ってきた。白い服の医師と黒い服の医師。たぶん、神属医師と魔属医師といったところだろう。

 医師が礼をして入ってくると、リドルカさんは部屋の隅に行って壁にもたれて腕を組む。なんでお医者さんを睨んでいるの? お医者さんたち、ちょっと震えたよ。


「お兄様。典医を睨まないでください。タケユキ、二人とも信頼できる医師です。診察させますが、よろしいですね?」

「はい、よろしくお願いします」


 心が読めないとちょっと不安もあるけど、御典医さんなら新皇帝派だろうし。


「失礼します」


 と言って、白い服のお医者さんが俺の腕をとった。

 こっちでも脈を見たり、喉の腫れを見たり、心音を聞いたり、基本的なところは同じなのか。なんだか懐かしい気がする。

 超能力関連はばーちゃんしかなんともしようがなかったけど、病気なんかは父さんがいつも駆けつけて診てくれた。父さんはお医者さんだから。

 父さんも元気でいるかな。


「順調に回復されているようです」


 御典医さんがホッとしてそう言った。

 リドルカさんに抱えられて皇城に戻ってきた俺は、死んでるようにしか見えなかったそうな。とにかく、リドルカさんがものすごく怒ってて、オーレリアさんやカトリーネさんに取りなされてやっと治療ができたらしい。

 けど、俺には神術による治療も魔術による治療も効かなくて典医は自身の命の危機を感じながら必死に頭を絞り、カトリーネさんの助言も聞きつつ投薬にて治療を始めたそうだ。

 ありがとうございます。

 ちなみに、俺は十日も眠っていたらしい。

 見立てでは極度の疲労と言われたけど、まったくその通りなのでうなづいていたら、なぜかまたリドルカさんが睨んでいる。言わないとわからないよリドルカさん。

 診察を終え、御典医たちは礼をして出て行った。


「起き抜けに診察で疲れたでしょ? 今日はもう休んで。明日、体調がいいようならトマシウスお兄様がお話がしたいって言ってるの」


 皇帝さんが?


「本当はお姉様方も話がしたかったみたいだけど、オーレリアお姉様は情報を精査したり采配するのに忙しいし、カトリーネお姉様はディレントル鉱山や離宮の視察と魔傷を負った人の治療をしに行ってて忙しいの」


 皇帝さんは?


「大丈夫かしら?」

「……はい。大丈夫です」

「そう、よかった。じゃあまた明日。私も来るからね」


 それだけ言うと、パレアーナさんも寝室を出て行った。

 残ったのは壁際のリドルカさん。

 なんで怒ってるのかな。眉間にシワが入っているよ。

 誰もいなくなった部屋をのしのしと歩いてベッドまでやってきたリドルカさんは、俺の肩を軽く押す。寝ろと言われてる気がしたのでコテンと横になったら、今度は胸の上に手を置かれた。

 ああ、紫の石の攻撃を受けたところだ。


「怪我も障りもないと、皆が言う。だが、あれの威力は俺でも防げたかわからんものだった」


 リドルカさんの眉が歪む。泣きそうに見える。


「魔力か神力の攻撃だったみたいですね。俺には通じません。何か当たったな、くらいにしか感じませんでしたよ」

「だが、おまえは死にかけた」

「う、それは、恥ずかしい話ですが、体力の限界を超えただけです」

「体力?」

「俺の力は、使いすぎると疲れるんです」

「魔に落ちたり、光になって消えたりするのか?」


 神力は使いすぎると消えちゃうのか……


「違います。疲れるだけです。全く種類が違うんですよ」

「それほど、くたびれていたのか。アスノンから話は聞いた。民を助けて回ったと」


 民を助けた、か。

 リドルカさんにそう言われると、ちょっと恥ずかしい。頬が熱い。


「あれは、その。ちょっと無茶したなって、自分でも思っています。でも町の人が死んだらまたリドルカさんのせいだって言いふらされるんでしょ? それが嫌だっただけなんですよ」


 正直、あの町の人にはなんの義理もなかったし。中には魔物の群れに放り投げたくなる人もいたけど、仕方ないから助けたよ。

 俺が心の中で言いにくい言い訳をしていたら、いつの間にかリドルカさんが目を見開いて固まっていた。

 

「リドルカさん?」

「なぜ……」

「? なにがですか?」


 何を問われているかわからないでいると、リドルカさんに抱きしめられた。


「もう、命を削るような真似は……するな」


 その声は震えていた。

 泣いているような声だ。

 俺はリドルカさんを抱きしめ返そうとして、やめた。

 

 できなかった。


 俺はまだ、決めかねている。

 もうしないとは、まだ言えない。


 リドルカさんの腕の中は暖かくて、またうつらうつらし始めた。 

 ここに来てから、俺はリドルカさんに甘えっぱなしだな。


 申し訳ないと思いつつ、今は夢の中に逃げることにした。

 ごめんなさい、リドルカさん。


 リドルカさんはそんな俺を、ずっと抱きしめてくれていた。



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